アグリコ日記

岩手の山里からお届けするさまざまな動物や植物、生き物たちとの共同生活。

大岳温泉の怪 (最終回)

2004-10-27 04:50:58 | マルちゃん
ネズゴリラは石灯籠を投げつけようとしていた。
立っているのがやっとのマル。
地面に落ちて、燃えるターシャ。
マルはこの時生涯で初めて、すべてを諦めかけていた。
自分はもう、何もできないのか!


次の瞬間、


天空からひと筋の閃光が走った。
光は掲げられた石灯籠を真っ二つに粉砕し、
ネズゴリラの肩口から入って股間より地面へと、
一直線に、貫く。
すべてが青白く、煌いた。

バシィィッ!


ウギャアッ!


粉々に砕けた石灯籠の欠片とともに、ネズゴリラの体が、ゆっくりと地面に倒れる。

次に閃光は、淑大僧正に降りかかる。
しかし間一髪、彼は蝙蝠のように身を翻して、からくも直撃をかわした。
地面に炸裂した稲妻は、土を焦がして黒煙を上げる。
オーブクローラーのレーザービーム!
高度1500mからの正確な射撃は、オーブブルー、ユウカのものだろう。
予想外の攻撃に、大僧正は歯軋りした。

くそぉう・・・悔しいかな。
今ひとつのところだったのに。
イエロー・マル、命拾いしたようだな。
この勝負、残念ながらまたの機会に預けたぞ。

言うが早いか、大僧正は素早く手にした杖で弧を描き、
まるで煙のように、炎の魔方陣の中に消えて行く。
いつもながら逃げ足は速い。



庭の一隅でターシャは今、最期の力を振り絞り、
ともすれば乱れ拡散する自らの精神波を掻き集めながら、
意識の海に、ローランドの心の糸を捜していた。

ローランドの意識は虫の声よりもか細く、今まさに消え行こうとしていた。
ターシャはそれを、意識の外縁で捕らえた。

ー ローランド・・

ターシャ・・・    オモイダシタ・・・
ターシャ・・  オレの、ともだ・・ち・・・

それがローランドの、最期の思念だった。

ターシャの思いは、消え行く彼の手を固く握り締め、
そして自身もまた・・・
消えて行った。



上空に厚く垂れ込めた雲の一角が俄かに波立ち、
ポッカリと穴が開いたと思うと、そこから垂直下降するオーブクローラーの体躯が姿を現す。
鋼の装甲が今まさに沈まんとする夕日を浴びて、鮮やかなオレンジ色に輝く。

マルは全速力でターシャの元に駆けているつもりだったが、
傍目からは、ふらふらと頼りなく歩きもがいている風に見えた。
それでもどうにか辿り着き、
未だくすぶっている小さな体を抱き寄せる。
服の胸元がちりちりと焦げる。
熱いはず・・・だが今のマルには、熱さもなにも感じられない。

ターシャ!・・・

抱きしめたターシャの体に、ひとつ、ふたつと雫が落ちる。
やがて雫は滝となり、彼女の頬を止めどなく流れ落ちた。





上空のオーブクローラーから、レッドの、ブルーの、スカイオーブが飛び出す。
ピンクが、パープルが、ツバメのように軽やかに機体を翻して、急降下体勢に入る。
色とりどりのスカイオーブは茜色の航跡を残しながら、一枚の立体絵図を空中に描いているようだ。


マルには仲間がいる。
みな、ひとりでは力弱いけれど、
お互いに助け合う、仲間がともにいてくれる。

ターシャ、一緒に、生きたかった。

マルは小さな仲間を救えなかった悲しみの淵にいる。
けれど彼女のこの哀しさを
ともに分かち合える者たちが、今舞い降りてくる。

ぐっと両腕に力を込めて、抱きしめる。
ターシャの大きな瞳は閉じて、
まるで、マルの胸元で眠っているようだった。






(『大岳温泉の怪』 完)



巻末グラビア

「ガッツ! マルちゃん」







キーワード
ローランド マルちゃん オレンジ色 レーザービーム
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12 コメント

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ご苦労様でした! (ぷよぱぱ)
2004-10-27 15:37:31
★あぐりこさん
 渾身の力作ですね。
 しっかりと読ませて頂きました。
 もう一度、最初から通して読んで、
 あぐりこ監督の力作を味あわせて
 いただきたいと思います。
ぷよぱぱさん、 (agrico)
2004-10-27 16:45:15
始め前編・後編、または中編も含めて終わらせるつもりが、
手を入れてるうちにこんなに長くなってしまいましたよ。
結末まで書いて、決して明るい話じゃないとは思いましたが、
私の中のイメージとしての「闘い」は、こんなものなのです。
闘いの中でお互いに傷ついていく、それをどうしても表したかったのです。
「オーブ」全体のイメージの中で、これはどうか、と思う不安はありました。
そぐわないようだったら、サイドストーリーにでも入れてくださいね。
長くつき合ってくれてありがとう。
書き終えて、こちらもホットしました。
勧善懲悪 (ぷよぱぱ)
2004-10-27 19:03:02
★あぐりこさん
 子供向けなので、どうしても勧善懲悪の構図が前面に出ますが、歴代の戦隊モノを見ていると、人気のシリーズほど、実は「善悪」の区切りが単純ではなかった気がします。

