腹話術人形けんちゃんの日記

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「人間失格」70ページと71ページ・2017年6月05日(月)

2017-06-05 04:00:40 | 日記
「人間失格」の70ページと71ページ
                                         
 その夜、自分たちは、鎌倉の海に飛び込みました。女は、この帯はお店のお友達か

ら借りている帯やから、と言って、帯をほどき、畳んでい岩の上に置き、自分もマント

を脱ぎ、同じ所に置いて、一緒に入水しました。

 女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。

 自分が高等学校の生徒であり、また父の名にもいくらか、所謂ニュウス・バリュー

 があったのか、新聞にもかなり大きな問題として取り上げられたようでした。
 
 自分は海辺の病院に収容せられ、故郷から親戚の者がひとり駆けつけ、さまざまの

始末をしてくれて、そうして、くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、これっきり

生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。けれども自分は、

そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、めそめそ泣いてばかりいました。本当に、

いままでのひとの中で、あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから。