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日本語不自由なライトノベルや東方非想天則の愚痴。『あたいったら最強ね。』が好きなだけでチルノを使っている。

ゆめにっき 4/4

2010年05月09日 15時12分53秒 | ゆめにっき 小説
 火。炎のイメージ。だけど、白と黒だけ。他に色はない。白と黒の炎の中に、白と黒の少女の姿があった。焼けただれる肌。ごっそりと落ち、一瞬で燃え尽きた頬の肉。溢れ出す白い血。抉られた目。彼女は私に手を伸ばしていた。助けて……、と声が聞こえたような気がした。でも、私の後ろには鳥女さん達が笑顔で立っていて、私に優しくしてくれた。少女を見て、お腹を抱えて笑っている鳥女さん達もいた。鳥女さんのひとりが、私に感想を促した。楽しいかと。
 黒と白の火。白と黒の少女。――少女に差しのべられている手を、私は……。

 ドアノブを捻った。扉が開いた。その奥に何があるのか、私は確かめる必要があった。暗黒と言ってもいい、そんな暗い扉の奥に足を踏み入れた。私の身体は、落下するかのようにどんどん扉から離れて行った。もう、空高く浮かんだ扉はお米粒よりも小さくなっていた。でも、風は感じられない。

 鳥女さんが私に感想を促した。赤い火の中で、白と黒だけの灰と化していく少女を指差しながら。助けを求めるかのようい突き出されている手は、唯一肌色で、まだ、助けられるかもしれないという希望だった。私は、その手を引いた。そうすると、鳥女さん達は、発狂したかのように高い声をあげた。私の鼓膜は劈かれたような激しい震動を受けた。
 それでも、私は必死に少女の手を引いた。何とか少女を炎から救いだした。その少女の姿は、左目から白い液体を垂らし、右の頭から頬に掛けて、肉が焼けてなくなっていて、とても、生きているとは思えない姿だった。鳥女さん達は、発狂したように少女を踏みつけ回し、その度に少女の姿はより、異形へと変貌していった。
 すごく醜い姿。少女は、そんな姿で、私に必死に這い寄り、助けを乞うているようだった。その姿は、頭から腕の生えた、あのとき、ゆめで出会った白黒の少女のものとなっていた。少女は頭から生える腕を私に伸ばした。私は……。

 もう、扉は見えない。暗い空間がひたすら続くのみで、手足の自由は利かず、ぐるぐる回っているような感じだった。先程からコマ切れに見えている映像は何なのだろうか。私は、いったい、何をしているの? 何を、したの?
 一瞬、黒い長い髪の少女が、頭から腕が生えた泣きじゃくる少女を優しく抱いているのが見えた。私はすごく遠くからそれを見ていて、ふたりの姿はすぐに空中高く上がって行き、消えてしまった。正確には、やっぱり私が下に落ちているようだけど。ずっと、落ち続けるのかな。
 何かが見えた。一瞬だけ、大きな、大きな、何かが……。何処かで見たときはこれ程大きくなく、もっと、もっと小さかったはずの何か。これは……、私の心を蝕む、何か。不意に、ポニーテールの女の子の言葉を聞いた気がした。忘れてしまっているような、とても怖い言葉。ただ、聞いたはずなに、目を覚ました私の記憶からは完全に消えていた。
 頭を押さえた。頬を擦った。髪に指を通した。スカートを握った。肩を抱いた。テレビをつけた。椅子に座った。日記を捲った。

 稚拙な字で、お絵描きをしたことが書かれていた。挿絵も付いていた。それは、壁画の世界の絵のような、ヘンテコなもの。何故か、友達の名前のところだけは、かすんで読み取ることが出来なかった。
 小学生になって、友達が新しく出来た。同じクラスの一年生と、その姉の三年生。私が幼稚園の頃から仲良くしている友達と、新しく出来た友達の、四人でピクニックに行った。ピクニックと言っても、近くにある、ゼンマイが採れる山に入って、おにぎりを食べただけだけど。すごく楽しかった。
 小学生の暮らしにもなれてきた五年生の頃。姉妹の家は火事に遭った。そして、妹の方は火傷で姿が著しく変わってしまい、イジメを受けるようになっていた。このときの私の心境が日記に書かれていた。

 ×××××がイジメを受けるようになってしまった。×××××はとても大切な友達のひとりで、×××××と×××××と×××××がいなくなっちゃうなんて、考えられない。でも、×××××をかばったりしたら、私も、きっとイジメを受ける。姉の×××××は中学生だから、あまりそういうこともないみたいだけど、私の同級生の×××××は、×××××をかばって、×××××以上にヒドイイジメを受けているみたい。私は、×××××も×××××も大切だけど、嫌いな虫を靴に入れられるのも嫌だし、体育の時間に先生に見つからないように暴力を振るわれるのも嫌だし、何より、みんなとも仲良くしたい。だから、みんなが仲良く出来る方法を考えようと思う。