 「善」も「悪」もきちんと描こうとすれば、こういう話にならざるを得ないのでしょうね。

 ただ、最近の「ライダー」シリーズが、「母親」狙いもあって、執拗に「苦悩するライダー」を描いていますが、それはそれで鼻につきます。

「お話」とすれば、程々が良いのでしょうね。
その意味で、この「お話」は、少し辛口だったかもしれませんが、十分美味しく頂ける「お話」だったと思います。
シビアな辛口 (あぐりこ)
2004-10-27 19:27:44
どうも自分が出てしまうんですね。
カレーでも、辛口が好きです。
日本酒なら、甘口でもいけます。
物語なら、現実に近い方が好きです。
つまり、私の受け留める現実が、辛口なんでしょうね。
これが自分の世界なんですね。

この物語、実はターシャとローランドを描きたかったのですよ。
これが実のテーマでした。
こんにちは。 (Ken)
2004-10-27 22:01:55
もう拍手喝采ですよ。
素晴らしい物語です。
書き手が違うと、違ったストーリーが生まれていく。
オーブファイブの新しい面を見ることができました。
ぷよぱぱさん同様、再読する価値があると思います。
ありがとうございました。
面白かったです。 (通勤マンガーZ)
2004-10-28 00:38:27
俺も、結構テレビやマンガで正義とかを学んだりする子供でしたから、今回のストーリーは是非自分の息子にも見せたいですね。
「悪」とひとくくりにするのでなく「悪」にも事情があるものがいるし、やっぱり命は尊いんだというのがすごく伝わりました。
こういう悲しい出来事をなくすためにヒーローっているんですよね。
ただ戦闘を繰り返すだけでなくこういうストーリーがあると「なぜ私たちは戦うのか!」っていう定義づけがしっかりできて骨太になると思います。
いいストーリーが加わって嬉しいです。
お疲れ様でした!
Kenさん、 (agrico)
2004-10-28 07:13:12
天地をひっくり返すような災害の際に、
道徳も、法も、世間体も無くなって、
人はその本性を表す。
そこには人の持つ生の姿、美しさから醜さまでが描き出されますね。
命をかけた戦いもそうです。
それが私たち人間なのだから、直視しなければならないと思います。
私なりにできるだけ飾らず、かといって飽きさせず、
思いつく限りの「戦闘」モノを書いてみました。
ずっと励ましてくれてありがとう。
お陰でここまで来れました。
通勤マンガーZさん、 (あぐりこ)
2004-10-28 07:22:55
「正義」って、無いと思うんです。
実体も無いものを、各人の都合によってかってに理屈をつけて正義と名付けてしまう。
そしてその結果、必ず殺人や強奪、加害が行われる。
正義を信じる人のすることは、
より巧妙な理論武装と力の増大だけです。

この物語でも、みんなそれぞれの境遇で精一杯生きている姿を描こうとしました。
唯一、淑大僧正には悪役になってもらいましたが。
いつか、彼をメインにした物語ができるといいですね。
知られざれ淑大僧正の秘話、誰か書いたら面白いでしょうね。

ありがとう。皆さんのお陰で終えることができました。 
虎、お持ちしました。 (ぷよぱぱ)
2004-10-29 11:50:39
★あぐりこさん
 ちょっち軽めのお話しを書いてみました。
 あぐりこさんに叱られちゃうかも
何をおっしゃるぷよぱぱさん、 (agrico)
2004-10-29 17:25:26
あれこそが、オーブらしさですよ。
本当は私もあんな軽快さを出したいんだけれど、
なかなか出せないんです。
略博士は、生粋の岩手県人ですよ。
方言を使わしたら、私の上ですから。
・・・・・(涙) (りおし)
2004-11-14 20:50:05
そうですか・・
ターシャは死んじゃうのですね・・
実は今初めてこのお話読んだのですが

ナレーションの前にこのお話読んで
おけば、もっと違った感情で
トルことができたのかも・・
少し後悔しています。


りおしさん、 (agrico)
2004-11-14 21:25:40
今となっては何とも言いようがないのですが、
ターシャを、死なせたくはないという気持ち
私自身が誰よりも持っていると思ってます。
でもその一方で、
この物語の中、ターシャが死ぬことによって
産まれるものがある。
読む人に、それを読み取っていただきたいと、
勝手ながら思ったのです。
闘いというもの、生きるということ、
生命ということ、
それを自分なりに表そうとした物語でした。
これが、オーブファイブと私との接点として
この時私が見つけたものだったのです。
我ながら、哀しい物語です。

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