細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・教育者のブログです。

品質確保と人

2014-06-16 12:39:55 | 研究のこと

以下の文章は、「コンクリート工学」誌の9月号の特集で寄稿を依頼されたものです。原稿には修正が入ると思いますが、草稿をブログに掲載しておきます。
非常に長いですが、現時点での私の、コンクリート構造物の品質確保に関する思いを込めました。

++++++++++++++++ 

「品質確保と人」

1. コンクリート構造物の品質確保の難しさ

吉田徳次郎博士は,著書「鉄筋コンクリート設計方法」において,「鉄筋コンクリートをして十分にその特長を発揮させるためには,適当な設計と同時に正直で親切な施工が極めて大切である。」と述べ,「鉄筋コンクリート構造物の強さは主としてコンクリートの強さによるばかりでなく,耐久性,外観,等もコンクリートによるものである。」とコンクリートの施工の重要性を指摘している1)。さらに,鉄筋コンクリートの欠点の一つとして,「施工が粗雑になり易いこと」を挙げており,その主な原因として以下の3つに言及している。

i)「従来,土木の工事をする人の間にはコンクリートその他に関する示方書は確実に実行されないのがあたりまえであると考える習慣があり,従って工事請負者は示方書通り施工しないことを予想して法外に安い値段で工事を落札し,工費の方から正当で必要な施工をすることができないこと」

ii) 「作業手や工事監督者が鉄筋コンクリートについての十分な知識がないために,主としてコンクリートの重量を利用するコンクリート構造物の場合における習慣にとらわれ,故意でないにしても示方書に従って完全な施工をすることに努力しない場合があること」

iii)「鉄筋コンクリート構造はでき上がりさえすれば,その施工の良否はあとから容易にわからないということが,知らず知らず作業手その他の人の頭に働いて,各自の労力を省くことばかりを考えるようになり易いこと」

吉田先生も著書の冒頭部で警笛を鳴らすほど,コンクリートの施工が適切になされることは容易ではないのである。そして,吉田先生の時代とは異なり,現代の日本においては,ポンプ施工,強度発現は確実であるが耐久性の観点からは疑問府の多いセメントへと変遷していること,過密配筋の問題等もあり,構造物のコンクリートの品質確保はますます困難になっていると言える。

「社会的ジレンマ」とは,「協力」か「裏切り(非協力)」のいずれかを選択しなければならない社会状況,と定義されている2)。コンクリート構造物の品質が確保されるためには,施工者のみならず,発注者,設計者,材料供給者,さらには学,のプレーヤー等の協働が必要であるが,適切な協働により我々が属する社会は多大なメリットを享受できると筆者は考えている。現実には種々の理由で適切な協働が行われておらず,コンクリート構造物の品質確保が実現できていない。これは一種の社会的ジレンマである。現代の日本の諸状況を勘案して,この社会的ジレンマを克服していく努力が必要である。

2. 構造物の品質確保が達成されずに失うもの

吉田徳次郎博士が56年前の著書(第三次改著)において喝破されたように,コンクリート構造物の建設に関わる各個人が自己中心的に行動した場合に,社会全体が失うものとは何であろうか。社会全体が失うものはいくつもあり,それらの内容は時代が変わっても本質的には変わらないが,それぞれの影響度合いが時代によって異なるのではないかと筆者は想像している。

物事のすべてに長短の両面があり,それは人間のものの見方に依存していると言える。また,どの時代にも,自己中心的で傲慢な,オルテガの言う「大衆的な」人々3)は常に存在し,一方で,常に公共的な利益の増進のために行動する「非大衆的な」人々が奮闘している。例えば高度成長期に膨大なインフラが短期間で整備されたことが,多くのコンクリート構造物の早期劣化につながったとよく指摘されるが,先人たちの尽力によるインフラの整備のおかげで社会・経済活動が活性化したなどの多大なメリットは確実に存在したのである。また早期劣化でさえもコンクリートの耐久性や維持管理の分野の研究の著しい進展につながっていると考えることさえもできる。

