読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

永遠の嘘をついてくれ 後

2016-10-31 18:02:06 | エッセイ


私の母も馬鹿正直な人である。
世の中の大人は誰でも結婚前に一人や二人好きな人がいるけど、夫や子供に矢鱈と打ち明ける人はいない。
それを洗いざらい教えてくれてしまった。

そこで若い私は、将来の夫にも子供にも嘘をつくのが思いやりと決めていた。
そしてきっとこの世で一番好きな人というのが居ると思ってた。
その人に「あなただけよ」と言ってみたかった。

ところが、70を過ぎた母を好きだった男性の年賀状によって全然その気が失せた。
彼は相当な役職についた人である。
父なんかと結婚せず、この人としてればそれなりの奥様になれた事であろう。
そういう私も縁のない女だが。

なんと母はこの人に「あなたをずっと好きだった」と手紙で匂わせた様なのである。
彼の年賀状には「同じ思いだというだけで満足です。この思いを死ぬまで胸に抱けます」と書いてあった。

「うっそ(≧∇≦)」娘の私は仰天した。
80近い男女がこんなやりとりするのも気持ち悪い。
それだけでない。
私は知っているが母の本当に好きだった幼馴染は父と同じ年に死んでいる。
つまり母は嘘をついたのである。

これを知って子供や奥様はどう思うのだろうか?
その瞬間、男女の愛情がなんというか実体が見えないものになってしまった。



とはいえその後も胸をときめかせたり、真剣に好きになっていますから、人の事は言えない。

ただ、何処かで恋に関する嘘に振り回されない知恵は育っていた。
よく考えれば大抵の男女が持つ知恵なのである。
何にも見えずに夢中になるのは例外だったのだ。

さて、母を好きだった人の年賀状はもう来ない。
生きていれば90はとっくに超えるので、亡くなったのかも知れない。
諸行無常である。

ただ彼の中には若い頃のふくよかで清純だった母が永遠に生きていたんだろうなと思う。
母の嘘がそのイメージを守ったんならそれはそれでいいと今は思える。

私は多分もう声高に「永遠の嘘をついてくれ」とも「本当の事を話してくれ」とも言えないだろう。
確かに世渡り下手は変わりないが、自分の嘘も人の嘘も許容する部分は出来ている様だ。

それでもやはり「永遠の嘘」をついて欲しいな。
死ぬまで騙して欲しいな。
「お前が一番好きなんだ」って。
女って困った生き物です。
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