 友達の名前は、何故か一様に×××××になっているけど、それが誰のことを言っているのかは文章の流れてでだいたい分かった。そこから先の一週間程の日記は、破り捨てられているようで、ノートが乱雑に破られた跡があるだけだった。その破られたページのぎざぎざに切られた紙の部分を指でなぞった。
 何も思い出せない。そして、次のページからは『ゆめにっき』が始まっていた。ここの記憶は、ちゃんと覚えているから、読むまでもない……。
 私はイジメられるのが嫌だった。でも、×××××と×××××がイジメられているのが、楽しかった訳じゃないし、ふたりを助けてあげたかった。
 ベッドに横になり、天井を眺めていた。
「……まだ慣れないんだね。でもね、ずっとお友達でいてあげて……、あのこは、ずっとあなたのことを大切な友達だと、思っているから……、ね……」
 いつかのように、長い髪の少女が、×××××の姉の×××××が、私の耳元で囁いた気がした。
「………」
 私は喋ることが出来なったけど、記憶の中に、この言葉に対して返した言葉が確かにあるのを思い出していた。そして、私はみんなが大切だったから、大好きだったら、こんな風に、まるで私が、×××××を嫌っているかのような言われ方をして、すごく心が痛んだのだった。どうすれば、みんな早く仲良くなれるのか、イジメがなくなるのか、学校を休んでまでずっと考えていたのだった。

 でも、答えは出なった。

「それで友達って言える? 最低だよ……。もう、あなた何か、知らない、出て行ってよ!」
 今度は×××××が、ポニーテールの女の子が私に怒鳴ったような気がした。確か、これはポニーテールの子の誕生日で、みんなが集まるのが分かっていたから、私もプレゼントを用意して行ったとき。すぐに×××××に学校で素っ気ない態度を取っていることで喧嘩になってしまって、プレゼントも渡せないまま、私は追い返されたんだった。いつだって、×××××とふたりきりになれたときは、必ず謝ったし、×××××と沢山遊んだのに。×××××はそのことを知らないから、私を敵視していた。些細な行き違いだったのに、それは日に日に大きくなって、だんだん私と×××××の距離を広げて行ったのだった。×××××と×××××が一緒にいる時間が必然的に増えて、私は三人の友達と、自然と会わなくなっていた。会いたくても、×××××が私を追い返すから、会えなかった。このときも、学校を休んだ気がする。自分が今までしてきたことが、何の解決にも繋がっていなくて、それどころか、私をどんどん孤立させていることに気が付いて、悩んでいたんだった。他のクラスメイトとは上手くやっていけていたけど、一番大切なのは、やっぱり幼馴染のあの三人だから……。
 でも、その後が、思い出せない。――どうして、私はこの部屋に閉じこもっているの? どうして、記憶を封印して、ゆめを見続けているの?

 気が付いたら、私はそのままゆめの世界にいた。導かれるかのように、数字の世界に行ったまでは覚えているのだけど、いつの間にか、赤い道にいた。何処かで見たことがあるけど、明らかに違う道。まだ、初めての道があるとは。ゆめの世界は探索し尽くしたと思ったのに。
 でも、もしかしたら、ここに日記の千切られたページのことが分かる何かがあるかもしれない。知りたくないような気もするけど、知らなければいけない、何かが。
 ここもやっぱりループしているみたいで、同じような風景がずっと続いていた。それでも足を休めることなく、歩き続けた。自転車に乗った方が早い、とか考えもしないくらい無意識に、歩いていた。
 前方にひとが見えた。今まで会ったことがないけど、よく知っているひと。半透明の、私と同じ姿のひと。半透明の私の前まで行き、じっくりと眺めた。やっぱり、私だ。こんなところで、ひとり、何をしているのだろう。
「……ここは、ね……、地獄なの……。私は、悪いことをしたから、ここでひとりなの」
 目の前の私は口を開いた。何処となく、微笑んでいるようにも見えた。
 地獄……? 私も、目の前の私も……。何故……。ただ、みんなに仲良くして貰いたかっただけなのに。

 赤い地面の地獄ではなく、ここは、学校。右端の机の上には花が置かれていた。私とポニーテールの子がぽつん離れ離れにいて、その周りを笑顔の鳥女さんが埋め尽くしていた。
 帰り道、ポニーテールの女の子が、いきなり後ろから私の頭を叩いた。驚きで何も抵抗できず、私はされるがままだった。痛い、やめて、と言っても、彼女はやめてくれなかっただろうけど。
「あなたが、あなたが、無視したりするから、あなたのせいで……」
 ちがう、ちがう……。私は、私は……。
 でも、私が何かを言う前に、ポニーテールの女の子は泣き崩れてしまい、私は彼女の肩を抱いた。ポニーテールの子は抵抗して、私の手を払いのけて、涙でかすむ目を擦りながら駆けて行った。そして、大きなトラックに轢かれた。身体は捻じれるように折れ曲がり、ビスクドールのような、青い瞳が地面に転がっていた。彼女の腕は宙を舞い、私の肩に触った。びくびくと動いていて、まるで、助けを求めているかのようだった。
 呆然としていた。辺りからひとが集まって来て、叫んだり、警察や救急車を呼んだりしていたと思うけど、私の耳には何も届かなかった。ただ、死後硬直を続ける腕を抱きしめて、焼けたソフトビニール人形のように、ぐにゃぐにゃに曲がっている先程まで生きていた友達を見ていることしかできなかった。

