「俺の給料からそんなにはヘソくれないだろう?」
由規はこわごわ聞いた。
美和は、両親が事故死しておりた保険金1000万円を株で運用して2倍にしたと言う。
由規は淡々と打ち明けた美和が気味悪かった。
自分の想像の範囲内で動く妻でいて欲しかった。
美和は株を買う事を禁じられた。
代わりに購入したマンションの名義は共同にした。
美和はオモチャを取り上げられた子供の様な顔をしていたが文句は付けなかった。
「変わった女だ」由規は苦笑しながら思っただけだった。
今に始まったことではなかったし、彼女が自分を愛している事は自信があった。
そうして六本木のマンションで親子三人の生活が始まった。
美和は以前より垢抜けたと言う程度で相変わらず平凡な妻の顔をしていた。
娘の萌は父親似で優秀な成績で学校を卒業して、ドイツに海外留学した。
本人にすれば語学をマスターし独立したかったらしい。
ところが大学のドクターのお気に入りになり結婚を申し込まれてしまった。
オロオロする由規に比べ美和は平気だった。
単身ドイツに渡り、萌と萌の相手に会ってきた。
その後萌はドイツで結婚式を挙げた。
妻はとてつもない度胸のある女だ。
この時も由規は感じた。
あれは度胸でない、いつ死んでもいいと言う捨て身な行動だと由規は今分かった。
由規は、小学生の頃の虫も殺せない優しい少女の面影だけを美和に描いていた。
あの火事の日に何があったか考えるのを避けていた。
そして妻の本当の思いを分析する事も無かった。
自分の他に男を知らないだけで満足していた。
物質的にも肉体的にも満ち足りてると見くびっていたと思う。
美和は、12歳の冬からいやもっと前から、ずっと彼女自身の傷を自分だけで舐めていた。
由規がやっと気づいた時は既に遅かったのである。
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