

001:初 隠者ども集う闇なかほおほおと蛍の泣くを見しか初市
002:幸 親しげなその一枚目、幸せの終わりを始めるためのドミノよ
003:細 交われば肺魚のふたりつぎの世も細い神話のつづきを語る
004:まさか くろがねの翼のむごいくちづけを受けてまさかの死んだあのあさ
005:姿 あまりにも愛しすぎるの鏡にもうつせず姿さ迷える草
006:困 恥ずかしい水辺に堕ちたくちびるの困ることなどなくとも深紅
007:耕 消失への前奏として血脈を耕すように抱いて火花は
008:下手 すみやかに釘引き抜かれ王族は静かに斃れるのが下手なもの
009:寒 色のないさくら吹雪よもう恋は寒くないからマーチを聴いて
010:駆 湿り気の残るうなじに鬣(たてがみ)をかんじて夏の子らは駆けゆく


011:ゲーム ゆくひとに笑い続けるというゲーム仕掛ける男は宙吊りの辻
012:堅 義理堅い骨がわたしをゆらしてる 子宮のなかで鳴る呼子笛
013:故 故障中の蛇口に梵字したたりて眠りのひだをみな吸い上げる
014:残 轍あと棺ひきずる旅人のうすれていずれ残らず百花
015:とりあえず とりあえずガラスケースに火をしまう 殺意じゃないと言い聞かせつつ
016:絹 馴れ合いを冷たく拒む紅絹裏(もみうら)の奥にあなたの熱帯がある
017:失 影もまた光のこども 失えばいつか石碑をみた丘に風
018:準備 砂浜にSOSを書いて消す 傷つく準備の終わることなく
019:層 再生の鐘鳴りやまずかなしみのどの層位にも浮かぶ小夜曲
020:幻 菜の花の夢幻あかるき微笑みをたたえ地蔵の錫杖(しゃくじょう)の音(ね)は


021:洗 他愛なく生きてしまった 魚河岸の死魚のごとくに我が名を洗う
022:でたらめ でたらめなふたりはすでに倫(みち)なきをゆるされざるを知る海の人
023:蜂 永遠に終わることなき炎天のチェインソーから蜂 ほとばしる
024:謝 汚したくないのに玻璃のみずうみに謝りそびれた落ち葉のうずき
025:ミステリー 特別な耳があなたのミステリー渦巻き降りて舌語りせむ
026:震 月ごとに生まれ変わりて汝を知る震源みどり鼓動もみどり
027:水 欲望が夜のかわきを焼く星は水を噛んでも血の味がする
028:説 棕櫚ならぶ道なき道を説き終わる 武装解除を待つ 雨あがる
029:公式 泣かぬ子のさびつく咽喉に刻まれし公式ひとつ呪文のごとき
030:遅 お菓子にも小石の蛇のマグナムのあること気づくいつも遅れて


031:電 それはもう旱(ひでり)のようにただひとり送電線を揺らすさびしさ
032:町 猫肉と耳にしました(らんらんるー)糸をこわがるひとの住む町
033:奇跡 固体から液体気体くるおしくのぼる奇跡をひとくちふくむ
034:掃 怒ってろいつでもそれが彗星の尾をあおく掃き散らして、おまえ
035:罪 ポケットに誰がうんだの卵割れしみだす罪は重油のにおい
036:暑 俺ひとりだらりと黒い太陽の寿命を知らぬ暑い世界だ
037:ポーズ 明日するポーズがなくて(ああついに凍らせていた猫を放すか)
038:抱 姉の抱く黒猫むしろつやめいて遺影のなかの現実となり
039:庭 正と負のさかさまになる箱庭はびいだまだけが星なんだろう
040:伝 黙ってて伝わるはずのないことをつたえるそれも不在の役目


041:さっぱり 水としてきみをめぐればさっぱりと私のことを忘れるでしょう
042:至 いずれかは至る祭りの火口にて沈みゆく手と差しのべる手を
043:寿 つながれる手と手のなかに寿ぐという道もあり病む道もあり
044:護 背の芯をすっと立たせて導管はくさるなと言うその守護なる木
045:幼稚 傷心に巣くう幼稚なセンテンス決めかねているほそいてくびが
046:奏 まあだだよ はぐれんぼうの角笛を奏でた報い もう待たないで
047:態 香りからさがして情のないおんなカサブランカが姿態をそらす
048:束 束となり産毛にふれてくる呼気のつかめないまま気泡は割れて
049:方法 ピアスから飛ぶ蝶の群れ火のように笑う方法なら知っている
050:酒 酒あらばうすまるいのち我かれの身には過剰な塩気のありて