現代の日本において,特に東日本大震災の後の現在において,いまだに続く不況の中での過度な競争のもと,コストが最重要視される状況において,品質確保が達成されずに失うものとは何であろうか。構造物の早期劣化が繰り返されるということはもちろんであるが,もっと大きなものが損なわれる危惧を筆者は感じている。1991年以降の独占禁止法の強化を契機として,1994年度より,大規模な工事について一般競争入札方式の本格的な採用がなされ,1900年の指名競争入札の導入以来の大改革となった。それ以降,指名競争入札という制度の中において低コストで担保されていたと言える公共工事の「品質」の確保が重要な課題であり続けている。本来は,品質確保を達成するためには発注者側の人員,コストを増やす必要があるという考え方もある。工事の監督や検査について,指名競争入札時代よりも,頻度も項目も大幅に増やして臨まなければならないからである4)。しかし,公共事業バッシング,公務員削減の大号令の中,そのような方向には社会は向かってこなかった。

コンプライアンス,透明性,合規性等のキーワードがもてはやされ,書類仕事が著しく増大しており,真に重要な業務に時間を割けない状況となっている。それにはほとんどの人が気付いているはずである。お題目としての「品質確保」は謳われているが,本当に構造物の品質は確保できているであろうか。仕組みの議論ばかりがなされており,現場での実践的な議論がおろそかになっているように筆者は感じる。

村上春樹氏の長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」には「文化的雪かき」という表現が出てくる5)。内田樹氏によれば,村上春樹の労働哲学が集約された表現である6)。一人一人の雪かき仕事のような無名の,ささやかな献身の総和として,世界は辛うじて成り立っている。しっかりと仕事をすることが,壮絶な悪により大事なものが壊されていくことを食い止める唯一の方法であろう。構造物の品質よりももっと大事な根幹的なものが壊されていくことを,食い止める必要があるのである。

我々が何をなすべきかを,目をそむけずにしっかりと見据え,そして協働のネットワークのもと,一人一人がしっかりと仕事をしていくしかないのである。

3. 施工時に発生する不具合が私たちに語りかけること

筆者は,後述する山口県のひび割れ抑制システムや,東北の復興道路の品質確保に携わる中で,施工時に発生する不具合に対する見方が大きく変化した。

施工中に発生する温度ひび割れ,コンクリート表面に発生する沈みひび割れ,表面気泡,打重ね線,型枠継ぎ目のノロ漏れ,砂すじなどは,施工時に発生する不具合と呼ぶことができる。不具合と思われない方もおられるかもしれない。それは読者にお任せする。

実際,2013年のJCI年次大会で,筆者も関わっている目視評価法7),8),9)に関する研究発表がなされたとき,建築分野の座長から「欠陥がないコンクリートを美しいと思っているのか?あなたは,ル・コルビュジェのラ・トゥーレットの修道院を知っているか?コンクリート表面は欠陥だらけである。美を語るのであればもっと勉強してもらいたい。」との趣旨の厳しいコメントが発表者に対してあった。不具合の無いつるつるの表面のコンクリートを美しいと思う人もいれば,ラ・トゥーレットの修道院を美しいと思う人もいる。美とは主観的である。

筆者が気付いたことは,施工時に発生する不具合が美しい,美しくないということではなく,施工時に発生する不具合は人間のシステムの不完全性を我々に教えるサインである,ということである。施工の基本事項の遵守がなされていない場合もあろう。コンクリートの材料に問題がある場合もあろう。有害なひび割れが発生しないような設計になっていない場合もあるかもしれない。発注者の監督職員が本来の業務を適切に行っていないのかもしれない。いずれにせよ,コンクリート構造物の出来栄えは,人間のシステムの良し悪しを示しているものと理解し,施工時に発生する不具合を活用して,私たちのシステムを改善していくのが賢明であると考えている。

一事が万事である。私は建築には不案内であるが,例えば,建築物でコンクリートの出来栄えが著しく悪い時に,コンクリート以外の他の部分の出来が素晴らしいということはあり得るのだろうか?コンクリートにはしわ寄せが行きやすい可能性もあるが,同じシステムの中で造られている以上,他の部分の出来も推して知るべしというのが私の考えである。コンクリートという教示的な材料を通して,私たちのシステム,仕事のやり方を改善し,隅々までが良くなっていく可能性に私は大きく期待している。

