残雪抄

『秒速5センチメートル』の二次創作が中心です。

後日談 のどぼとけ

2008年12月07日 | 二次創作
後日談『のどぼとけ』

 アパートに一人暮らしで、ちょくちょく明里が遊びに来る、そんな
昔から夢見てた生活がようやく叶った。まぁ、こうなるまでは色々
あったけど、その経緯はもうどうだっていい。合鍵を渡してあった
ので、大学から帰ると、部屋ではエプロン姿の明里が晩御飯の
下準備を始めていた。「お帰りなさい」の一言がえらく照れくさい。

 明里の手料理は、本当に美味しかった。今まで食べたなかで、
一番おいしい、そう褒めるしかない出来栄えだった。あんまり
自信が無い、などと言っているものの、満更でもなさそうだった。
食事の後で、今晩は泊めて欲しいと言われてドキドキした。

 シャワーを先に浴びてパジャマに着替え、入れ替わりで明里が
シャワーを浴びる。その間ずっと落ち着かなかった。意味も無く
部屋を歩き回った。やがて、浴室から、
「電気を消して欲しい」
 言われたとおり、部屋を暗くすると、バスタオルを巻いただけで
部屋に入ってきた。緊張した。
 そして、一緒に布団の中に入り、ゆっくりと・・・

(注:** 自主規制入りまーす **)

 互いに甘い汗をかいてから、しばらくは何も言葉が出なかった。
夢のようなひと時の後で、余韻と言うには生々しく、それでいて
現実感の乏しい不思議な感覚に包まれていた。
 右腕の上に、明里の頭がある。ぴったりと体を寄せて、お互いの
体温を感じていた。心地よい感触に満ち足りた充足感があった。
 明里はふと手をのばし、腕や肩の筋肉の感触を確かめてきた。
「なんか、夢みたい」
 そう言って、あちこち撫で回してくる。くすぐったい。どんな気持ち
かは想像がついた。離れていた期間が長過ぎて、まだ現実感が
無いんだろう。
 不意に顔に触れてきた。頬から鼻、アゴと撫で回して、少しの間、
口の周りやら、ヒゲを触っていた。それからアゴに戻ったと思うと、
今度は喉で、手が止まった。

 喉仏を指で抑えるようにすると、ゆっくりともみ始めた。どうも
気に入ったらしく、しばらくの間、喉仏の感触を楽しんでる。
「なにしてんの?」
「ねぇ、なんか変な感触…」
「ただの喉仏だけど、気に入った?」
「うん。昔はこんなの、無かったよね?」
「そりゃ喉仏は無かったよな。小学校の時も、中学の1年も」
「無かったよ。なんか感触が面白い。ナンコツみたい?」
そう言いながら、ひたすら指で、コリコリとこねくりまわしている。
そういえば、昔、神社で猫を撫でてたことがあったっけ。それと
同じような気分なのかもしれない。どうやら、喉仏の感触を
とことん楽しむつもりのようだ。
「なんか、さわり心地がいいの、これ。ねぇ?」
「ねぇ、と言われても。猫の肉球を撫でたときとか、そんな感じ
 なのかな?」
苦笑するしかなかった。

「昔とは、違うのよねぇ…」
なんかしみじみとした声で言われた。ちょっと切なくなった。が、
「ねぇ、私も、昔とは違うんだよ。好きなとこ、触ってよ」
声に、からかうような響きがあった。
「…おーい」
急にどうしたのか、ちょっと疑問に感じた。
「いいよ、どこでも。触ってみて」
少し笑いを含んだ声だった。一瞬、ドキっとしたものの、すぐに
考え直した。 これは、罠だ。下手なところを触ろうものなら、
その触った場所について、後で散々からかうネタにするつもり
だろう、と予想した。ここは、とりあえず無難に、冗談めいた
行動をしておこう。
「うーーん、それでは、、、遠慮なく」
少し体を起こして、一度、布団の中に手を入れるフェイント。
明里が少し、体を硬くしたのが分かった。で、すぐに布団から
手を出し、顔の前に持っていって、そっと鼻をつまんでみた。
「ふぇ?」 さすがに意表をつかれたようで、変な声が出た。

「何で鼻つまむの?」
「いや、なにか予想外のことをしてみたいな、と思って」
「んー、、、なんか傷つく…」
不満げに鼻をならして、寝返りをうって体を離し、今度は枕を
引き寄せて、抱きかかえた。
「ねぇ、チョビ、貴樹くん、ひどいんだよ。私が好きなとこ触って
 いいって言ってるのに、鼻つまむなんて、女としてバカにされ
 てるってことよね」
「枕を猫に見立ててグチるの、止めてくれ」
「ひどいよねー、サイテーよねー」
そう言って、再び手を伸ばして喉仏をグリグリといじってきた。
 やっぱりか。これでもし、変なトコでも触ってたら、後々まで
何言われるか分かったもんじゃない。危ないところだった。

「ねぇ・・・」
明里が何か言いかけて止めた。急に声の感じが変わっていた。
「どうしたの?」
言葉にするのを躊躇っているような感じだった。再び、言葉が
出てくるまで、少し待った。
「ねぇ、貴樹くんは、、、貴樹くん、だよね?」
真剣というか、不安そうな感じだ。意味不明の問いだった。暗い
部屋の中で、心細さに震えている、そんな声だった。急に不安が
よぎった。何か大事なことを見落としているような、そんな感じが
した。返事を間違えると、取り返しのつかないことになりそうな、
そんな緊張感すらあった。
「もちろん、明里」 なるべく優しくささやいた。曖昧な返事しか
できなかった。なんなんだろう、この妙な不安は。今の問いは、
お互いが自分の知っている相手のままで居て欲しい、そういう
願いをこめた問いだったのだろうか。引き離されて、会えない
まま相手が変わっていってしまう、その痛みはまだ心に残って
いる。それを不意に思い出したという、ただそれだけのことなん
だろうか?

