読書の森

妻の過去 その4



感動の再会から美和と由規が結婚するまで5年掛かった。
共稼ぎは珍しい事でないし、由規はかなりの高収入を得ていた。
経済的な問題や健康面の問題はない。

最初、積極的に近づいた美和が、由規がより親しくなろうとすると拒んだのである。
「私このままでいい」と言う。

若い健康な由規にしてみれば残酷な話で、
美和はワザと謎めいた部分を作って見せる悪女かと思う。
しかし、悪女にしては一人ぼっちの不憫さな環境で一人で頑張っているし、言動に由規を思う親身さが溢れていた。

知り合って5年目の春、由規は強引に結婚を決め、美和と二人だけの結婚式をバリ島で挙げた。



美和はそれまでの頑なな拒絶が嘘の様に従順な妻となった。
ハネムーンベービーに恵まれ、萌と名付けた。
退職して専業主婦になってからの美和は、万事地味好みで目立つ事を嫌った。

と言って、熱心に家事をするだけでもなく、教育ママになった訳でもない。
夫婦関係にも親子関係にも、手ごたえがない程あっさりしていた。

幸い萌はスクスクと育ったし、由規は役職に就いて仕事にも付き合いにも忙しかった。
その為に、美和のあっさりした態度はむしろ有難いものだったのである。

ただ、平凡な主婦になりきったかと思った美和が驚くべき一面を見せた事がある。
それは新居を購入する時の事だった。

碑文谷の家を姉夫婦に譲り、親の遺産と貯金で不足分をローンで払おうと心積りして由規は持ち家を探した。

二人が再会した思い出の地六本木の高級マンションはちょっと手が出ない。
後2000万頭金を足さないとローンが苦しい。
金銭面で妻に相談してみる事にした。

美和の事だから「もっと、庶民的な土地で買いましょう」
とか言うだろうと予測していたである。

ところが妻、美和は驚くべき事を言った。
「あら〜いいマンションね。私も六本木に家が欲しかったの。しっかりした造りだし、管理もいいし六本木にしては緑も多いわ。2000万のお金私が出すわよ」

由規はドッキリとした。
その金はどうして工面出来るのか?

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