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「大放言」 その5 百田尚樹

2017年06月18日 00時10分16秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「大放言」 その5 百田尚樹  新潮新書 2015年

 「私は寝てないんだよ」 その1 P-12

 会見の席上で述べた正式な発言でなく、記者との会話の中でひょいと飛び出した言葉でもメディアは容赦しない。
 たとえば10数年前、集団食中毒事件を起こした某食品メーカーの社長が言った「私は寝てないんだよ」という言葉は、不祥事を起こした企業のトップの許されざる開き直り発言として、マスコミから大バッシングされた。

 しかしそれほどまでに糾弾される言葉であろうか。これは、1週間はほとんど不眠で原因調査をしていた社長が、謝罪会見の後、会社のエレバーターの前で記者につかまって強引にインタビューされた場での発言だ。この時はまだ食中毒の原因が不明だったが、「わかったら発表します」と言う社長に対して、記者は何か事実を隠しているんだろうと、インタビューの継続を迫った。疲れ切っていた社長は、「では、あと10分」と言った。すると記者は「何で時間を限るのですか」と詰問した。そこで出たのが「そんなこと言ったってねえ、私は寝てないんだよ」というセリフだ。

 この言葉に、正義に燃えるマスコミは食らいついた。まさしくピラニアのごとく一斉に襲いかかった。週刊誌は大きな問題発言として大々的に書き、テレビ局は連日あらゆるニュースで「私は寝てないんだよ」と言うシーンだけの映像を流し続けた。「不祥事を起こしておきながら、とんでもない逆ギレをする社長」というイメージを社長に与えまくったわけだ。そして会社を倒産に追い込むまで許さない、という猛攻撃が始まったはっきり言って食中毒を起こした構造よりも、この時の社長の発言のほうを「悪」と捉える報道だった。

 ちょっと冷静になれよとと言いたくなる。1週間はほとんど寝ていなかったら、それくらいの言葉はつい誰でも言ってしまうだろう。私なら確実に言う。しかし社長を責める人たちは、「会社が起こした不祥事の責任を感じているのなら、そんな言葉は出てこないはずだ!」という精神論で話をしている。こうなると、もはや論理は通じない。