
ネズゴリラがマルをあわや鷲掴みにするその瞬間、
マルは猫のような敏捷さで空高く飛び上がった。
野生の勘である。
幼い頃から野山の動物たちと遊び戯れていたマルの直観力が、今この瞬間に鋭く働き続ける。
ネズゴリラの両腕は、空を掴んだ。
高く舞い上がったマルは、上体を反転させると同時に、渾身の力を込めて、ネズゴリラの顔面目がけて回し蹴りを叩き込む!
バシイッッッ!
マルの全体重をかけた回し蹴りは、どんな巨漢でも一撃でふっ飛ばす。
しかも先ほど抉られたばかりの眼球に炸裂した。
跳ね散る血しぶき。
ネズゴリラが、雷のような叫びを上げる。

だが、彼の右腕は同時にマルの体を薙ぎ払っていた。
横殴りに襲い掛かって来た丸太のような腕を、マルは反射的に両腕でブロック!
けれど鉄壁の防御はいとも簡単に破られ、マルの体は紙風船のように弾き飛んだ。
マルは重さを失ったかのように回転しながら、10mほど空を飛ぶ。
母屋の軒下に積まれていた桶が、粉々に砕けて飛び散る。
腕に付けていたオーブシーバーは、原形を留めないほどに変形した。
背中をしたたか打ちつけられたマルは、そのまま動かない。
いや、動けないのだった。
一方ネズゴリラも、両手で顔を押さえてもがき苦しんでいた。
左眼球に対する2度の攻撃は、眼窩を打ち砕き頭蓋骨をめり込ませて、明らかに致命傷に達していた。
悲痛の唸り声を発しながらネズゴリラの膝は折れ、上体は深く屈む。
ー ローランド!・・・
樹上のターシャの心は支離に乱れていた。
いつか互いの祖国に帰ることを誓った親友が、今半身血にまみれながら苦しみもだえている。
しかも相手は、ターシャをネズロンから守ろうとしている、新しい友人、マルなのである。
ローランド。もう、やめて。
もう、これ以上、マルと闘わないで!
ターシャの切実な思いとは裏腹に、
淑大僧正の無慈悲な怒声が投げかけられる。
なんだ、ネズゴリラ。
これしきの攻撃で、もう終わりか?
我がネズロンのモンスターとしては情けない様だな。
立てい!
立ってイエロー・マルに留めをさせい!
命尽きるまで、破壊し続けるのじゃ!
ネズゴリラの唸り声が哀しみを帯びた叫びに変わる。
ウギャオーーーーーン!
しかしネズゴリラは立ち上がった。
残された片目は再び怒りに燃え上がって周囲を見回し、
木桶の残骸に囲まれて横たわっている、マルを捕らえた。
その頃高度1500m上空のオーブクローラーの中では、パープルが操縦モニターを見ながら声高に言った。
速力マクキシマム。進路偏差マイナス4度。
オーブクローラー、目標地点まで到着、あと4分30秒。
ん・・もう、遅いわね。もっと速くできないの? このポンコツがあぁっ。
興奮しないでョ、ピンク。これでも時速1200kmの全速力なのよ。
マルの緊急信号を受信してから15分経過。
相変わらずマルからの応答はありません。
あ!
オーブシーバーの通話信号、途絶えました。
メカ本体の所在確認も、不能です!
それはつまり、超特殊硬化繊維で作られたオーブシーバーが破壊されたと言うことね。
マルちゃんは今、並々ならぬ非常事態に巻き込まれていると解して、間違いないわね。
はい、ブルー。
・・・・・・
一同の中に、焦燥感が広がる。
オーブくローラーは、夕焼けに赤く染まった空の中を水素エンジンの音を響かせながら、一路北へと向かっていた。

