読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

時枝の旅立ち その1

2016-10-07 20:24:54 | 創作


この物語はプララブログに載せた「戦火の下で」の中の一編です。
加筆訂正して新しいブログを作ります。



兵藤時枝は口を一文字に結び、乾いた土道をひたすら歩いていた。
残りの夏の暑さがジリジリと時枝に襲いかかった。
立ち止まって汗を拭う。
「犬山まで後半里とない」
時枝は疲れきった身体を奮い立たせている。

犬山とは愛知県の犬山である。
そこに幼馴染の功の母、佐古田富江がいる。
功は南方へ出征したまま、消息不明になっている。
時枝は愛しい功が生きてると信じたい。
信じる心を焦燥感と不安が苛む。

時枝はおおらかで優しい富江おばさんの側に行けば、全て癒される気がした。

終戦の翌年の9月、時枝は父母の家を飛び出した。

岐阜の庄屋だった実家だけが残り、父は魂を抜かれた様になった。
名古屋では繊維問屋の店長として活躍していた父である。
名古屋中心部にある家は借地であった。
建物が全焼した今は帰る術もない。
彼は1日中茫然として何も手につかない様子だった。
継母と異母弟は冷たく、他人そのものだった。



実家は広大で、蔵も残っている。
こ当時はまだ小作人が届けてくれて、食物も衣類も他の家よりずっと恵まれていた。

義母とその連れ子の弟が先に疎開しているた。
財産を欲しいままにしたい二人にとって、長女である時枝は目の上のタンコブだった。

時枝に小金を持っているという中年の男との縁談が起きた。
いくら兵士に取られ男不足と言っても21の時枝と40過ぎた男とは不釣り合いである。
この話を進めたのは継母である。
知らない男の嫁になるなんて時枝は死んでも嫌だった。
時枝の心に懐かしい功が住み着いているからである。

戦争が激しくなった頃、名古屋にもB29が飛び交う頃である。
「時枝ちゃん困った事があったらいつでもおいで」
富江は暖かい声をかけてくれた。
そして犬山の家の住所を教えてくれた。
古い地図を頼りに時枝はその家を目指している。





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