読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

色ガラス その6

2016-12-27 14:55:14 | エッセイ
その年の冬から私の心が激変してきたと思う。
以前から感じやすい人間ではあった。その思いを様々な友人と分かち合う事で生活の釣り合いが取れていたのだと思う。
お人好しで調子が高くて直ぐ人を好きになる女の子、という自分の裏にシリアスな自分がいると思ったのが間違いの初めだった。

一人の人を本気で愛して愛される、その為には他の全てが邪魔ものだと思い込む様になった。
父も母も伯母たちも本当の愛を捨ててる醜い人と実際に見えるのである。
あんなに大事にしてた日常的な生活が出来なくなった。

自分を取り囲む世界全体が非日常的に変わった。
誰かに日常に引き戻して欲しかった。
その時私にとっては最悪の人を選んでしまったのだ。
というのは、非常に繊細で傷つき易く、しかもモテる男だったのである。時に残酷になるタイプである。
今からでは遅いが、しっかりした常識を持ちながら気楽に付き合えるタイプが私の救いになった様であった。

最悪の過程を経た上で、私は異常な興奮に襲われて狂ったのである。
今思い返してもこれはちょっとおかしい以上の事をしたと感じる。
だから、狂気と思われても仕方ないと。

その時は、私に綺麗な色ガラスを与えた祖母は最早この世に居なかった。
色ガラスが音を立てて割れていったのである。

入院治療は周りが思ったよりずっと早く済んだ。
そして退院した時は私は自分が愛された事さえ妄想と思っていたのである。
家の事情を聞こうともしない医師は単なる恋愛妄想と捉えていた様だ。

今まであった色付きの世界の代わりに、鈍い眠い世界に放り出された感があった。
あまり呆けてて、洋服のチャックをはめないままに登校した。
友達に指摘されてもう嫌だと思った。
薬を飲んでたら呆けて、学校へ行けないと思ったのである。
その日から薬を止めた。

止めて頭は働いたが、以前の様に無心に人を愛せなくなった。性懲りもなく夢中になってという気分がいつも付きまとうのである。
永遠の愛を信じ込むと又病気になりそうで怖かった。

薬を止めて卒論も書き、大学を無事卒業したが、薬を全面的に止めた方がいいとは絶対言えない。
私も同様の状況になると弱く興奮状態を数回繰り返したからである。

自分の傾向を理解してくれる医師に相談して日常生活を妨げ無い程度の服用は有効と思う。
それは心の癖を矯正する助けになるからだ。



私がこれ程内的に激変した病気に遭ったと、多くの友達は知らない。
興奮した事も入院した事(春休み期間だった)も知らなかった。
ちょっとノイローゼになったのかとか、失恋して鬱になったかとか言われた。

そして、皮肉な事に泉さんの恋はその頃に実ったのである。
相手の男性は四国で定職を見つけ、苦労をかけた泉さんにプロポーズしたのだった。

肝心の幸せな時の泉さんを私は見ていない。
僅かに手紙で「御目出度う」とか書いたと思う。

まさか、私が世に言う「キチガイ」になったなんて自分でも信じられなかった。
医師の落ち着いた宣告で奈落の底に落とされたのである。
医師にとってはよくある病気のケースの一つに過ぎないが。

泉さんも私をノイローゼになったと思っていたのかも知れない。
そんな事よりもこれから始める新生活の事で頭が一杯だったのだろうか。
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