読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

テレビは友達 その1

2017-03-20 19:05:11 | 創作


ある晩から、亜樹にとってテレビの画面は違ったものになった。
まるで、側で彼女を見つめ続ける物体と化した。

その夜、お馴染みの美人キャスターが亜樹だけに笑いかけた、と彼女に思えた。
昼間、彼女が早咲きの桜を見た公園が紹介されている。
ひょっとしてこのテレビ局は彼女をマークしてるのだろうか?
一瞬亜樹に戦慄が走った。

「まさか!」
テレビのキャスターが自分に特定して話してる筈がない。
亜樹は首を振った。
自意識過剰の為と自分に言い聞かせた。
彼女は他人の意識に極端に敏感だったが、テレビを他人の意識と捉える訳にいかない。

亜樹は、再度テレビを見直した。
いつもの様にさりげなく、誰にでも平等に番組は展開する筈である。
それが、どう見てもおかしいのだ。
テレビの画面が紹介してるレストランは彼女が密かにデートに使った場所である。
キャスターは今度は微かに意地悪い微笑を彼女に投げかけた。

「嫌!」
亜樹は衝動的にテレビを切った。



佐藤亜樹、32歳。
昨年、IT企業を依願退職した。

それは、彼女の他人の意識に敏感過ぎる性格が災いしたからだ。

亜樹は一見明るくキュートな感じで、男子社員からモテた。
当初は、同性からも気取らず気さくな人と思われていた。
その流れに逆らわず、ファンになってくれた誰かと仲良くすれば、それなりの幸せを得られたろう。
ところが、彼女は見かけによらず非常にガードが固く、男が近寄ると避けるムードになる。
それが人には自意識過剰に見えた。

そして、彼女が選んだのは課長の保田との許されぬ恋だったのだ。
社内の噂では不倫であるが、男と女の関係に程遠いものだった。

実は、社内で最初に彼女を飲みに誘ったのが保田だった。
彼にしてみれば、勤勉な彼女のサポートで課内の成績が上がった礼の積もりだった。

彼女は初めて二人きりで飲んだ雰囲気に酔い、舞い上がった。
それが恋と思い込んだのである。


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