051:漕 消えかけの記憶がおもくおもいでの漕いでもこいでもあぶらの浮く日
052:芯 泣かぬのは泣かせてほしいからなのに拗ねたりんごの芯まであおい
053:なう 損なうと知りつつなおも行軍は顔あるひとをただ数にして
054:丼 ひっそりと夜は息づく丼のふち寂しいひかりばかりをあつめ
055:虚 ステップをかさね彼女の虚飾症くるわせるにはまだたりないの
056:摘 百人も一人もさしてかわりなく罪びとは摘む銀いろの薔薇
057:ライバル ライバルはいらなかったよ少女期をすぎてやらかい影ふみ遊び
058:帆 よそもの、と呼ばれて暮らす洗っても白くならない帆の道しるべ
059:騒 黒豹のうねる背筋騒がしきひかりは時の矢を追いつめる
060:直 貫いたままに朽ちよと直線にふれれば銀の濁るかんざし


061:有無 照りかえす邪気の有無さえひとときの渡りにすぎぬ あなたは戯(そばえ)
062:墓 いつのまに弱者を墓へつれてゆく四角い空を飼ってるテレビ
063:丈 その昼を告げるサイレンひたひたとひまわり空の丈よりたかく
064:おやつ 手のなかにふさいで遊ぶおやつしか食べない小鳥(まだ、あたたかい)
065:羽 風になる方法ひとつ新しいラバーソウルのにおいを羽に
066:豚 あるものは鯨に豚に鳩になりあゆみゆくなり系統樹より
067:励 箇条書きの手紙みたいにかんたんに励まされても折れない鶴は
068:コットン わすれるの子供部屋には清潔なコットンつめてうめてしまうの
069:箸 箸を置くみぎにひだりにぼくたちは戦争放棄したというのに
070:介 ファイバーを介して遠く運ばれることば何周地球をまわる


071:謡 奪われたこどもを呼ばう童謡の暗い瞳であのこがほしい
072:汚 よい魔女の呪いと知らず王たちは手を汚さずに食べるデザート
073:自然 指さして人を笑えば不自然に欠け落ちてゆくわたしの前歯
074:刃 青白きほのおうつくし正論の刃がぬるいみずをあやめる
075:朱 客として買わないのならみなおなじ朱色のサテンドレスの女
076:ツリー 消えてゆく音はなみだにとても似てゴールデン・レイン・ツリー零れる
077:狂 滅亡の予言のように狂詩曲むなもとふいにけものがさわぐ
078:卵 排卵日すてたゆうひのまたたきを俯いて聴くちいさな音符
079:雑 なんとまた雑な布石だ自由とは 鍵穴じっと鍵をみつめる
080:結婚 ペンだこもかつて結婚したひともやさしい壁のむこうへ行った


081:配 配られる価値もなかった種子たちをあなたのなかにためる 水音
082:万 万歳と手あげ蟻たち飛びおりる砂の城より終末のこえ
083:溝 声もたぬマトリョーシカは抱かれてあらたな溝としてあらわれる
084:総 生きている気がしないので起きている総じて夜にたかぶるパルス
085:フルーツ おさまらぬものもおさまるべき皿へフルーツはみずみずしい誤解
086:貴 おそらくは曲がったままの道なりに貴重な水をこぼして千夜
087:閉 らしくないセーター脱いで痩せてみる小さな門は閉まったけれど
088:湧 くだかれてしまいたかった湧き水のようなつめたい歌に恋して
089:成 鯨より豚や鳩よりとおくあり愉しき成れの果てなるヒトは
090:そもそも 帰らないのか帰れないのか笹舟にそもそも家はなかったろうか


091:債 刺しあとをのこしていった蜂はどこ夏の負債もいつかきえると
092:念 夜汽車いざ継ぎ目を順に越えながら念じて とどけ とどけ とどけ
093:迫 からっぽの受話器をだいて(誰か出て)(誰も出ないで)迫るうすやみ
094:裂 ふるさとをわすれてひらく綿の花 国境線に裂傷深し
095:遠慮 はなびらのうすいりぼんを結わえると遠慮しないで揺れていいのよ
096:取 甘食を取っておくからおいでなさい ゆるしたことのないこどもたち
097:毎 寒そうにグレーの蓋をこじあけて毎日やってくる勧誘者
098:味 間奏がながいほどいい喜んで安くて不味いものばかり食う
099:惑 足もとの矢印てんでばらばらにふとどきものを惑わす灯り
100:完 人という病のついに完治せず朱肉に濡れし指あるがまま

