おはようございます。旅人宿 会津野 宿主の長谷川洋一です。
宿屋の運営が来月で20年になります。
ユースホステルとしても運営していることから、さまざまな旅人さんがおいでになりますが、時に「困ったちゃん」がいたりすることもあります。
応対することで、こちらの心がズタズタになってしまうようなことが起きると、それは強く記憶に残ります。そんな方から再度予約の電話を受けると、瞬間的に、お名前を聴く前から「満室です。またどうぞ。」とお断りすることが年に何度かあります。
よくお客様に、「満室になるわけないでしょ!ウソつかないで!」と言われることがありますが、日本の旅館業法の許可を受けている宿泊施設は特定の理由以外でお客様を断ってはいけないことが定められているので、実を言うと、仕方なくウソをついていることになります。
旅館業法第5条によれば、
第五条 営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
という決まりがあり、宿屋の判断だけで明確にお客様を断れるのは、「宿泊施設に余裕のないとき」だけなので、「満室です」という断り方をせざるを得ないのです。
今月成立した「住宅宿泊事業法」(いわゆる民泊新法)では、こういう規定がなく、インターネットによる仲介で使用される民泊の利用者・提供者双方の評価を用いて、利用者の評価が悪い場合に宿泊を断ることもできます。
民泊新法と旅館業法の釣り合いを取るため、旅館業法第5条の変更を検討するニュースが昨年流れましたが、先日閉会した通常国会に提出された旅館業法改正案には、未許可施設への立ち入り検査権限の拡大などの改正点が盛り込まれたものの、お客様を断る理由の変更は含まれず、旅館業法の許可施設と民泊ではお客様の扱いが異なることになりました。
現在の宿泊予約サイトは、お客様が宿の評価をすることはフツウに行われますが、宿がお客様を評価することはまず行われません。
しかし、民泊サイトでは、お客様の評価を宿も行っています。
ここに、旅館業許可の宿泊施設と民泊の「ひずみ」があると感じます。
社会学者の宮台真司先生は、「仲間と思えるか、思えないか」ということが共同体を構成できるかできないかとよくおっしゃいます。評価されない、あるいは、評価されたくないという、お客様対事業者の関係は、社会の共同体感覚を破壊し、評価されてもそれを乗り越えられる「友達」や「家族」にしか、共同体感覚がなくなってきています。
上下関係のある会社での上司と部下の関係、あるいは、学校での教師と生徒の関係でも、一方的な評価だけがまかり通り、もはや会社は共同体ではないし、学校でも仲間と思える友達としか共同体感覚はない。
ネットオークションや民泊など、ITを使った対等なやり取りの世界では、双方向評価により脱落する方も出ますが、もともと一方向評価で社会が破壊されている現代を考えると、対等な双方向評価の方がマシに感じてきます。
フランスの思想家レヴィ=ストロースは、1955年に刊行された「悲しき熱帯」で、西欧諸国が熱帯の後進国に対し、西欧諸国の方が進んでいるという一方的評価の対し違和感を示しました。
「お客様は神様」という一方的評価は、2017年の日本では大きく崩れてきたと感じます。
旅館業法の宿泊施設では「お客様は神様」、民泊は「仲間たちとシェア」。これが、法律でもはっきりとしました。
民泊を事業として行う不動産関係者からは、民泊新法に規定された180日以内に対し、残りの半年をウィークリーマンションとして貸し出す、「二毛作」で運営することになるだろうとの声が聞こえてくる。
ウィークリーマンションは1週間単位で不動産賃貸するだけのことだから、現行法でも十分に可能だ。
2020年のオリンピックが終わったら、それまでに作り上げる「お互いを認め合うシェア仲間」の空間と、旅館業法で運営する安宿と、どちらが生き残るだろうか。
ちなみに外国人たちは、「仲間たちとシェア」する空間を好んでいることは、ほとんど間違いない。
旅館業許可を返上し、民泊許可へ切り替えることを、本気で検討してみようと思う。
「お客様を断ること」。実に奥が深いことを考えさせられます。
今日も素敵な一日を過ごしましょう。
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