読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

テレビは友達 最終章

2017-03-21 15:43:21 | 創作


小雨のそぼ降る休日、亜樹と邦彦は昭和レトロな喫茶店で会った。
電話口での亜樹の様子に只ならぬものを感じた邦彦が亜樹を誘ったのだ。

「驚いた。東京に未だこんな喫茶店が残ってたのね。いいね」
全てを告白し終えた亜樹は、邦彦に無邪気に笑いかけた。
せいせいした気分で、一瞬何もかも無かった事の様だった。

「笑ってる場合じゃない。君の置かれた状況は変わってないんだぜ」
邦彦は渋い顔を作った。

社会の裏面を探るルポを手がける彼は豊富な知識を持っていた。

邦彦はテレビのカメラ化についても荒唐無稽な話ではないと言った。
「よく、テレビの中で別の場所にいる人間とご対面という番組があるだろう。
それと似た形で特定の個人のテレビをテレビ局が写し出す事は可能だ。
テレビ局が君の住所を聞いたのは君の持つテレビのアンテナを特定出来る為だ。
そして電波を探れば、君のテレビの画面から君の動向を見る事も出来る訳だ」

そして邦彦は、電波のキャッチの在り方や、情報に対して極端にアンテナを尖らす現代社会について説明し出した。
その半分も亜樹は理解できなかった。

しかし、感情的だったとしても、彼女の抗議の内容がテレビ局の痛い所をついたのは確かだった。
警戒すべき人物の一人として彼女はマークされた。テレビ局なら容易に彼女の履歴は調べられる。
一応著名な大学や会社に在籍した彼女の交友関係者の連絡をチェックする事は理解出来た。

「出る杭を打つ、ということね。出てこない様に」
「まあ、そうだが。結局出方だね。直接談判より俺の様に脇からついた方が安全だ」

邦彦は苦笑いした。
ヤンチャな顔は面変わりして大人の深みがある。
「いい顔になった」と亜樹は思った。
安田課長の知的な優しげな姿は軽い羽根の様に亜樹の心から飛んで行った。

「お願い、遠井君」
「急に何だよ」
「あなたの家であなたのテレビを見させて!
これからずっと」

邦彦はポカンとした。
「自分が何言ってる分かってる。
いい年して未だに嬢ちゃんの癖に、男がどんなもんか知ってるのかよ」
「分かってるよ。それくらい。
知っててお願いしてんの」
亜樹は大きな目で邦彦を見つめた。
見捨てないでと訴えたのである。



一年後、亜樹は邦彦と東京の片隅で共棲みを続けている。
一緒に暮らすと邦彦は大雑把過ぎて困った点があった。
家の中が資料や本で雑然としていて、亜樹が片付けると怒られた。
原稿料が入ると気前よく仲間に奢る。
亜樹を押しかけ女房とからかう。

それでも、仕事には一途である。
亜樹はそれが大好きだし、邦彦を恩人と思っている。
テレビはさりげなく客観的に見られる。
もうテレビは友達ではない。
最高の友達と暮らしているからだろう。

亜樹は前と比べ物にならない程小さなIT関係の企業に勤めている。
任された仕事は責任があって面白かった。
男の目が人妻になると全然変わってきたのを感じる。
彼女は、その他大勢のおばさんの一人になった。

邦彦のお陰で、ずっと自分を縛ってきた過剰な自意識とオサラバ出来たと亜樹は思う。
たとえ、この先邦彦と別れる日があっても、彼女の心を救った恩人として感謝してるだろう。

今日も心の中に自由の風を吹かせて亜樹は歩いている。
きっと明日もそうやって歩いていけると信じている。



日頃、不満に思ってた事を形を変えてフィクションにしました。
ただ終わり方に非常に無理が有りますが。

要するに、言論が自由で風通しのいい社会であって欲しいという願いを込めて作ったのです。

因みに現実の報道等にかなり抵抗を覚えて、一日中テレビを観ないで過ごすとそれは又ストレスです。
日頃見慣れた出演者の顔に触れるのは、なんというかケンカばかりしてる家族を失った感じです。
特に母の介護でまとまった自由時間が取れない身には応えたのです。

まあ仲良くしてこうと思ってます。
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