(赤旗 2014年5月29日)
土地賃貸借契約の慣習に基づく更新料請求が否定された事例
1 事案の概要
地主Aと借地人Bとの土地賃貸借契約(借地契約)には、更新料を支払う旨の明確な親定は
なかった。しかし、地主Aと借地契約を締結している近隣33件のうち合計16件は文書又
は口頭による更新料の支払に関する合意があり、また、不動産管理会社及びその担当者も同
じであった。
地主Aは、これらの事実などを根拠に、借地人Bとの間で、①更新に当たり相当額の賃料の支
払う旨の明示または黙示の合意が成立していた、②本件土地を含む地域には更新料を支払う
という慣習が存在する、と主張して、借地人Bに対し更新料の支払いを求めて裁判を起こし
た。
2 裁判所の判断
(1)明示または黙示の更新料支払い合意の有無について・
裁判所は「本件賃貸借契約書には、期間満了の際の被告による契約の更新の請求に関わる
記載はあるものの、更新料の支払いに係る記載が一切存しない」として、明示または黙示の
合意の存在は否定した。
なお、地主Aによる①②の主張については、「そのことから直ちに本件賃貸借契約におい
て上記合意が成立していたものと推認することは困難である」として認めなかった。」
(2)更新料に係る慣習の有無について
裁判所は、まず、地主Aと借地契約を締結する近隣の33件のうち、少なくとも3件につ
いては、更新に際して更新料の支払いがされていないと認定した。その上で、「これらの更
新料の支払に係る事情からは、本件各土地付近一帯において、地主Aの主張に沿う慣習が成
立しているものと認めることはできない」として、更新料請求を認めなかった。
3 コメント
借地契約における地主からの更新料請求は、借地契約上、更新料を支払う義務とその金額
が明確に定められている場合や、更新料を支払う慣習(商慣習)がある場合などに限られま
す。
とくに、更新料を支払う慣習があるとされる事例はごく稀です。本件も、裁判所は、近隣33
件申、3件が更新料を支払っていないのだから慣習はないと認定しましたが、仮に、33件全
てが更新料を支払っていたとしても、当然には慣習があるとはいえないでしょう。
地主側は、契約書上、更新料の支払義務が明確に定められていない場合でも、「私から土
地を借りている他の皆さんは全員(もしくは多くが)更新料を払っています。だからあなた
も当然更新料を払う必要があります。」と言って、更新料を請求してくることがよくありま
す。しかし、更新料を支払う必要があるのはごく限られた事例ですので、請求されたら組合
に相談するなど慎重に対応すべきでしょう。
(弁護士 松田耕平)
足立借地借家組合
足立区千住1-26-7 棚網方
電話 (03)3882-0055
FAX (03)3882ー0078
定例相談会 毎月第2日曜日午後1時から
通常業務 月から金 午前10:00~午後4:00
更新料支払合意なき借地契約で慣習理由の更新料請求が廃棄された事例
自らが所有する278件の賃貸地のうち243件で借地人からの更新料授受があったとし
て、更新料を支払う旨の契約書上の条項がない借地契約につき、慣習を理由とする地主の更
新請求が棄却された事例(平成24年12月20日判決:判例検索ソフト・ウェストロージ
ャパン掲載)
【事案の概要】原告は、東京都内(江東区)の土地約38坪の貸地につき。一坪当たり更
新料約5万円か相当として更新料約190万円を被告借地人に請求した。平成4年3月の前
回更新のときは、名義書替料を割賦で支払うとの念書が差し入れられ、被告の先代から原告
の先代に400万円が支払われた事実があった。
[判決]原告の請求棄却。平成4年の名義書替の支払いは更新料の支払いであり、そのとき
平成24年の更新時に更新料を支払うとの合意があったと原告は主張したが、判決は、契約
書の更新料支払特約の条項がないが、合意があったなら契約書にその旨記載されれば足りる
はずであるとして、原告の合意の存在の主張を退けた。原告はさらに、「東京都内において
、既に更新料支払の慣行は50年近く継続しており、現在では、賃貸人の請求に基づく更新
料支払について商慣習又は事実たる慣習が成立している」と主張し、原告又は関連会社が東
京23区及びその近郊において所有していた居住用一戸建の底地278件について更新料支
払の有無を調査したところ、257件につき更新料支払の有無の確認がとれ、そのうち約9
5%に当たる243件では更新料が支払われていた」との原告元代表者の陳述書を提出した。
これに対し、判決は、「陳述書添付された『更新料データ』と題する一覧表を検討すると、
確認できた借地契約書に更新料支払の記載がないにもかかわらず更新料支払の事実が認めら
れるのは、257件中……11件のみ」である。『その余は、借地契約書に更新料支払が明
記されているか(26件)又は、更新料支払の条項があるか否か未確認であるから、東京2
3区及びその近郊においては、借地人は、更新料を支払う旨の賃貸人との個別の合意がない
場合であっても、商習慣又は事実たる慣習に基づき当然に更新料の支払義務を負うとは未だ
認められない」として、結局、地主の更新料請求を認めなかった。特約がないのに更新料支
払の慣習があるからとして更新料を請求することは認められないことは、既に判例上確定し
ているが、一つの事例を加える判決である。
(弁護士 田見高秀)
足立借地借家組合
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自らが所有する278件の賃貸地のうち243件で借地人からの更新料授受があったとし
