読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

梯久美子 『昭和20年夏、女たちの戦争』

2017-06-28 14:23:03 | 書評


太平洋戦争は当事者にも銃後の人々にも、悲惨な影響を与えた。
著者は、10代の終わりから20代の青春を過ごした当時無名だった女性から見た戦争を描きたかったと言う。
つまり青春を戦争に奪われた娘達の体験を聞きたいと思った。

2010年、大震災前に取材した当時彼女達は皆功なり名を遂げていた。
そして大震災の前だからこそ、自由に露わに戦争の中の抑圧された青春を語ってくれたのである。

取材されたのは、作家近藤富枝、評論家吉沢久子、女優赤木春恵、元JICA理事長緒方貞子、評論家吉武輝子の諸氏である。

80代から90代の方々にとって、「一番綺麗で感受性の豊かだった時代は戦火の下」にあった。

私ごとだが、母と同じ世代である。
母は口癖の様に「戦争が私の人生を滅茶苦茶にした」と言った。
私はかなり不快感を持って受け止めた。
「結婚して私という子供を持った今が幸福に思えないのだろうか?戦争は最早過去である」と。

しかし、年を重ね、青春期が戦争の時代であった人々の話を聞くと、この母の思いは共感出来ずとも深く理解出来る様になった。

さて、本著に登場する主体的に生きたと見える女性は、実は戦争によって振り回されていた。

体験は一様ではないが、戦争が人生に与える暴力的な影響を感じずにいられなかった。



その中の一編を選べと言われば、迷わず近藤富枝の体験インタビューを挙げる。

よりドラマチックな生き方、社会的に意味のある生き方が描かれているが、近藤富枝さんの人生は、「母が幸せを選んだらこうなる」そのものだったからだ。

彼女は大正11年生まれ、女学校卒業後、東京女子大に進学、NHKの放送部員、今日の女子アナになった人である。
勿論当時テレビはないから、ラジオのアナウンスをした。

戦前の大本営の発表をそのまま流した事もあるそうだ。
「私がアナウンサーになってから終戦までのニュースは全て嘘とごまかしだったの」
と近藤富枝は懺悔する。

ふと嘘寒い気になった。


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