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スカステ・宙組公演「ロバート・キャパ 魂の記録」を観て

2013年03月23日 | 宝塚

スカイステージでの放送と前後して、NHKの日曜美術館でもロバート・キャパの展覧会の特集が放送されていました。
ご覧になった方も多いと思いますが、この番組の冒頭、宙組の「ロバート・キャパ 魂の記録」が紹介されていたのはちよっとビックリでした。
それもけっこう時間が割かれていて、作・演出の原田諒センセーまで登場して、舞台作品にまとめ上げるまでの話が紹介されていたのは驚きでした。

この先生、まだ若いですね。ちょっと汐風幸を連想してしまう初々しい容貌ですが(笑)、よくロバート・キャパとその時代を調べて劇にまとめられていました。
劇化するにあたって、アメリカでキャパの愛用していたライカと同型品を買い求めたりと、研究熱心です。
「ニジンスキー」や「南太平洋」も手掛け、「華やかなりし日々」とキャパで第20回読売演劇大賞で優秀演出家賞を受賞するなど、タカラヅカの次代を担う最有望株のひとりですね。

NHKの番組を見た後、WOWOWで2度目に放映された分を録画してじっくり見ることにしました。

今回はその感想など。

主な配役と出演者です。

アンドレ・フリードマン(ロバート・キャパ)      凰稀かなめ
シモン・グットマン                     汝鳥伶
ユリア・フリードマン                    光あけみ
ジャンヌ                          美風舞良
パブロ・ピカソ                       風莉じん
チーキ・ヴェイス                     春風弥里
アンリ・カルティエ=ブレッソン             蓮水ゆうや
マリー=テレーズ・ワルテル              愛花ちさき
セシル・ビートン/フェデリコ・ボレル・ガルシア  鳳樹いち
フランス軍副官                      天風いぶき
カフェの女給                       綾瀬あきな
質屋の女房                        百千糸
フーク・ブロック                      松風輝
デヴィッド・シーモア(シム)               星吹彩翔
オルガ・コクローヴァ                  愛白もあ
ヴァンサン・モンフォール                蒼羽りく
質屋の主人/ピーター・アダムス          風馬翔
ルカ                             花咲あいり
ルカの母                          桜音れい
ベルリンの警官                      星月梨旺
コーネル・フリードマン                  桜木みなと
フランス軍兵士                       実羚淳
カフェのギャルソン                    朝央れん
パリの女                           涼華まや
ゲルダ・ポホライル(ゲルダ・タロー)         伶美うらら
パリの女                          瀬戸花まり
エンマ                            花乃まりあ


オープニングは1954年インドシナの戦場。ロバート・キャパことアンドレ・フリードマン(凰稀かなめ)が愛用のライカを持って登場。
この場面が最後の場面につながるのですが、ちょっと細かいことを言うとフランス兵の持つ銃がM16ライフルなのはありえないです。小道具さん、時代考証をよろしく。(笑)

このシーンでキャパ(アンドレ・フリードマン)は「(映像が)ぶれたってかまわないさ それが真実なら」「この世から戦火が途絶えるその瞬間を俺はとらえて見せる」とつぶやいたあと、地雷を踏んで死んでいきます。爆死する様子は、無名に近かった彼を一躍有名にした「崩れ落ちる兵士」の映像とダブります。


その場面の後、アンドレの死後彼のライカを手にシモン・グットマン(汝鳥伶)が舞台に現れ、「(アンドレは)このカメラをまだ使っていたのか。懐かしい。このカメラとの出会いがお前の人生を運命づけたのだ。アンドレ、いや今やそんな名前は誰も知っちゃいない。ロバート・キャパ、私はお前が悔いのない人生を送ったと信じている。」と語って、物語は始まります。

舞台は1933年のベルリン。
質屋と揉めていたアンドレ・フリードマン(凰稀かなめ)は、たまたま通りかかったチーキ・ヴェイス(春風弥里)に警察沙汰になりそうなところを救われます。


もめた原因は、アンドレが質に入れたライカを質屋が流したことですが、そのカメラは写真通信社の社長シモンが代わりに受け出していました。

このシモンが貫録十分で、どう見ても男にしか見えません。実に味があります。こんな人物が応援してくれたら安心です。(笑)
商売道具を質に入れたアンドレに、シモンはいいます。
「カメラマンにとって一番大事なのはシャッターチャンスだ。そのカメラを手放すとは自らその瞬間を放棄するということだ」と諭します。しかし「お前の撮った写真には真実を写す強烈な光が宿っている。」と褒めます。
 
