いちいち日誌

自分の中だけではなかなかわからないことをいちいち文章にしてから考えるくせがあります。

The under the umbrella

2010年02月16日 | 日記

ぼんやりとした光の中、電車の音が一瞬する。
真っ暗な夜の海の中のよう、または、真夜中の空の色みたいな真っ黒さ。
そのうち、雨が降ってくる。ぽつぽつ・・・さーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ずっと見ていたいな」
「どれ。」
「あの灯り。いいでしょ、あの灯り達」
「灯りなんてないよ」
「あるんだよ、夜になったら、いい感じで、こう、ぽわあって」
「ふーん」

電車を降り、傘をさして、学校に行く。
その途中に見える殺風景な家々。
毎朝、学校までの道のりが旅。
傘の下が一つの世界。水たまりは、あっちの世界とつながっている窓。
時々ゴロゴロと鳴る雷は、「さあ、走れ」の合図。

私は迷っている。何かに迷っている。
頭ばかりが大きくなって、自分でもコントロールできない。
これは、誰もが抱えていることなのかもしれないが、抜け出すのは自分の足でしかない。
本当は、このまま、旅に出てしまいたくなっていて、傘の下が心地よい。
うつむくと、二つの小さな山がある。この山がやっかいで、平地を求めてしまう。
面倒くさい、ややこしい、うっとうしい。
目の前にあるこんな小さな山でさえ、自分の手に負えなくなっている。

ぴちゃ。

水たまりを踏む。靴がじんわりしみてきた。
不快。
不快のはずなのに、もう一度、水たまりを踏む。
もう一度、もう一度、何度も、何度も。ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ・・・。
そして、両足でジャンプ!

バシャン!

跳ねた水玉は、カラフルな飴玉に変わっていく。
壊れてしまった夢のはじっこに、飴玉が転がっている。
ころころころころ。
赤、青、黄色の飴玉。
赤いのはイチゴ。青いのはきっとソーダ味。そして黄色は、突然に現れるあの日の風景。

「まち子、まち子は何色にする?」
「私はねえ・・・イチゴ!」
「私は、ソーダ!」
「さてさて、今日は何して遊ぼうか。」

まち子は言った、私に向かって。そう言いながら、川のほとりを駆けて行った。
三角のバックを肩からかけて、砂利の上をすたすたーっと走って行った。
私はそれを慌てて追いかける。

「まち子、まち子、待ってよ!」
「ねえ。」

まち子は急に立ち止まって、振り返った。
「ねえ、靴なげしよう!見てて、私、はじめに飛ばすから。えいっ!」
ぽーん、ぽと。
まち子の赤い靴は川のほとりの砂利の上に落ちた。
「じゃ、次わたしね。」
と、私も片方の靴を脱げやすいように紐をゆるめて、えいっと飛ばした。
ぽーん、ぽと。赤い靴よりも手前に私のスニーカーは落ちた。
「まち子の勝ちー!」
とても嬉しそうにまち子は笑って、横で飛び跳ねている。
私は、悔しい気持ちのまま、遠くに落ちた靴の所までケンケンで行った。
まち子も同じようにケンケンで行き、二人は靴を履いた。
私は紐靴だったから、少し時間をかけて、ほどけた紐を結び直した。

顔を上げると今までいたまち子が、そこには、いなかった。
夕暮れの川辺、オレンジ色のカラスが数羽飛んでいた。
ざらざらと流れる川のほとりには、ほんの少し、まち子の影が残っているように見えた。

「ああ、これは夢のはじっこだ」

今頃思い出した自分がちょっと情けなく、
それをごまかすかのように、私は最後に残っている夕暮れ味の黄色のあめ玉を口に入れた。
ふと、前を見ると夜がもうすぐそこまで来ている。さしていた傘が紺色に染まっていた。
私はどこを歩いていたのだろう。
いよいよ、本格的に降り出した雨が、ざんざんざんざんざんと音を立てている。
雨音はやがて拍手へと変化する。

「私を誰か祝福してくれているの?」

と傘の中でつぶやいた。誰にも聞こえない声で。
ここは傘の下。
独り言も妄想も涙も鼻歌も、まるで、めまぐるしく展開するサーカスを
独り占めしているかのように、飽きることがない。
でも、それでも、拍手の音がなりやまないので、傘を少しだけ、あげてみた。
誰もいない。それでも、どんどん大きくなる拍手。
拍手に混ざって、小さな声が聞こえて来た。

「どうせ、さまようなら、ここにいてもいいって証だよ」
「そう、それならよかった。」
「思いっきり、行って来なさい。心配はいらないから」
「そう、それならよかった」
「もう、会えなくなっても、大丈夫。いつでも私たちが向かう先は、同じ場所だから」
「そう、それならよかった。そう、それならよかった。それなら。それなら。」
「今度こそ、さようなら。」

手を振りながら、いつのまにか手から傘は離れていた。
傘は風に吹かれて、高く高く舞い上がり、小さくなった。
残されたのは、この体だけ。二つの山が未だ健在する、この体だけ。

「あ。灯り。」

漆黒の空に、連なるいくつもの灯りを発見し、私は心底、満足した。
胸の音が急激に大きくなる。
そして、走るでもなく、けれどしっかりとした足取りで地面を蹴り上げ、
灯りに向かって踏み出していた。




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キーワード
風に吹かれて オレンジ色
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