て、更新料を支払う旨の契約書上の条項がない借地契約につき、慣習を理由とする地主の更
新請求が棄却された事例(平成24年12月20日判決:判例検索ソフト・ウェストロージ
ャパン掲載)
【事案の概要】原告は、東京都内(江東区)の土地約38坪の貸地につき。一坪当たり更
新料約5万円か相当として更新料約190万円を被告借地人に請求した。平成4年3月の前
回更新のときは、名義書替料を割賦で支払うとの念書が差し入れられ、被告の先代から原告
の先代に400万円が支払われた事実があった。
[判決]原告の請求棄却。平成4年の名義書替の支払いは更新料の支払いであり、そのとき
平成24年の更新時に更新料を支払うとの合意があったと原告は主張したが、判決は、契約
書の更新料支払特約の条項がないが、合意があったなら契約書にその旨記載されれば足りる
はずであるとして、原告の合意の存在の主張を退けた。原告はさらに、「東京都内において
、既に更新料支払の慣行は50年近く継続しており、現在では、賃貸人の請求に基づく更新
料支払について商慣習又は事実たる慣習が成立している」と主張し、原告又は関連会社が東
京23区及びその近郊において所有していた居住用一戸建の底地278件について更新料支
払の有無を調査したところ、257件につき更新料支払の有無の確認がとれ、そのうち約9
5%に当たる243件では更新料が支払われていた」との原告元代表者の陳述書を提出した。
これに対し、判決は、「陳述書添付された『更新料データ』と題する一覧表を検討すると、
確認できた借地契約書に更新料支払の記載がないにもかかわらず更新料支払の事実が認めら
れるのは、257件中……11件のみ」である。『その余は、借地契約書に更新料支払が明
記されているか(26件)又は、更新料支払の条項があるか否か未確認であるから、東京2
3区及びその近郊においては、借地人は、更新料を支払う旨の賃貸人との個別の合意がない
場合であっても、商習慣又は事実たる慣習に基づき当然に更新料の支払義務を負うとは未だ
認められない」として、結局、地主の更新料請求を認めなかった。特約がないのに更新料支
払の慣習があるからとして更新料を請求することは認められないことは、既に判例上確定し
ているが、一つの事例を加える判決である。
(弁護士 田見高秀)
足立借地借家組合
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通常業務 月から金 午前10:00~午後4:00
建物明渡しは耐震性、老朽化だけでは明渡しの正当事由は具備されない
本件は、3階建ての建物(以下本件建物)と言います。)の1階部分の一部を賃貸期間5
年間とし、賃借人がこれを歯科診療所として使用していましたが、期間満了とともに期間の
定めのないものとなった後、賃貸人が解約申入れをした事案です。大きな争点となったのは
解約申入れに係る正当事由の有無でした。裁判では賃貸側から本件建物が旧耐震基準に従っ
て建築(昭和49年9月に新築)された古い建物であること、地震による倒壊・崩壊の危険
性、マンション建築等の計画等の主張がなされていました。
本件の問題は、旧借家法1条の2に定められている正当事由の有無ですが、実質的には借
地借家法28条が規定する「正当事由」と同じ事情が問題となります。この「正当事由」の存
否は、賃貸人及び賃借人の自己使用の必要性を比較し、これに建物の現況、利用状況等を考
慮し、その上で立退料を加味して判断されることになります。昨今、東日本大震災の発生に
伴い解約申入れに伴う「正当事田」の判断要素として、旧耐震基準に基づき建築された建物
の耐震性を主張されることがよくあります。
本件では、本件建物を建築した建設会社による「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、ま
たは倒壊する危険性がある」との診断があったものの、耐震補強工事により耐震性を向上さ
せられるとの一級建築士による意見書が出されていました。裁判所はこの意見書の客観性を
認め「本件建物は耐震性に問題があり、老朽化がみられるけれども、その取壊しが不可避で
あると認めることは困難」としました。結論として賃貸人の分譲用マンション建築計画の存
在から、耐震性に問題のある建物を取り壊すということの必要性を認めたものの、立退料な
しでは「正当事田」は具備されないとして、立退料との引き換えによる明渡しを認めました。
旧耐震基準に基づき建築された建物については、解約申入れに伴う「正当事田」の主張に際
し耐震性が必ずと言っでいいほど問題にされるでしょう。しかし本件のように必ずしもそれ
だけで「正当事由」の存在が認められるわけではありません。まず自己使用の必要性がある
のかどうか、その上で耐震性等の事情が判断要素として考慮されることになります。
なお、本件のような事例ではを朽匕もあわせて主張されますが、それだけでは、前記耐震
性の問題同様、「正当事田」の具備を基礎づけることは困難と思われます。
(弁護士 枝川充志)
足立借地借家組合
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電話 (03)3882-0055
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本件は、3階建ての建物(以下本件建物)と言います。)の1階部分の一部を賃貸期間5
年間とし、賃借人がこれを歯科診療所として使用していましたが、期間満了とともに期間の