この時期、ヒットラーがドイツの首相に就任。

シモンはユダヤ人であるアンドレに、ユダヤ人への迫害が始まるからパリへ行けとすすめます。その勧めに従ってアンドレはチーキとともに新天地パリに向かいます。


しかしまあ、凰稀かなめの足の長いこと。
そして憂いのあるマスク、甘い声がいいですね。大人の男の魅力という点では、今のタカラヅカのトップの中では群を抜く容姿だと思います。
ただ歌は決していいとは言えませんが(笑)、その後の『銀河‥』観劇で感じたほど悪くなかったですね。
それと、まだまだ歌唱力は伸び代があると思いますね。精進すればグッとよくなる可能性大です。オーシャンズの例もありますし。(笑)

舞台に戻ると、パリへ向かう列車の表現がいいです。新しい世界へ向かうワクワク感が舞台にあふれていて、よくこちらに伝わってきます。
セットはシンプルですが洒落ています。
同行することになった春風弥里のチーキはいい相棒です。なにより歌が聞かせます。

パリでは、シモンの紹介でチーキとともにフーク(松風輝)の通信社で働くことになります。
しかしこのフークが食わせ者で、関心は金儲けだけ。社会性のある写真を撮りたいアンドレに、ゴシップ写真や奇をてらったスタントマンまがいの写真ばかり撮るよう指示します。
アンドレは生活のためと、そんな写真を撮る不本意な日々を送りますが、次第に仲間もできていきます。
この仲間がいい感じです。
アンリ・カルティエ=ブレッソン(蓮水ゆうや)↓と

デヴィッド・シーモア(星吹彩翔)

この二人のキャラクターの対比が面白いですね。

一方ゲルダ・ポホライル(ゲルダ・タロー・伶美うらら)は雑誌ボーグの記者ですが、ファシズムの勃興とそれを容認している世情に強い危機感を持っています。


伶美うららもなかなかの美人で、知的で落ち着いたいい雰囲気を持っていますが、彼女も歌はまだまだ課題が多いですね。その点ではうまく二人のバランスはとれていますが。(笑)

ある日アンドレの写真を雑誌で見たゲルダが会いに来ます。そして二人は、次第に意気投合していきます。そしてゲルダは通信社をやめて独立することを勧めます。このふたりの出会いの過程で、欧州で勢いを増しつつあるファシズムの脅威が明らかにされていきます。

この時代設定は現代に通じるものがありますね。ほんの一握りの繁栄の陰で、圧倒的に多数の人々が生活苦にあえぎ、その不満を利用して「独裁者」が救世主を装いながら登場し、喝采を浴びる。この作品に込めた作者の意図がよくわかります。正しい時代感覚だと思います。

やがてパリでも、権利と自由を求める民衆の運動が巻き起こります。アンドレも一緒に運動に参加しながら、その様子をカメラに収めます。


しかし彼の撮った写真が、過去に名声を博した別人の写真とされて雑誌に掲載される事件が起きます。
それがフークの差し金とわかって、ゲルダは架空の経歴を持つ写真家の作品として発表することを提案、アンドレも同意します。そして二人で考えた名前が「ロバート・キャパ」でした。

その後次第にアンドレの写真は、ゲルダの解説記事とマネージャーとしての能力のおかげで、ロバート・キャパとして売れ始めます。

そんなある日、アンドレはピカソ(風莉じん)と会い、共和国政府とフランコの反政府勢力の衝突の危機を知ります。なかなか面白いピカソですね。




写真を次々発表して有名になりつつあったある日、母ユリア・フリードマン(光あけみ)と弟コーネル(桜木みなと)が会いに来て、母にロバート・キャパがアンドレであることを見抜かれます。

それを契機にアンドレはキャパが自分であることを公表する決心をします。母ユリアの演技もリアルです。

ここで第二幕。

スペイン内乱が勃発。ドイツとイタリアがフランコに加担し共和国政府は劣勢に立たされます。しかし英・仏は静観したまま。アンドレたちは「この戦いはファシズム対反ファシズムの戦いだ」としてパリを離れ、スペインに赴き、国際義勇軍のメンバーに加わります。当時世界各地から駆けつけた青年たちの熱気がよく伝わってきました。
ここで舞台はマドリッドに代わり、闘牛士とフラメンコダンサーのダンス場面に。この場面、完成度高いです。