4. 品質確保を達成するために

コンクリート構造物の品質確保はどのようにすれば達成できるであろうか。私は,この問題は,実は品質確保ではなく,耐久性確保の問題であることが分かってきた。初期品質がしっかりすることはもちろんであるが,供用期間の非常に長いコンクリート構造物の耐久性を確保することは非常に困難な課題である。特に,厳しい環境条件で供用されるインフラの耐久性確保は,産官学が協働で取り組むべき大きな課題である。

筆者は基本的に性善説に立つ人間である。しかし,筆者自身の中にも善と悪は混在する。すべて性善説に立って取り組む必要もないし,性悪説に立ってすべてを制度で解決する必要もない。中庸が重要である。品質確保を達成する場合,どちらのアプローチも必要になると考えている。

例えば,コンクリートの単位水量試験を行ったり,かぶりの非破壊検査を行ったりと,性悪説というわけではないが,検査を強化する方向性も十分に考えられる。ASRを防ぐためには現在の国家規準では十分ではないという研究者もおり,自己防衛というキーワードで国家規準の上を行くASR対策を取る事業者も存在する。しかし,筆者は,すべてを制度に頼ることもよくないと考えている。必ず制度の隙を縫って悪さをするものが出てくるであろうし,検査のみが強化されていった場合には人間本来の創造性も発揮されにくくなるのではないかと想像する。

筆者は,品質確保を達成することが目的であるとは思っていない。品質確保が達成される仕組みを作ることがゴールとも思っていない。そうではなく,品質確保,さらには耐久性確保を達成しようとベストを尽くし続けること自体に意義があると思っている。それはマネジメントであり,すなわち社会状況が変化し続ける中でマネジメントし続けることに意義があるのである。

次章以降では,品質確保のマネジメントシステムの好例である,山口県のシステムと,チャレンジが始まった復興道路の品質確保の取組みを紹介する。

5. 山口県のひび割れ抑制システム

2007年度から運用の始まった山口県のひび割れ抑制システム10),11)は,私の知る限り,日本の土木分野で最高レベルのPDCAシステムであり,協働のシステムである。施工中に発生する温度ひび割れを抑制するためのシステムである。

ひび割れの発生や,ひび割れ幅を事前に精度よく予測する技術が十分には確立されていない中で,2001年の国土交通省通達「土木コンクリート構造物の品質確保について(国管技第61号,2001年3月29日)」を契機に,建設現場では,ひび割れの検査が強化されることとなった。その結果,ひび割れに関連して,受発注者間で補修の要否を巡った問題も多く生じており,実務において打開策が必要とされていた。コンクリートだけでなく,人間関係にもひび割れが生じていたのである。

山口県のひび割れ抑制システムは,結局は人の物語である。システムに関わる学のリーダーである田村隆弘先生(徳山工業高等専門学校)が2002年から行っていたコンクリートよろず研究会でひび割れの勉強を施工者,材料供給者らと行っており,2004年に開催した研究会の成果報告会に,システムを構築した官のリーダーである二宮純氏が参加した。一方で,その二宮氏はひび割れを巡っての不機嫌な現場,発注者の仕事のやり方,発注者業務の支援組織である建設技術センターのあり方にも強い問題意識を持っていた。施工者団体からの強い要請を受けた山口県は,ひび割れ問題の解決へ歩みだすことになる。

山口県のひび割れ抑制システムの構築は,2005年度に実施した実構造物での試験施工からスタートする。各種のセメント,膨張材,高性能AE減水剤,合成短繊維などを用いたコンクリートの効果も検証したため,試験練りや強度確認など,材料供給者も当初から大いに活躍した。発注者も本気になっての試験施工であるから,施工者も施工の基本事項を遵守するためにベストを尽くした。実際に,試験施工が始まってから,不適切な施工が主原因となる「施工由来のひび割れ」が激減したことがデータでも示されている12)。そして,施工の基本事項が遵守されたとしても防げないひび割れが厳然と存在することを,皆が実構造物の結果として理解し,設計段階でのひび割れ抑制対策の必要性を発注者が深く認識することにつながった。現時点では,ひび割れを無害なものに抑制するために必要な対策費として補強鉄筋や誘発目地などの材料費および施工費は発注者が負担しているし,ひび割れ抑制対策が施工段階ではなく,なるべく設計段階で講じることができるように検討が進められている。そして,2013年4月からは,施工の基本事項の遵守がシステムとして達成されてきていることを受け,補修を必要とするひび割れが発生した場合でも,施工が適切に行われていることが確認された場合は,工事成績評定において減点をしないように変更した。協働の意識を持って,それぞれの立場のプレーヤーが本分を果たすことにより,構造物の品質は向上し,システムも改善されていくのである。