 一度、そうした疑問がわくと、急に不安が大きくなった。いや
明里は、もっと大きな不安を抱えているのではないのか?
それを見落としていたのだろうか? 今の喉仏のやりとりも、
ただの冗談ではなく、何か言いたいことが言えずに、代わりに
口にしていたことなのかもしれない。空に黒雲が湧くように胸の
中に焼けるような不安がわいてきた。

「不安になるの。私も貴樹くんも、お互い昔とは違うって一言で、
 何もかも終わりになっちゃったらどうしよう、って…」
お互い変わってないなどとは到底言えなかった。変わったのは
事実だ。そうか、だから今の喉仏のように、昔は無かったものを
見つけると、ちょっとした違和感でもすぐ引っかかりを感じてしまう、
そういうことなんだろう。それなら今すぐにどうなる、という話しには
ならない。緊張が抜けた。
「大丈夫だよ。これから、ずっと一緒だから。明里を失ったら怖い、
 そう不安に思う気持ちも一緒だから。」
ゆっくりと抱き寄せて、静かに背中をさすった。そう、今までとは違う。
こうして明里の体を好きなだけ抱きしめることができる。それだけでも
大きな違いだ。明里も顔を胸にうずめてきた。
「お願いだから、離さないでね」
「絶対に」 そう約束しながら、抱きしめる腕に力をこめた。
 気持ちを大事する、ありふれた言葉だけど、それが簡単なことじゃ
ないんだと気づいた。何の不安もなく抱き合えるようになるには、
まだまだ時間がかかるんだろう。
「大丈夫。こうして、そばにいられるんだから」 そうささやくと、
返事のように抱きつく力を強めてくれた。熱くて滑らかな肌の感触を
感じながら明里が眠るまで抱き続けた。

(了)



7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kosumosu)
2008-12-07 17:12:25
こんにちは。感想はここに書けば良いのでしょうか?ブログ開設おめでとうございます。(タイトルは何て読むのでしょうか?)早速読ませて頂きました。いきなりラブシーンじゃないですか!びっくりしました。

事後wの描写は凄く参考になります。(互いに~の所)うちの貴樹と明里がそうなるのはまだまだ先でしょうけどね。

「のどぼとけ」をテーマに物語を展開していく着眼点と構成が凄いですね。これは私には無い発想です。ミスチルの「ファスナー」っていう曲の歌詞の構成に似てるような気がしました。

リンクこちらに貼らせて頂きましたのでよろしければ是非相互リンクをお願いします。
w(--)w後せっかくブログを開設なさったのならば何かHNをお決めになった方がいいと思いますよ。
返信する
はじめまして。 (Elwing_gray)
2008-12-08 00:30:59
こんばんは。あははは…。いきなり困っちゃいました…。
基本的に、私の感じている明里と貴樹くんは二人が一緒に居られれば大丈夫。なんですけど。
けれども、いきなりの展開でちょっと焦ってしまいました^^;
肌を合わせて不安を必死に抑えている二人が初々しくもあぶなかっしい。そんな風に感じてしまいます。
この状態になるまでの二人のやり取りがとても気になります。早く読みたいです。

このページ、リンクさせてもらってよろしいですか?

よろしくお願いします。

では。
返信する
連投です。すみません。 (Elwing_gray)
2008-12-08 00:38:59
得意のつまんないチャチャを…。
明里の頭が右腕の上、ですか? おかしいなぁ。貴樹くんって左利き?
右利きなら、右手が自由になる体制になるのが普通だと思うけどなぁ…。^^;
えへへ。
返信する
kosumosu様、コメントありがとうございます (ado)
2008-12-08 22:27:49
このブログのタイトルは、ざんせつしょう、です。由来はプロフィールの方に
追加しました。
 出だし、いきなり、ナニなシーンから始めてしまい、戸惑わせてしまったようで
恐縮です。思いついた時は面白いと思ったものの、後になって恥ずかしいことを
したような気になって、ます。でも、後悔はしてませんw

返信する
Elwing_gray様、コメントありがとうございます (ado)
2008-12-08 22:37:46
 最初から、こういう話しは止めたほうがよかったのかもしれませんね。
個人的には、明里と貴樹は付き合い始めてからの方が大変かな、と
思ってたりしてます。これから書くとしたら、そういう話しになるでしょう。

リンクのお申し出、ありがとうございます。是非、よろしくお願いします。

P.S 右腕の件ですが、何も考えずに書いてました。まぁ、貴樹くんも
  利き腕を空けておくことまでは、気が回ってない、ということで、ひとつw

返信する
Unknown (kosumosu)
2008-12-08 23:05:18
ざんせつしょうですか!カッコいいですね。ちなみに私のブログのタイトルもハンドルネームも全部ミスチルが由来(爆)。

詳しく知りたい場合はシフクノオトというアルバムを聴いてみてください。
返信する
リンクしました。 (Elwing_gray)
2008-12-09 00:04:35
リンクさせていただきました。

右腕…について、私が今書いてるのにも、ソウイウシーンが出て来ますが…。私の場合は右とか左とか書かなかったから^^v

どっちの方が自主規制が強いか…。それは、どうでしょう^^;
返信する