一方、大岳温泉の前庭では、ネズゴリラが顔前を飛び交う大型の鳥を払い除けようと躍起になっていた。
鳥たちは1羽、また一羽と代わる代わるにネズゴリラに襲い掛かる。
片目を潰された彼は、空中を飛び回る鳥を払うの難儀していた。
既に上空では何十羽もの鳥が空を飛び交い、
更に遠くからも次々と集結して来るのだった。
ターシャのテレパシー!
彼は心を持つ生き物すべてと交信することができる。
彼は杉の梢にしがみ付きながらも、テレパシーが届く限りの鷲やハヤブサ、トンビ、ヨタカたちを集め、
ローランドの残った目を攻撃するように、説き伏せたのである。
ターシャの友に対する、苦渋の選択だった。
それに気付いた淑大僧正は、怒色をあらわにした。
おのれ、メガネズミ!
あくまで邪魔だてする気か。
それならば、もうお前などに用は無い。
この世から消え去るがよいわ!
淑大僧正の杖が動いた。
ひねくれた瘤のように曲がった先から、炎が一直線に噴き出す。
火は杉の根元を真紅に包み、たちまちにして一本杉を燃え盛る松明へと変えて行った。
途中まで上っていたネズロン兵たちが、炎に包まれてひとり、またひとりと落下して行く。
キーーーーッ!
キーーーーッ!
龍のような炎は太い幹を伝って瞬く間に高く舞い上がり、
梢近くにしがみ付いていたターシャの体にも燃え移ろうとする。
ターシャは危険を感じて枝の先からジャンプしようとするが、
間髪の差で間に合わない。
ギャーーーーッ・・・
叫び声とともに、ターシャが炎に包まれて落下する。
火達磨となった彼の体は、高い梢から地面に向かって、ゆるやかな放物線を描く。
タ、ターシャ・・・
ようやく上体を起こしたマルは、それを目にして叫んだ。
体が石のように固まって、動けない。
どうやら背骨と腰椎、それと手首をどうにかしてしまったようだ。
が、ターシャを助けなければ。
私は、彼を無事、故郷に帰すと約束したのだ。
そのためには、今、立たなければ。
マルはフラフラと立ち上がった。
頭ではすぐにでもターシャの方に駆け出したい衝動に駆られるけれど、
胴体が、鉛のように重く、すぐには動けない。
そして今、視界の隅に、
鳥たちの攻撃を追い払ったネズゴリラが、庭の石灯籠を引き抜いて両手で振り上げ、
マルの頭上に投げつけようとするのが見える。
今の私が、それをかわすことは、できるだろうか。
は、は、は、・・・
イエロー獲ったり!
オーブ戦士とて、如何ほどのことがあろうぞ!
この世において我がネズロンに、敵うものなし!
燃え盛る炎に赤く染まったマルの耳に、淑大僧正の高笑いが響いた。
(『最終回』に続く)
マルは猫のような敏捷さで空高く飛び上がった。
野生の勘である。
幼い頃から野山の動物たちと遊び戯れていたマルの直観力が、今この瞬間に鋭く働き続ける。
ネズゴリラの両腕は、空を掴んだ。
高く舞い上がったマルは、上体を反転させると同時に、渾身の力を込めて、ネズゴリラの顔面目がけて回し蹴りを叩き込む!
バシイッッッ!
マルの全体重をかけた回し蹴りは、どんな巨漢でも一撃でふっ飛ばす。
しかも先ほど抉られたばかりの眼球に炸裂した。
跳ね散る血しぶき。
ネズゴリラが、雷のような叫びを上げる。

だが、彼の右腕は同時にマルの体を薙ぎ払っていた。
横殴りに襲い掛かって来た丸太のような腕を、マルは反射的に両腕でブロック!
けれど鉄壁の防御はいとも簡単に破られ、マルの体は紙風船のように弾き飛んだ。
マルは重さを失ったかのように回転しながら、10mほど空を飛ぶ。
母屋の軒下に積まれていた桶が、粉々に砕けて飛び散る。
腕に付けていたオーブシーバーは、原形を留めないほどに変形した。
背中をしたたか打ちつけられたマルは、そのまま動かない。
いや、動けないのだった。
一方ネズゴリラも、両手で顔を押さえてもがき苦しんでいた。
左眼球に対する2度の攻撃は、眼窩を打ち砕き頭蓋骨をめり込ませて、明らかに致命傷に達していた。
悲痛の唸り声を発しながらネズゴリラの膝は折れ、上体は深く屈む。
ー ローランド!・・・
樹上のターシャの心は支離に乱れていた。
いつか互いの祖国に帰ることを誓った親友が、今半身血にまみれながら苦しみもだえている。
しかも相手は、ターシャをネズロンから守ろうとしている、新しい友人、マルなのである。
ローランド。もう、やめて。
もう、これ以上、マルと闘わないで!
ターシャの切実な思いとは裏腹に、
淑大僧正の無慈悲な怒声が投げかけられる。
なんだ、ネズゴリラ。
これしきの攻撃で、もう終わりか?
我がネズロンのモンスターとしては情けない様だな。
立てい!
立ってイエロー・マルに留めをさせい!
命尽きるまで、破壊し続けるのじゃ!
ネズゴリラの唸り声が哀しみを帯びた叫びに変わる。
ウギャオーーーーーン!
しかしネズゴリラは立ち上がった。
残された片目は再び怒りに燃え上がって周囲を見回し、
木桶の残骸に囲まれて横たわっている、マルを捕らえた。
その頃高度1500m上空のオーブクローラーの中では、パープルが操縦モニターを見ながら声高に言った。
速力マクキシマム。進路偏差マイナス4度。
オーブクローラー、目標地点まで到着、あと4分30秒。
ん・・もう、遅いわね。もっと速くできないの? このポンコツがあぁっ。
興奮しないでョ、ピンク。これでも時速1200kmの全速力なのよ。
マルの緊急信号を受信してから15分経過。
相変わらずマルからの応答はありません。
あ!
オーブシーバーの通話信号、途絶えました。
メカ本体の所在確認も、不能です!
それはつまり、超特殊硬化繊維で作られたオーブシーバーが破壊されたと言うことね。
マルちゃんは今、並々ならぬ非常事態に巻き込まれていると解して、間違いないわね。
はい、ブルー。
・・・・・・
一同の中に、焦燥感が広がる。
オーブくローラーは、夕焼けに赤く染まった空の中を水素エンジンの音を響かせながら、一路北へと向かっていた。