山口県のひび割れ抑制システムの根幹の一つは,施工の基本事項の遵守が各現場で達成されたことである。それにより,ひび割れも抑制されたが,かぶりの品質(表層品質)も確実に向上していると筆者は直観し,各種の評価手法を用いて実証した12)。ひび割れを抑制する努力の結果,かぶりも含む構造物全体の品質が向上していたのである。

これを受け,山口県のひび割れ抑制システムは2014年度に品質確保ガイドへと移行し,2014年6月12日に「コンクリート構造物品質確保ガイド2014」の講習会を開催した。品質確保ガイドは山口県のHPで閲覧が可能である。

山口県のシステムは真のPDCAシステムである。施工の基本事項が遵守された現場のコンクリート施工記録(ひび割れの結果も記録)が蓄積されるため,ひび割れ抑制対策の効果も適切に検証される。設計段階でデータベースに基づくひび割れ抑制対策が講じられることはもちろんPDCAが実際に機能している最前線の様子であるが,実は品質確保ガイドも遠くない将来に改訂される予定である。完全なシステムを組むことを目的にするのではなく,一歩でも現状を改善しつつ,システムそのものも運用実態を見つつ,改善していく予定にしており,これが真のPDCAと筆者が考える所以である。後述する復興道路の品質確保での取組みの状況等,世の中の最新動向も見据えながら,品質確保ガイドも進化を重ねるであろう。

6. 復興道路のコンクリート構造物での品質確保のチャレンジ

東北地方の復興を力強く支えるための三陸沿岸道路(復興道路)と,その復興を支援するための内陸から沿岸部を東西に結ぶ復興支援道路の建設が急ピッチで行われている。言うまでもなく,多くの地域で凍害のリスクが高く,凍結防止剤を大量散布するため,構造物にとっては非常に厳しい環境であり,供用中の過去に建設された構造物の劣化は著しい。

この環境作用の厳しい地域に,ひと・もの・時間の制約条件が大きい中,100年以上の耐久性を有する構造物群を建設することは非常に困難である。国土交通省の東北地方整備局は,そのために,既設構造物の劣化状況の分析に基づいて,水廻りを含めた設計面での対応,ジョイント部への配慮,凍害抵抗性を向上させるための空気量の確保,PC橋梁箱桁の上床版への防食鉄筋の使用などの検討を進めてきている13)14)。これらの検討と合わせて,コンクリート構造物の表層品質の緻密性の確保を達成するため,山口県のひび割れ抑制システムで開発された施工状況把握チェックシート15)と,筆者らが開発した目視評価法の活用8)13)を決断し,試行工事が本格化しようとしている(図1)。



図-1 復興道路におけるPDCAシステムの構築

多岐に渡るコンクリート構造物の耐久性確保のシナリオは複雑である。ここでは,トンネルの覆工コンクリートを例に挙げて,現在の東北での品質確保,耐久性確保の動向を説明する。東北地方整備局が,これまでの点検結果等をもとに新設のトンネルの覆工コンクリートの耐久性を確保するために必要と考えている事項は,筆者の理解する範囲では以下の通りである。

(1) トンネル坑口の耐凍害性の確保。凍結防止剤の散布の影響もあり,スケーリングに対する抵抗性を十分に持つことが期待される。

(2) 施工目地部の不具合の防止。施工目地部の不具合が早いもので建設後15年程度で顕在化する場合があり,復興道路等のトンネルで同様の問題が多発すれば,道路管理への負担が著しく大きくなる。

