読書の森

物語を読むのも書くのも大好きです。読書感想、創作、エッセイなど綴ってまいります。

『青春の墓標』の中の青春 その3

2017-07-11 15:04:42 | エッセイ


私が心躍らせて入ったキャンパスは、アジビラと立て看板が至る所に見られて、シュプレヒコールが時に聞こえて、凡そ学問の場とは言えなかった。

それでも、というより自分の事で胸いっぱいで、全然周囲の状況を掴めないでいた。
ただ自分の居場所が欲しかった。
部室が並ぶ暗い地下室のドアを当てもなく叩いた。

そこは、あったかい空気に満ちていたと感じた。あまり冴えない風采の上級生だったが、まるで10年来の友人のように迎えてくれた。
「新入部員大歓迎です」先輩達の笑いが素朴で邪気が無いから、私は何を研究する所だなんて考えずに入ってしまった。

そこが、民青の溜まり場であり現代社会の問題点を論じ合う所などと、表向き知った後も何ほどの事があるかと能天気に構えていた。

しかし、その地下室の部室はそれぞれの部屋でセクトが違っていた。中核、革マル、社青同、民青、などなど。
内ゲバが続く巣窟に入ってるなんて夢にも思わなかったのだ。

ピクニック、飲み会(コンパと言った)での歌声喫茶の歌の合唱。
「雨に濡れ、てるてる坊主は泣いても 私達は負けないで 山を見るのさ
山の子は山の子は 歌が好きだよ」

毎日が親睦会のようで、完全に溶け込んでいた。
別に部員が飴で新入生をたぶらかした訳でもなく、自分達の目的や何をやっているかをごく平易な言葉で説明してくれていた。
もっと高度な社会問題を上級生は論じていた事を覚えている。

ただ私は鈍過ぎて、それが意味する事に気が付かないのだった。
私は社会的に啓発を受けぬまま、組織の中にいた。



その内に映画会があって、あまり気に食わない男子と共に見に行った。上級生の勧めだった。
気に食わないというのは、矢鱈と自慢ばかりするし、デリカシーが全然感じられない人だったからだ。

それはともかく、映画は昔の北朝鮮の映画だった。
南北が分かれ、北が共産主義国として独立したばかりの、その風土や住む人々を映画に仕立てたものである。

現在のものと違って、それはわざとらしい影はなかった。
美しい山や川、大地の恵み、笑顔の人々が映し出されている。
身分の上下はなく飢えることなく、皆健康なこの世の楽園の様な光景が繰り広げられていた。

北朝鮮との関係は在日の帰還という形で続いていたと思う。後の様な大凶作に見舞われることもなく、他の強力な共産主義国からの援助も受けた、あの国の春の時代だったのではないか。

しかし、私はここで疑問を持たざるを得なかった。
何故北朝鮮の素晴らしさをこれでもかと見せつけるのだろう。
これって明らかに国策映画じゃないのか?
ということは?
例の気に入らない男子は共産主義を信奉してるのが分かってきた。
ここで私は民青とは何の組織かがやっと分かった。

当時の日本の大人達の多くがアメリカに憧れていた。
豊かで進歩的で自由な天地と思えた。
確かに戦後の日本の立ち直りに全面的に協力した国である。

小中高と私はそういう親米派の大人達の恩恵を受けて、言わば隠れ保守の学生だったのだ。
現実の問題として、当時戦争の脅威が日本に迫っていた訳ではない。
ソ連(当時)と米国は一応均衡を保っていた。
寧ろ運動自体が戦いに近いものと私には見えたのだ。

北は共産主義国だ、これを賛美するってつまり「アカ」、という様に物凄い偏見を持っていたのである。
しかも、その気に入らない子は、政治的に偏ってる事にショックを受けた私を無知だと笑い捨てた。
私は私で、相手が表層しか見えない野蛮人だと怒ってた。

こんな些細なきっかけが人の思想を決めてしまうのだ。
「へえ。そんな事も知らないの。安保の弊害も理解できないなんて、今まで何考えてきたんだ」
ガハハと大きな歯をむき出して笑った男子への反発が、共産主義嫌悪に繋がった。

つまり、私は政治に対して非常に意識の低い学生だった。



ここに登場する共産党と今のそれは様変わりしています。
半世紀も前のお話であります。
時代背景が全く違っています。
当時は一億中流階級という時代(勿論その中で格差も差別もありました)で、現代の格差社会と異なっております。
当時の方が現実を離れ、革命的であった訳です。

現在の共産党に対する批判ではございません。
ご迷惑をかけたなら誠に申し訳ございません。
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