一方、大岳温泉の前庭では、ネズゴリラが顔前を飛び交う大型の鳥を払い除けようと躍起になっていた。
鳥たちは1羽、また一羽と代わる代わるにネズゴリラに襲い掛かる。
片目を潰された彼は、空中を飛び回る鳥を払うの難儀していた。
既に上空では何十羽もの鳥が空を飛び交い、
更に遠くからも次々と集結して来るのだった。
ターシャのテレパシー!
彼は心を持つ生き物すべてと交信することができる。
彼は杉の梢にしがみ付きながらも、テレパシーが届く限りの鷲やハヤブサ、トンビ、ヨタカたちを集め、
ローランドの残った目を攻撃するように、説き伏せたのである。
ターシャの友に対する、苦渋の選択だった。
それに気付いた淑大僧正は、怒色をあらわにした。
おのれ、メガネズミ!
あくまで邪魔だてする気か。
それならば、もうお前などに用は無い。
この世から消え去るがよいわ!
淑大僧正の杖が動いた。
ひねくれた瘤のように曲がった先から、炎が一直線に噴き出す。
火は杉の根元を真紅に包み、たちまちにして一本杉を燃え盛る松明へと変えて行った。
途中まで上っていたネズロン兵たちが、炎に包まれてひとり、またひとりと落下して行く。
キーーーーッ!
キーーーーッ!
龍のような炎は太い幹を伝って瞬く間に高く舞い上がり、
梢近くにしがみ付いていたターシャの体にも燃え移ろうとする。
ターシャは危険を感じて枝の先からジャンプしようとするが、
間髪の差で間に合わない。
ギャーーーーッ・・・
叫び声とともに、ターシャが炎に包まれて落下する。
火達磨となった彼の体は、高い梢から地面に向かって、ゆるやかな放物線を描く。
タ、ターシャ・・・
ようやく上体を起こしたマルは、それを目にして叫んだ。
体が石のように固まって、動けない。
どうやら背骨と腰椎、それと手首をどうにかしてしまったようだ。
が、ターシャを助けなければ。
私は、彼を無事、故郷に帰すと約束したのだ。
そのためには、今、立たなければ。
マルはフラフラと立ち上がった。
頭ではすぐにでもターシャの方に駆け出したい衝動に駆られるけれど、
胴体が、鉛のように重く、すぐには動けない。
そして今、視界の隅に、
鳥たちの攻撃を追い払ったネズゴリラが、庭の石灯籠を引き抜いて両手で振り上げ、
マルの頭上に投げつけようとするのが見える。
今の私が、それをかわすことは、できるだろうか。
は、は、は、・・・
イエロー獲ったり!
オーブ戦士とて、如何ほどのことがあろうぞ!
この世において我がネズロンに、敵うものなし!
燃え盛る炎に赤く染まったマルの耳に、淑大僧正の高笑いが響いた。
(『最終回』に続く)










ターシャぁぁぁぁっっっ!!!!
立たなければ・・・
立って、ターシャを助けに行かなければ・・・
この、どスケベっ!
・・・い、いや、失礼しました。
大僧正様本体のお出ましとは、恐縮の至りです。
マルちゃんは少し激昂しているようです。
よくお会いしてはいましたが、ちょっと挨拶が遅れてしまってすみません。
正直言うと、もう、とうに「オーブ」の関連記事を全部読むことは諦めちゃっていたのです。
あまりの拡大の速さに、付いていけないでいたのでした。
だから今のところは、「物語」的なものしか読んでないのです。
淑之さんのキャラクター、この「オーブ」のどんぴしゃナンバーワン、ですね。
主人公と同じくらいの重みがあります。
ストーリーの中で憎まれれば憎まれるほど、
オーブが引き立つという、なんとも宿命的な立場ですね。
羨ましくも、恐れ多いです。
これからがいよいよ本筋なので、精一杯憎まれてくださいね。
コメントありがとう。
こちらからも伺ってるのですが、ゲームに疎いものだから、コメントしにくくていました。
動物たちが炎に包まれ、マルも重傷
最終回はどいうなるのか!
今から行ってきます!
正義の味方が悪の怪人をやっつける。
子どもたちはタイガーマスクやミラーマンの必殺技を使って弱いものいじめをする。
そんな「当たり前」の環境で私も育ちました。
でも今この歳になって、
それが人の社会の中では、決して当たり前ではないことに気づきました。
そしてそれが私たちの心にどうような影響を及ぼして来たのかにも。
だから、「戦争」「闘い」「争い」についての私の物語は、このように熾烈になるのでしょうね。
結末は読む人の意に添わないかもしれません。
でも、これが私の世界だから。