カッキーYAMA   akihiko tange

手始めに、日常的なことを気の向いたときに載せていくつもり。

戸越の商店街で 

2017-04-07 | エッセイ

戸越銀座を探訪して歩いていたときのこと。何十年かぶりに訪れたので様子が以前とはだいぶ違っていた。舗装は新しくなっているし、街路灯や建物なども大分変わっていて、きょろきょろしながら歩いていた。ふと見ると道脇に灰皿が置かれていた。僕は煙草を吸うので何となく目に入りやすいのだろう。煙草屋の前だった。たぶん店の人が気を利かせて置いたのだろう。ちょうどいい、などと思ったかどうか、そこで一服することに。そこには煙草屋に煙草を買いに来たと思しき人がいた。向こうを向いていたのだ。吸っているところかなとも思った。煙草屋の窓に向かって何か言っているような格好だった。後ろ姿で女と分かった。戸越銀座の通りは行き帰りの人々が多く歩いていた。そこから少し外れたかたちで道脇に突っ立ち、ふわーと煙をたなびかせ、「こんにちは。最近、街中で吸う所が少ないですね・・・」と何となく話しかけた。その時、こちらの声にくるりと振り向いたその女は笑顔でいきなりこう言ったのだ。
「新しい煙草が出ましたぁ!」
「あれっ、お客じゃないの?」
彼女の後ろ、煙草屋の前に低い横長の棚が置かれ、そこに煙草が3種類ほど並んでいるのが目に入った。手作り風の非常に簡易なディスプレイ。
気楽にそこに置いたという感じなのだが、手は加わっている。
煙草屋の人ともお客とも、灰皿のところで吸う人とも、何とも言えない中間に立ったその女は、次々と笑顔でその煙草の説明をし始めたのであった。
「これは普通の味で、これはメンソール入りで・・・・・」
「あ、店の人なの・・・?」
僕から見ると、お客が振り向いて急に売る側に回ったかのような印象だった。
煙草について詳しいかどうかは分からなかったけれど、その3種類については詳しいのかもしれない。少し古びたその棚にはそのシリーズの3個の箱しか並べられていなかったのである。箱にとってはかなり広々としたスペースだ。
「どれどれ・・・?」
もう説明を聞き始め、
「あ、これは知っている。だいぶ前だけどどこかで買ったことがある云々・・・、いつも吸っているのは違うやつでこれだけど云々・・・、これも旨いと思う云々・・・、」
などとこちらも言い、そのインディアンの絵の付いた箱を見比べながら商品説明と今や灰皿のところで一服する人から客となった者とのしゃべりが同時、交互に入り乱れ、1、2分後にはもう
「じゃ、これ、いつものと違うけどあってもいいから買って帰ろうかな、これ一つください。」
となっていたのである。
以前から箱のデザインが気に入ったものの一つだ。
そのインディアンの絵柄の入った、綺麗な黄緑色に赤のアクセントの煙草の箱は、なかば忘れられたように今でも家の棚の上に置かれてある。





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