test秘宝探索隊 後編パート2

キャンプサイト付近
 翌日、悪臭を放つ靴下にメゲル朝。行場に行く前にテン場近くの「西島神社」へ行く。テン場からすぐ見える距離にある大きな岩は、「西島さん」の愛称で呼ばれる神社だった。西島さんは大きな石が組み上がって、一つの固まりになっていた。そこには洞窟が一つあり、中には不動明王が一体祀られている。参拝。岩の裏には静かに社が佇んでいた。そこからは登山道が下に延びている。下山の時はこの前を通ることになるのだろう。
 西島さんの下には「間者牢」なる岩牢がある。その名の通りスパイを閉じ込めていた場所だ。中ではまた蝙蝠に出迎えられた。しかし今度は4匹だ。中は狭く屈まないと辛い。こんな所に監禁されたら、さぞ凹むだろうなぁと思いながらも出る。

行場シラミ潰し
 一旦戻って休憩した後、いよいよ行場をシラミ潰しにする。しかし四日目ともなると脚にダルさが溜まる。獣道を基点として、まずは西寄りに進んでみる。獣道の枝道をひたすら進む。ほどなく小屋の前に出た。給水施設のような設備。どうやら山頂ヒュッテに水を運ぶポンプのようだ。そしてそのまま登山道に出る。ループしてしまった。四辻に戻り今度は東寄りに進む。しかしまた登山道に出てしまった。またループ。その後も獣道から四方八方に進んでみるも成果なし。「社なんてホントにあんのか!」疑念がよぎる。トンデモ本のネタに、ここまで注力する人間が果たして何人いることやら。神様、ホントにいるなら僕らを誉めて下さい!

閑話休題
 ここで一度、剣山以外に目を向けて見よう。
 剣山とは尾根沿いに「次郎笈」という山がある。剣山との間には「次郎笈谷」が広がり、深い森が佇んでいた。剣山からの気分転換に次郎笈へと向かった。
 次郎笈の頂上は剣山と違い、普通の山頂といった感じである。平原風の景観はない。また同じく剣山と尾根沿いの「一の森」へも向かった。次郎笈まではひたすら熊笹に覆われた尾根道であったのに対して、一の森までは木立の間を進んだ。ここには「一の森ヒュッテ」があり、御主人に手厚いもてなしを受けた(コーヒー飲み放題、食料を貰う)。
 剣山近隣を見て回ったわけだが、そこで思ったのはやはり、剣山山頂の特殊性だった。
 よく「日本のピラミッド」と言われる「皆神山」や「黒又山」は、もともと存在する自然の山の斜面を人工的に形成し直して三角錐のピラミッド型にしたものだという。考古学的に「山岳祭祀遺跡」と呼ばれるものがそれだ。そしてこの剣山も綺麗な三角錐型をしており山自体が御神体である。「山岳祭祀遺跡」と考えても間違いないのではないだろうか?バイブルには「剣山山頂人工説」なんてものも書いてあった。事実だとしたら、山の形を変えた理由は一体何なのだろうか?

鬼神の窟
 剣山山中の目ぼしい場所には全て回った。「モノイウ石」はいったいどこにあるのか?この山が不思議な山だというのはよく解った。しかし目的への手掛かりは依然として無い。バイブルの中に書かれてある場所で、まだ行っていないところはあるだろうかと原点に返って考える。
 行場…頂上…獣道…どこも行ったことがあった。
 頂上ヒュッテであれこれ考えを巡らせていると御主人がやってきた。僕らは次郎笈や一の森にも行ってきたことを告げると、御主人が「次郎笈谷には鬼神の窟という洞穴がある」と教えてくれた。
「鬼神の窟?」
 バイブルにも記述されていたことを思い出す。場所が剣山ではないだけに見落としていた。あまり重要視はしていなかった所だ。当てに出来る場所は他になかったので、行ってみることにした。時刻はもう夕方になろうとしていた。
 剣山と次郎笈のちょうど中間地点から次郎笈谷を見下ろす。物凄い霧がガス状に吹き上がって前が見えない。最悪の視界だ。明日の最終日、予定を変えて探索することにした。

次郎笈谷
 昨日と同じく次郎笈谷は霧の中だった。しかしここで諦めたくはない。尾根道から谷側へと少し下った岩の上で、谷を凝視しながら降下の頃を見計らった。
 横森の脚の疲労は進み、膝に傷みを伴っていた。仮に谷へ降りたとしても、登れない事態は避けたい。ガスは果てしなく吹き上がり、依然視界を遮る。………と、急に視界が晴れた!霧は嘘のように消えた。
 降下を決める。横森には上に残ってもらうことにした。本人もそれを望んでいたからだ。二時間以内に僕が戻って来なければ頂上ヒュッテに救援要請することを決め、僕は降下した。
「鬼神の窟」の具体的な場所は不明だ。ただ、次郎笈谷の斜面のどこかに存在しているらしいことしかわからない。バイブルの中の記述では、窟の中から剣山の頂上を仰ぐことが出来ると書いてあったので、剣山側の斜面でないことだけは確かだ。ということは次郎笈側の斜面のどこかにあるはず。次郎笈側の斜面を見渡せる尾根道の中間地点から降下する。熊笹の原を谷へと下ると、すぐに巨石の上に出た。その石をつたって更に降りる。木々の下に生い茂る藪を掻き分け、また岩をつたい、谷底へと進んだ。