 どうして、止められなかったの。私が止めていれば、死ななくて済んだのに。
 どうして、鳥女さんと仲良くしたの。×××××と仲良くしていれば、誰も失わずに済んだのに。
 どうしてか。理由は簡単だった。

 自己保身。イジメられたく、なかった……。

 気が付くと、私は包丁を持って、学校に訪れていた。右端の机とその三つ後ろの机の上には花が置かれていた。それを気にすることもなく、鳥女さん達は、仲良さそうに、けらけらと談笑していた。
 ごめんね、×××××。ごめんね、×××××。ふたりとも、本当にごめんね……。今から、復讐するよ。ふたりをイジメたみんな殺して、下らない自己保身でふたりを殺した私を殺すの……。ふたりに、許して貰うために……。
 そうか、それで私は地獄にいたんだ……。喋ることのできない、今の私は、私の抜けがらみたいなものなんだ。もしかしたら、自己保身が生み出した化身なのかも。あはは! 私はそんな存在なんだ。地獄に堕ちてまで、まだ楽しみたくて、ゆめの世界を作ってエフェクト探して、遊んでいたんだ。だけど、ふたりへの後ろめたさがちゃんとゆめに反映したんだ。そうか、そういうことだったんだ。じゃあ、やっと、これで……。

 すべてを理解した私は、楽しむために作り出したエフェクトを、扉の部屋に捨てていた。捨てたそれは、元と違い、卵のような形を形成していた。もう、二度とここには戻って来ることはないだろう。そして、頬を抓った。ぷにゅー……。

 起きて、最後にナスをやろうかとも思ったけど、やめた。しばらく扉の前に立ち、ここを一度開こうか、どうか、少し考えた。まだ、この先に何があるのか分からない。でも、もう、死ぬ私に、それを知る必要はないと思ったので、そのままベランダにいった。
 ゆめだろうか。現実だろうか。そもそも、現実だと思い込んでいた先程までのものは、本当に現実だったのだろうか。ベランダには、白い台が設置されていた。たぶん、自分で設置した台。見ないようにしていた台。
 その台の上に乗った。記憶が蘇った。怖くもあり楽しくもあったゆめの世界。そして、楽しくもあり辛くもあった現実世界。
 不思議なくらい高いビル。下は何も見えない。高い場所にあるからか、お日様が眩しい。
 すごく、穏やかな気持ちだった。穏やかな気持ちで、本当に素直な気持ちで、私は謝罪した。
「………」
 ちゃんと喋ることが出来たけど、その小さすぎた声は、私にすら聞こえなかった。――死んでしまったふたりには、ちゃんと届いたかな。
 私は、一度大きく息を吸い、台から、一歩踏み出した。身体が宙に浮かんだ。これで、すべて終わる。ほんとうに、何もかも、終わる……。
「……死んじゃ、駄目だよ……、×××××はあなたのこと、大切な友達だと思っているんだから……」
 誰かの声。私の身体は宙に浮いたまま、止まっていた。右の手首が強く握られていて、痛いと同時に暖かった。ふと振り返ると、長い黒髪の少女が、×××××のお姉さんが、私の腕を必死に掴んでいた。
「だめ」
 私は自嘲気味に微笑み、腕を振りほどこうとした。私は死ななければならない。そうじゃなければ、ふたりに申し訳が立たないもん。何より、このままじゃふたりとも落ちてしまう。いくら中学生だとは言え、女の子がひと一人、引きあげられる訳、ない……。
「……勝手に、死なないでよ……。わたしも、反省してるんだよ……。辛く当たれば、昔みたいにわたし達のもとに、戻って来てくれると思っていて……、それでね……、だから、死なないでよ……」
 ポニーテールの女の子が、私の左手首を掴んだ。それでも私の身体はまるで引き摺られるかのように、落下をやめようとしなかった。
「むり」
 ふたりでも引き上げられないよ。お願い、放して……。そう、願ったとき、私の身体は急激に軽くなって、ベランダに戻った。ベランダには、ツインテールの女の子もいた。彼女が、姉の身体を引っ張って、そのお陰で私は、ベランダに戻ってこられたみたい……。
「………」
 三人は、私を取り囲むように抱いてくれた。ふたたび、謝ろうとした私の言葉はそれによって潰れた。でも、無言のうちに、四人の心は幼かった頃のように、ひとつに戻っていたように思う。そうだったら、いいなぁ。
 私も三人を抱き返して、自然と溢れる雫を隠すかのように大切な友人達の胸に、顔を埋めた。

 *

 私は空中にいた。長い長い、最後のゆめを空中で見終えて、現実世界に戻って来た。ひとは、死の直前の一瞬の間に、自分の過去を収縮したような、長い長いゆめを見るんだって、何かで見たことがあった。今、それを体験することができた。

 いいゆめだったなぁ。とても温かい、楽しいゆめだった……。

 でも、この最後に見たゆめは、日記には書けないよね。少し、残念。 
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