(3) 覆工コンクリートの天端の縦断方向のひび割れ,側壁にインバートの拘束により発生するひび割れの抑制。

上記の(1)を達成するためには,コンクリートを十分に緻密にすることに加え,エントレインドエアが十分に分散することの必要性が研究者により指摘され始めている。ポンプ圧送や締固めを経たコンクリートで適切にエントレインドエアを確保することは容易ではない。従来の覆工コンクリートの標準的な施工方法では達成できない目標であり,復興道路等の現場では,型枠の存置期間を一週間以上としたり,従来よりも高いグレードのコンクリートを用いるなどの対策がなされ始めている。その効果は,表層透気試験や表面吸水試験等で検証され始めている。従来の標準的な施工方法で達成できない目標であるため,いずれは仕様の変更や,標準歩掛の見直しなどにもつながる可能性がある。真に耐久性を確保するためには,それに見合う投資が必要なのは当然であろう。

上記の(2)を達成するためには,施工が適切に行われる必要がある。18時間程度で脱型することがこれまでの標準的な施工方法であり,施工目地部で不具合を生じないためには厳しい条件である。しかし,筆者も品質確保に関わった田老第六トンネルでは,施工目地部での不具合はほとんど発生しておらず,適切な施工により解決できる問題であると認識している。

上記の(3)については,東北地方整備局では,竣工後5年以内に0.3mmを超える幅のひび割れが発生した場合には施工者の責任で補修することを規定している。既往のトンネルのひび割れの調査結果に基づく規定である。田老第六トンネルでは,全長305mのトンネルの貫通後,覆工コンクリートの施工が完了後の2014年6月時点で,いまだにひび割れは一本も発生していない。坑口を除く一般部においては国土交通省の標準的なコンクリートを用いているが,適切な施工,特に十分な養生を施すことで,トンネル覆工コンクリートのひび割れは抑制できることを示す一例である。

田老第六トンネルでは,筆者も参画する形で,目視評価法によるPDCA16)や表面吸水試験17), 18)を活用して適切な施工がなされるよう最大限の努力がなされた。トンネルの天端も含む各部位での表面吸水試験も実施しており,それらの詳細な結果は別途報告する予定である。今回,新たに覆工コンクリート用に目視評価法を開発したが,施工のサイクルが早いこと,足場が無くても目視評価が可能なことなど,目視評価法と覆工コンクリートの親和性は高いと感じた。ただし,実際にPDCAを回していくことは容易ではなく,そのノウハウこそが技術力であると考える。

東北地方整備局の管内では,橋梁の下部工を中心に,施工状況把握チェックシート,目視評価法の試行が始まっている。特記仕様書にこれらの手法を活用することが記載されており,2014年度から本格的に始まる試行工事で,品質確保のための実践的な知見が蓄積されていくであろう。そして,総合評価方式の技術提案では,耐久性確保につながるための施工方法の提案を求めているのである。ここでは養生方法は技術提案として認められない。それは,真に耐久性を確保するための養生が十分に明らかにされておらず,これまでの標準的な方法では不十分である場合もある可能性があるからである。これは施工者の創意工夫の問題ではなく,産官学の協働での取組みを通じて標準のあり方を見直すべき問題なのであろう。

復興道路の品質確保においては,産官学の本格的な協働が始まっている。官学,産学等の連携は以前からなされていたことは言うまでもないが,品質確保を明確な目標に設定しての協働が力強く前進し始めている。筆者も,2013年9月3日に東北地方整備局にて,各国道事務所の監督職員等50名以上を対象に,2時間に渡って施工状況把握チェックシートや目視評価法の活用方法について講義を行った。その後も,各種の講習会を重ね,2014年6月には,南三陸国道事務所や三陸国道事務所で施工者,監理PPP,監督職員等を対象にした品質確保の研修,目視評価法の実技研修の講師も務めており,現場での実践が着実に始まっている(写真1,2)。取組みを着実に広く展開していくための方策も協働で検討しているが,上記の研修をビデオ撮影して他の事務所で活用することも実施している。



写真1 南三陸国道事務所での品質確保の勉強会(2014年6月4日)



写真2 南三陸国道事務所での勉強会後の目視評価の実技講習(2014年6月4日,中央:筆者)