「森」
 何時しか巨大な一枚岩の前にいた。あたりは森の中、木漏れ日が射し、そして何も聞こえなかった。風もなく、人の声もしない。砂漠の中のような静寂に包まれていた。動いているのが自分だけのような錯覚を受ける。木立の間を抜け、やがて開けた場所に出た。「ん?」せせらぎが聞こえる…ここから更に下ったところに小川を見つけた。どうやら谷底に来たようだ。小川の水に手を浸していると、ガサガサと音がした。見ると茶色に白の斑点を見せて、鹿が数頭藪の中に消えた。熊でなくて良かった…。
 谷底から次郎笈側の斜面を見上げる。そこは剣山側より斜面がきつかった。鹿の跡を追うように藪の中を登り始めた。途中、野アザミにダメージを受けたものの、獣道が縦横に続いていたおかげで容易に登れる。鬼神の窟はこのどこかにあるはずだった。それらしい影を見つけては確認し、いくつかの穴は発見したが、どれも小さなものに過ぎない。厄介なことには、このあたり一帯がチャート質の石質であるため、植物のない場所は非常に崩れやすいということだ。一度落ちれば谷までまっ逆さま。滑落の危険が高い。剣山山頂を望むのに都合がいい地点を考えながら、あっと言う間にタイムリミットとなった…。結局、伝説に辿り着くことは出来なかったのか…。

顛末
 こうして僕らは下山することになった。戦利品無しでは寂しいので、不動の窟から古銭を6枚頂戴することにした(百円玉6枚と交換)。躊躇はしたが(賽銭だっただけに)、神が寛大であることに期待する。
「モノイフ石」には辿り着けなかった。僕らは結局、この山の不思議に翻弄されただけなのだろうか?見の越しに戻って来た僕らは、剣山本宮(頂上の本宮は宝蔵石神社)へと降りてきた。無事下山の旨、参拝を済ませ、社務所にいたお爺さんに「モノイフ石」のことを尋ねてみた。「ああ、知っとるよ」との返事。しかし「山の中で修行を積めば、いつか石と心が通って話も出来るようになるだろう」とのこと。
 ギャフン…修行が足りないということか…。
 参道を下りて行く僕らにもう一つの発見があった。それは「帝国神霊学真研修養会」と銘打たれた石碑である。これはバイブルに書かれていた「林霊峰朱仙」という仙人が起こした団体であり、彼の実在を示す証拠だった。彼こそが「モノイフ石」を見つけ、この山のどこかに隠した人物である。バイブルに書かれてあったことは一部信じるに足る事実であった。その他のことはこの場所に来た人間にしか解りかねるかもしれない。「神話的空間」の中でのことは、その中でしか感じ得ないと思う。少なくとも僕らの常識とは違うコードがここには存在する。今も厳としてあることだろう。謎は深まり、結論は出せないが、浪漫を浪漫として追いかけることが出来た自分と仲間を誇りに思う。(鬼神の窟が今後の課題として残ったが…)

秘宝探索隊「モノイフ石」の段、これにて終わりにしとうございます。了

あとがき
 この活動は難産だった。活動の核となりうるコンセプトが有り過ぎて、全体としての統一感にかけるのではないかという危惧に苛まれた。しかし「モノイフ石」という象徴のおかげで、民俗学的なフィールドワークもどきではあるものの、統一感は保てたのではないかと思う。部内では我が隊に関して、ことあるごとに「岩村逃亡」が取り沙汰されることが多かったが、個人的に
はさしたることではないと考えている(個人的資質の問題)。活動内容としてはとりわけ体力を要するわけでもなく、国内での二週間足らずの活動であって、遂行だけなら一人でも充分可能であろう。
 だが、このような形での活動はADVENTURE CLUB創設以来、存在してはいなかったのではないかと思う。その点は草創期からの資料が散逸してしまっていて、定かではないかも知れないが、記憶の許す範囲において「全く新しいもの」として活動を組み立てたことは確かだ。僕が入部して早三年が経とうとし、活動観というか冒険観というか、神奈川大学ADVENTURE CLUB部員として培った価値観に真っ向から批判を浴びせて、自分の価値観を再構築した結果がこの活動である。生来奔放不埒な飯倉という人間に最後まで付き合ってくれた横森。逃亡者の烙印を捺されても葛藤せざるを得なかった岩村。この二人の後輩が今後どのように人生の中で冒険を続けて行くかは解らないが、部内でも部外であっても、我々の活動の日々は忘れ得ないものであろうと思う(お前等に会えて良かったよ)。有意義に死をまっとうすることが生であるなら、これからの糧になるものを活動によって得てくれたものと信じたい。また我が部に一石投じた波紋がどう影響するかが楽しみではあるが、部員全体にも同様の意味を残せたのではないだろうか。「トレジャーハンティング」という企画が、より深みを増して存続することを望む。
 協力してくれた多くの方々に、ここであらためてお礼を言いたい。「ありがとうございました!」
 最後に、続編をやるなら以下の伝説を追いかけたい。
 次回「キャプテンキッドの財宝を追え!!」

登場人物
(本編)
飯倉 剛/岩村 一雄/横森 公俊/もとやのおばちゃん/矢吹渡船の方々/やさしい893/滝川夫妻/木村さん/阿波史研究者/藤原さん/親切なおっちゃん/神大OBの方/頂上ヒュッテ主人/頂上ヒュッテSTAFFの方々/一の森主人/登山客/リフトSTAFFの方々/イタチ/鹿/八百万の神々/(バイブル)/三浦大介/旧約聖書な方々(神・モーセ・イサク・ソロモンetc…)/林霊峰朱仙/岩村さん/天狗/大蛇/仙人/高根正教/高根三教/山本英輔/平田篤胤/平国盛/安徳天皇/「アーク」/「モノイフ石」
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