箱庭にびいだまを植えました。

杜崎アオの短歌もろもろ

『ベルエア』 

2012-02-15 21:10:14 | 連作ぽいもの

  『ベルエア』      杜崎アオ



密林をとおくおもえば多孔質なかるいしのふる薄曇りの日

ON/OFFにはさむ栞のしるされた死者のことばはゴシック体で

手についた朱肉のあかにふとよぎるタスクトレイに残したきのう

仮にエア自殺とすると誰の血も流れず流れてもそれもエア

パン屑をこぼさない子がよい子です 非常階段あなたは立って

憎めれば美しいのに 銀製のトレイ傷あり冴え冴えと、なお

割れた爪みないまま打つ液晶に吹き溜まってくきれいな名詞

謝ればすむ嘘なんてしあわせな水飲み鳥の青いくちばし

涙つ、と落ちる速度に問いかけも答えも折りたたまれて「ねえ」「うん」

カナリヤは泣かないようにしてるだけ雨でもここは明るいひろば

警報機誤作動起こすキッチンでいずれあふれる白湯の2杯め

半分の眠りのなかに棘のごとつぎつぎ降りてくるパラシュート

夕風に残り香ゆらぐモビールの貝のことばを思い出せずに

とぎれてはならぬ境界くりかえしトレースするほど滲むラインは

本心を見せずに雛はさえずりし とぽん と落ちるポケットのなか

有機なる無機なるおもみ万年の無言をふくみ木は石と化す

あしたにはきっと忘れる花の名で記帳するとき罪はなないろ

ぬるま湯に沈むユリイカゆるされる居場所であればいいのにきみが

産卵をしない羽虫がいっせいに覆い尽くして空うらがえる

うばたまの背負いきれない夜ひとりホットミルクが中和する黒

丁寧にアスパラを噛む祝日に宛先不明の手紙が戻る

グラデーション越えてゆく旅どこまでもまだ目的地周辺の猫

他者という鉛の曜日だれからも声かけられず街をあるけば

あこがれが沈んでいった海底の泡棲む場所に常夜灯ひそ

パレードの旗は過ぎゆきもう何もしたくないのでこぼすマーマレード

とじこもり真空凍結乾燥(フリーズドライ)、あるいはもう重力のない星へゆきましょう

2次元の青虫のまま飛翔する高さを知らずグリッドはるか

大切なものをみつけてない指がきみの表紙に指紋をつける

後ろには影があるのに壁にまだからまる蔦はあおいのに墓碑

遺骨にも仏の座ありネアンデルタール人には積もる花びら

洪水のせまりくる日はほんのりと凭れあってる肩あたたかい

らしさよりふつうを選びすぎる背は真の弧となるやさしく閉じて

告発を受け流す耳さらさらと何度もおちる何度でも砂

襟の縫い目かぞえるひまにコーヒーは冷め(はじめから苦かった水)

抜け殻のよう脱ぎすてた靴下は直立くつした人にならぬか

頬を張る澄音(すみね)しんしんしみこみてただの痛みも遺跡となりゆく

音がまだこころこころと銅色のすすき野原においてきた鈴

しあわせを強制されて育つ子の不幸は錆びた夕焼けのした

切り分けるケーキみっつの精密を呪うお仕事 ※見てはいけない

きれいでも正しくもない服を着て「どちらかといえばいいえ」に丸を

チェス盤に三角コーンここからは避難所とする 沼色である

万馬券ばらまくように軽はずみなことが言いたい「愛してる」とか

どちらへもゆけばY字路待つものはわたしの影によく似たあなた

笑う場は笑うのみの場 支配者となって空気のようにわらえよ

いまいちど選べるのなら手品師のトランプすべてクローバーなら

わかってる<スペース>だけどできないよ<スペース><スペース><スペース>ごめん

水紋はかすかな音を可視化させしたたる月のまためぐりくる

ふれておりふれられずおり朝を待つけむりのように車輪のひびき

実測す「あるいたことのないようなあしだね」さびし踵のアール

温湿度記録用紙の波立たずあえてあいこをつづけるこの手




(2011年5月 第57回角川短歌賞応募作品50首)
 
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