施工状況把握チェックシートや目視評価法は,手法が完全に確立されているわけではない。東北地方整備局での試行工事では,これの手法は決して検査の手法として用いられているわけではない。施工状況把握チェックシートは本来は監督職員の監督行為の中の「把握」をサポートするための仕掛けであるが,このシートは施工者の施工計画や施工管理にも活用され得る。目視評価法も往々にして品質の検査と思われがちであるが,少しでも品質を向上させるためのPDCAのツールである。そして,双方のツールともに,実は産官学のプレーヤーの協働的なコミュニケーションを醸成する効果が最も期待されているのであり,それを毎回の講習会で強調している。

施工状況把握チェックシートについても,様々な応用が考えられる。例えば,青森での厳冬期での施工においては,山口県が温度ひび割れ抑制のために開発した施工状況把握チェックシートでは品質確保は十分に達成されないであろう。そこで,八戸工業大学の阿波稔先生を中心に,青森河川国道事務所の上北道路を舞台に,寒中コンクリート用の施工状況把握チェックシートの開発,目視評価法などによる効果の検証の取組みが産官学の協働で開始されており,この成果が広く展開されることにも期待している。

現時点での筆者の認識は,品質確保とは人の問題である。品質確保へのチャレンジを通じて,人の仕事のやり方を改善し,協働の場の中で人財がたくさん育つ取組みとなり,それが全国に拡がることを大いに期待している。本稿がその一助となれば幸いである。

参考文献
1)  吉田徳次郎:第3次改著 鉄筋コンクリート設計方法,養賢堂,1958.
2) 藤井 聡:社会的ジレンマの処方箋-都市・交通・環境問題の心理学,ナカニシヤ出版
3) 藤井 聡,羽鳥剛史:大衆社会の処方箋,北樹出版,2014.
4) 大石久和:日本人はなぜ大災害を受け止めることができるのか,p.178,海竜社,2011.
5) 村上春樹:ダンス・ダンス・ダンス,講談社,1988.
6) 内田 樹:もういちど村上春樹にご用心,アルテスパブリッシング,2010.
7) 坂田 昇,渡邉賢三,細田 暁:コンクリート構造物の品質向上と表層品質評価手法,コンクリート工学,Vol.50,No.7,pp.601-606,2012.
8) 細田 暁:目視評価法を活用したコンクリート構造物の品質向上マネジメント,建設物価/2014. 2月号,pp.10-15,2014.
9) 細田 暁,坂田 昇,田村隆弘,二宮 純:目視評価を活用した山口県のひび割れ抑制システムによる表層品質向上の分析,コンクリート工学年次論文集,Vol.35,No.1,pp.1837-1842,2013.
10) 細田 暁,田村隆弘,二宮 純:山口県のひび割れ抑制システムによる各プレーヤーの技術力の向上,土木技術,67巻 10号,pp.33-38,2012.
11) 国重典宏,田村隆弘,二宮 純,森岡弘道:山口県における「コンクリートひび割れ抑制システム」について,コンクリート工学,Vol.49,pp.91-95,2011.
12) 細田 暁,二宮 純,田村隆弘,林 和彦:ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上,土木学会論文集E2,査読修正中
13) 日経コンストラクション:「強度=耐久性ではない」,pp.64-69,2013年8月26日号,2013.
14) 日経コンストラクション:「JISの「一段上」行くPC桁,東北地整が標準仕様に」,2014年3月28日号,2014.
15) 森岡弘道,二宮 純,細田 暁,田村隆弘:地方自治体におけるコンクリート構造物のチェックシートを活用した品質確保の取組み,コンクリート工学年次論文集,Vol.35,No.1,pp.1327-1332,2013.
16) 佐藤幸三,児玉直幸,八巻大介,小滝恵三,細田 暁:覆工コンクリートの表層品質評価手法の確立と品質向上への取組み(その1)-目視評価-,土木学会年次学術講演会講演概要集,2014(投稿済)
17) 伊藤忠彦,児玉直幸,八巻大介,小滝恵三,林 和彦,細田 暁:覆工コンクリートの表層品質評価手法の確立と品質向上への取組み(その2)-表面吸水試験(SWAT)-,土木学会年次学術講演会講演概要集,2014(投稿済)
18) 林 和彦,細田 暁:表面吸水試験によるコンクリート構造物の表層品質の評価方法に関する基礎的研究,土木学会論文集E2,Vol.69,No.1,pp.82-97,2013.




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