アンドレは仲間たちと写真家のグループ「マグナム」を結成し、結束を固めます。


マドリッドの市街戦の中で民兵のフェデリコ・ボレル・ガルシア(鳳樹いち)と出会って、苦戦する共和国政府の状況を聞かされます。このあたり、「ネバーセイ‥」とダブりますね。ファシズムと戦うためピレネーを越えた若者たちの純粋な気持ちがよく伝わってくるいい場面です。同時にフェデリコの家族の状況がわかってきて、彼の悲劇的な死を際立たせます。
妻のエンマ(花乃まりあ)が健気です。似合いの夫婦ですね。

そして劣勢の人民軍と行動を共にするアンドレは、フェデリコからカメラマンとして生きろと諭されますが、直後にフェデリコはアンドレの目前で自由団を浴びて戦死。その決定的な場面を捉えた写真は「崩れ落ちる兵士」として世界に流れます。

実写も映されます。

このシーン、凰稀かなめの涙ながらの表情が印象的です。

彼の写真は衝撃を与えますが、パリでは名声の一方でねつ造との中傷も流されます。
そしてナチス空軍のゲルニカでの無差別爆撃。
ピカソは傑作「ゲルニカ」でその悲劇を世界に伝えます。彼の信条は「世の中の悲しみと喜びに敏感であること」でした。

そんな中、ベルリンのシモンから電話があり、日中戦争の取材のため中国・重慶にアンドレを派遣するよう米のライフ誌から依頼があったと告げます。戦火のスペインから離れがたいロバートに、ゲルダは中国行を勧めます。


見送りに来たゲルダと最後の別れ


ベルリンに戻ったアンドレは抗日運動の報道を依頼されます。そしてブダペストから来た母との和解のあと、悲報がもたらされます。ゲルダが共和国軍の戦車の下敷きになる事故で死亡したのです。

彼女の死を知らせるアンリの悲痛な表情


それを聞くアンドレ

ここでも涙が胸に迫ります


ラストは冒頭の場面に戻ります。

フィナーレは短いですがよくまとまっています。










渋い衣装のマタドールの群舞が魅せます




デュエットもよく似合っていてきれいでした


実際の公演はチケットが全くなくて見られず残念でしたが、今回の放送でじっくり観られたのがせめてもの慰めになりました。いい舞台でしたね。ナマで見られた方が羨ましいです。
原田先生、本当に期待の星です。

この公演の後凰稀かなめはトップ就任となったわけですが、観終わって改めて全く至当な人事と思いましたね。

考えてみたら宝塚はスペイン戦争をよく取り上げていますね。
この作品の前でも「誰がために鐘は鳴る」と「ネバーセイグッバイ」がありました。

先にも言いましたが、今の時代にこれらの作品を観ることは大きな意味がありますね。社会の一部への巨大な富と権力の集中と、他方での無権利な状態での過酷な労働の横行と、その結果としての広範な貧困と窮乏化の進行。
その矛盾をついて出てきた独裁的な「ヒーロー」への危険な期待感。
スペイン戦争の悲劇的な歴史は、死んだ遠い過去のことではなく、新たな衣装をまとって今もなお立ち現われてきているということを考えさせられました。

今月30日は『モンテ・クリスト伯』の観劇です。脚本・演出がアレなセンセーなので(笑)、期待と不安が入り混じる観劇ですが、また感想など書いてみようと思います。只々いい出来であることを祈るばかりです。(笑)

しかしポスター、よくまあこんな格好させるものですね。これだけで観劇意欲が失せてしまいます。↓


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-04-09 13:48:00
おじゃまします。
原田先生の作品を初めて観賞しました。
とても若い先生なんですね。(*^v^*)
すんごいステキな作品でした!ヾ(*≧∀≦*)ノ
返信する
原田先生は期待の星ですね (Hebridean)
2013-04-10 10:08:47
コメントありがとうございます。
本当に原田先生は100周年に向かっての期待の星ですね。
他の先生も、もっと頑張ってほしいです。
返信する

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