平田謙次 Blog エキスパート科学研究所

経営心理や経営システム、人的資源工学、そしてお酒の話題が多と思います。
アヒルちゃんも突いてねぇ。。回ってくれます!

試験の私見:今回の入試不正問題よりはるかに大きな別の試験の問題

2011-03-04 17:46:32 | Weblog
今回の大学入学試験の不正問題は、社会的インパクトも大きく、考えさせられることが多くありますが、実はもっと大きな問題が蔓延しているのです。

◆異常は感知できるはず!?
大学教員として実際に入試の試験監督をおこなっている立場からすると、今回の不正行為が何故可能だったのか全く理解しがたいものがあります。それは、どの試験会場でも、かなり慎重に、人数もかけて、教室を管理・監督しているからです。もちろん、入試問題の管理は、さまざまな工夫をして、お金をかけて漏えいを未然に防いでいます。入学試験代が今では3万5千円が一般的になっていますが、その高額な理由は、問題の作成から配布に至る長い過程での、厳密な情報管理、リスク対策にあるのです。

一方で、文部科学省の要請もあり、受験生にプレッシャーをかけたり、気が散らないようにする理由から、試験会場では「試験監督はあまり動き回らなず、最小限に留めよ」との指示がでており、どの大学でも我々が受験したときと比べると、試験監督の巡回はかなり減っています。その代わり、人数を多く配置して対応をしているということです。だたし、人を配置したところで、通路の真ん中に立ち続けることはできないため、どうしても死角はできるかもしれません。
それにしても、数分間も携帯を打ち続けることは今でも信じられませんが。10数秒間も操作すれば、異常は感知できると思うのですが、、、

◆性悪説の定期試験と性善説の入学試験
ただ、大学での通常の学期末にある定期試験時と入試とは違って、少なからず私の意識としては、定期試験では性悪説的に試験監督をする傾向があり、入試では性善説的に試験監督をおこなっています。
定期試験では、不正が発生することある程度前提で試験監督をします。というのも、教室環境もそうですし、学生の一部が授業をさぼっていることも知っていますし、また、入試と違って試験体制も十分でないなどの理由があり、そのため、逆に現場の試験監督によって不正を防ごうとう意識がでてきます。目の光らせ方が違います。

一方で、入試では全学的に体制を万全に整えて臨み、スタッフ一同いい試験会場の雰囲気にしようという意識が強いです。受験生の数年間の努力を思い存分に発揮してもらいたいという気持ちと、受験生の多くははじめて大学を訪れることもあり、ゲストという意識を持ちます。つまり、受験生に思いやりをもって、スタッフはいい人になって接しています。だから、隣の受験生の答案を盗み見ることはあったとしても、カンニングペーパーや携帯など操作するとは思ってもいませんでした。

今回は、こうした「やさしい」意識を突かれたのかもしれません。

◆ 日常化した入社試験の不正
この問題はさておき、もっと社会的に大きな問題なのは、むしろ就職活動でのWebテストだということを言っておきます。
Webテストは、簡単にいえば、知能検査、性格検査、一般常識、職業関心などで、いわゆる適性テストとといわれるものです。ほとんどの場合、エントリーシートという履歴書に自己アピールや会社への入社動機などを書かなくてはならないものですが、それもWeb上で登録した後に、Webテスト時間を指定され、自宅や大学でインターネット上で試験を受けるものです。
以前は、応募した会社にいって、ペーパーで受けていたものを、今は、Web上で済ませてしまおう、しかも、手間をかけずにというものです。
心理学者の立場からすると、これらの適性検査において十分な妥当性と信頼性の検証をしていないものが多いこという問題がありますが、もっと問題なのは、その試験の運用です。

(1) 利用方法の間違い:足切り型でなく選抜型に
適性検査では、実践のビジネスでの優秀さを判定することは極めて難しいものです。それは測定方法論から明らかなことなことであって、そのため、基本的には一定程度の適性があるかないかのための選別に使われるもので、明らかに不適格な人を見極めるためのものです。別の言い方をすると、適性検査は足切りに用いるのが最適な利用方法です。しかし、今は、応募者が多いこともあり、適性検査によってで上位を選抜してしまっています。面接する1-3割の学生の選別に用いているのです。
この結果、多くの学生が落ち込むことになります。ネット上でのやり取りだけで、知能試験まで受けさせられ、人との接触も、その会社の雰囲気も感じることなく、そして就職活動全体に対してやる気をなくさせるのです。企業の人事にとってはWebテストは便利なツールでしょうが、受ける側の精神的負担とダメージは、計り知れないものがあります。

(2) 不正の蔓延
(1)のようなことが起きる結果、実際には何がおこっているかというと、通過するため、また、落ち込みたくないため、Webテストはチームを組んで、複数名で検査に臨むのが常識化してしまっています。当然、どの検査も時間をかければ正答率は上がります。少なくともペアで臨みます。場合によっては5-6人で取りかかることもあります。受けるときは、複数のパソコンをもちろん用意しています。学生は、他の人の検査を受けることは、自分の訓練にもなると思い、また、自分のときも力を貸してほしいため、協力者を見つけるのはいとも簡単です。
そこに、「不正」というような罪悪感はありません。それは、Webテストのクオリティのいい加減さと、企業側の安易に選抜をしようとするお手軽さおよび不誠実さがあると認識しているため、そんなものに公正も何もないと考えるのです。私も学生の方が、至極、まっとうだと思います。
しかし、先日もまじめで優秀な学生が、第一希望のWebテストを一人で受けたけど落ちてしまった。自分も、協力者の力を借りるかどうか悩ましい、、、と相談にきました。
試験ということに置いて、企業側の怠慢・不誠実さが、学生側でも不誠実なことをしてもいいんだ、それが当たり前なんだという状況を生み出してしまっているのです。今回の入試の不正事件は、ごく一部のことでしょうが、入社試験での不正は、日常化しているこのことの方が、よっぽど大きな問題であると思います。

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