読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

いつか江ノ島で その2

2017-06-30 19:59:11 | 創作


馨子の危惧は、美也から明るい印象の年賀状が届いた事で収まった。
「お陰様で自宅で新年をを迎える事が出来ました。リハビリに元気で励んでおります。今年もよろしくお願い致します」

退院出来た美也の弾んだ思いが伝わったと感じたのは、馨子の心が浮き浮きしていたからであろう。
その時、彼女は、自分自身の遅い春に浮かれていた。



前年暮れ、二十数年ぶりに響子の高校時代の同窓会があった。
そこで彼女は初恋の男性砂賀洋に再会出来た。

二次会のカラオケバーで、隣に座った砂賀が酔った勢いで呟きが響子の耳に残っている。
熱いときめきが走った。

「柳沼さん凄く綺麗だ。昔も可憐な感じがしたよね。俺昔から気になってたんだ。でも遅いね、こんな事言うの」
それは危険な誘惑とも思えた。
砂賀はとうに妻帯して娘も二人いた。

それでも、馬鹿な響子はオシャレした甲斐があったと満足したのである。



同窓会の為に響子は小遣いを叩いて、おニューの服と靴を買い、美容院に行った。

彼女はわざわざ男性に触れる機会の少ない保険会社の事務職を選んだ。結婚に期待感が無かったのである。
女子大時代に両親の別居に伴うゴタゴタで心に深い傷を負っていた。
彼女が就職が決まった時、両親は離婚した。
響子はそれから一人暮らしを始めた。

高校時代はまだ淡い期待感があった。
いかにも爽やかな砂賀に憧れたのはその頃である。
それは仄かな恋の思い出に過ぎなかった。

彼女が自分の中の女に目覚めたのは、会社を辞めてからである。

それまで何も男性経験がないと言えば嘘になる。
町に出て声をかけられた男と付き合った事がある。しかし、直ぐに終わりを迎えた。
男の求めてるものが結局女の身体に過ぎないとしか響子は思えなかった。
両親が繰り広げた男と女の醜い争いが過って、何故か歓びが得られなかった。
響子は自分の身体以上に心を包む相手が欲しかった。

それが、見た目が若く美しい事からくる奢りだったと気づいたのは最近である。
声をかけるどころか、最近の響子が町を歩いても誰も振り向いてくれない。
燻んだ終わってしまった女になっていく気がした。
このまま老いていくのが嫌だと響子は痛切に感じた。

そんな時に届いた同窓会の出席者の名簿に砂賀洋の名前を見た。
響子の内部で不意に懐かしい思いが蘇った。

響子はともかく、オシャレをしたいと思った。
そして自分に残ってる若さの輝きにしがみつきたかった。

久しぶりのパーマはフワリと顔を縁取り、響子によく似合った。
「お客様は顔立ちが良いから髪型でグッと引き立ちます」
美容師の褒め言葉通り、別人のような響子が鏡に映っていた。

明るいベージュのコートを羽織り、洒落た形の茶のローヒールを履いて、響子はデパートの姿見に見入った。


そうして臨んだ同窓会は本当に夢の様だった。
数少ない独身の響子は充分モテた。
脚の痛みを忘れる程、響子は有頂天になっていた。
それは、ひと時の錯覚に近かった。



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