読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

梯久美子 『昭和20年夏、女たちの戦争』最終章

2017-06-28 16:09:05 | 書評


「山に来て 二十日 経ぬれど あたたかく
我をば 抱く 一樹だになし」
この岡本かの子の歌を、近藤富枝は学友と口ずさんだそうである。

恋人同士が公然とデートすると「非国民」と言われる時代風潮だけでない。
同年代以上の男子は殆どが戦争に取られていたからだ。
子供たちは疎開して、男性は老人と病人だけだった。
町も活気を失い灰色にくすんでいた。



昭和20年3月9日、当時NHK本社内幸町にあった。
社内で8時頃まで彼女と先輩の女性は話し込んでいた。
軍隊に取られた恋人への想いを先輩は一気に打ち明けたのである。
南方の戦線でどうしているか、不安と葛藤を日頃大人しい先輩が訴えた。
彼女と別れた後、富枝は市川の祖父母家にその夜泊まった。


深夜東京は未曾有の大空襲に見舞われた。
電車も架線が電柱にぶら下がり、交通は遮断されている。
彼女は市川から東京の勤務先まで歩いて通った。

やっと着いた職場に昨夜話し込んだ先輩は居なかった。
先輩は日本橋に住み、昨夜の空襲で明治座に逃げ込んだが煙で窒息死したのだった。
昨日まで熱い血の流れていた友が、今朝は二度と血の流れぬ冷たい屍体となる。
それが戦中の日常だったのだ。

この様な過酷な日々が過ぎて、戦争は漸く終わりを告げた。
同年8月15日、玉音放送をする時に彼女は立ち会っている。

その日の帰り道で、富枝はある人のことを気にかけて居た。
東京での幼馴染で今は軍人である。
兵器を統括管理する任務にあたっている。



彼の駐屯地は千葉の稲毛の戦車隊である。
責任ある地位だから、さぞかし軍隊の後処理が大変だろう、敗戦でさぞかし窶れているだろう。

彼女は気になって仕方ない。
そして単身千葉の彼の下へ向かい彼を慰問した。
暗い萎びた顔の彼を必死に勇気づけたのも彼女である。

全ての兵器処理を終えた後、彼は彼女の家に行き結婚を申し込んだ。
近藤富枝はNHKを辞めて彼と結婚した。

彼女が作家になったのは戦争体験の手記が世に出て以降だと言う。
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