定めのないものとなった後、賃貸人が解約申入れをした事案です。大きな争点となったのは
解約申入れに係る正当事由の有無でした。裁判では賃貸側から本件建物が旧耐震基準に従っ
て建築(昭和49年9月に新築)された古い建物であること、地震による倒壊・崩壊の危険
性、マンション建築等の計画等の主張がなされていました。
本件の問題は、旧借家法1条の2に定められている正当事由の有無ですが、実質的には借
地借家法28条が規定する「正当事由」と同じ事情が問題となります。この「正当事由」の存
否は、賃貸人及び賃借人の自己使用の必要性を比較し、これに建物の現況、利用状況等を考
慮し、その上で立退料を加味して判断されることになります。昨今、東日本大震災の発生に
伴い解約申入れに伴う「正当事田」の判断要素として、旧耐震基準に基づき建築された建物
の耐震性を主張されることがよくあります。
本件では、本件建物を建築した建設会社による「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、ま
たは倒壊する危険性がある」との診断があったものの、耐震補強工事により耐震性を向上さ
せられるとの一級建築士による意見書が出されていました。裁判所はこの意見書の客観性を
認め「本件建物は耐震性に問題があり、老朽化がみられるけれども、その取壊しが不可避で
あると認めることは困難」としました。結論として賃貸人の分譲用マンション建築計画の存
在から、耐震性に問題のある建物を取り壊すということの必要性を認めたものの、立退料な
しでは「正当事田」は具備されないとして、立退料との引き換えによる明渡しを認めました。
旧耐震基準に基づき建築された建物については、解約申入れに伴う「正当事田」の主張に際
し耐震性が必ずと言っでいいほど問題にされるでしょう。しかし本件のように必ずしもそれ
だけで「正当事由」の存在が認められるわけではありません。まず自己使用の必要性がある
のかどうか、その上で耐震性等の事情が判断要素として考慮されることになります。
なお、本件のような事例ではを朽匕もあわせて主張されますが、それだけでは、前記耐震
性の問題同様、「正当事田」の具備を基礎づけることは困難と思われます。
(弁護士 枝川充志)
足立借地借家組合
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定例相談会 毎月第2日曜日午後1時から
通常業務 月から金 午前10:00~午後4:00
定期借家契約の成立要件は契約書と別個の書面の交付による説明が必要
定期借家契約が有効に成立するための要件として、契約前に、契約書とは別個に「契約更
新がなく、期潤満了により契約終了となる旨を記載した書面」を交付して説明することが必
要とした事例(最高裁平成24年9月13日判決)。
【事案の概要】
貸室事業を営む会社と不動産会社が建物賃貸借契約を結んだ。その契約書には、契約期
問、賃料など通常の契約内容に加え、本件契約は更新がなく、期間満了により終了すること
が定められていた(定期借家条項)。本事件は契約期間満了により、不動産会社が定期借家契約の成立を主張して建物明け渡しを求めた事案である。
【判旨】不動産会社の請求を認めず。
①借地借家法38条1項が、定期借家契杓を結ぶには書面によることが必要と定めたことに
加え、同条2項が定期借家の内容を説明した書面を交付し説明することを要すると定めた
のは、契約の前に、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借の内容を理解させ、契
約をするか否かの意思決定のために十分な情報提供をすること、そして書面に基づいて説明
させることによって紛争発生を未然に防止するためである。
②以上のような借地借家法38条の趣旨からすると、定期借家条項のある契約書が交付さ
れ、賃借入が定期借家条項の存在を知っていても、定期借家契約の内容を説明した書面を契
約書とは別個に交付し説明すべきと解するのが相当。
③別個の説明書面を交付しなかった場合は、契約書に定期借家条項があっても通常の期間
の定めのある賃貸借契約と理解すべきである。よって、契約期間満了後は法定更新され、期
間のの定めのない賃貸借契約となる。
【解説】
定期借家契約の成立要件として契約書とは別個の書面を要するとの結論は、平成22年7月
16日最高裁判決(柬借連新聞2010年10月号判例紹介参照)で既に実質的に出ていた
が、契約書の定期借家条項の存在、契約締結経緯、契約内容について賃借人の認識の有無、
理解の程度など具体的事項は考慮されず、形式的、画一的に説明書面が必要であることを明
示した最初の判例である。
(弁護士 大竹寿幸)
足立借地借家組合
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定期借家契約が有効に成立するための要件として、契約前に、契約書とは別個に「契約更
新がなく、期潤満了により契約終了となる旨を記載した書面」を交付して説明することが必
要とした事例(最高裁平成24年9月13日判決)。
【事案の概要】
貸室事業を営む会社と不動産会社が建物賃貸借契約を結んだ。その契約書には、契約期
問、賃料など通常の契約内容に加え、本件契約は更新がなく、期間満了により終了すること
が定められていた(定期借家条項)。本事件は契約期間満了により、不動産会社が定期借家契約の成立を主張して建物明け渡しを求めた事案である。
【判旨】不動産会社の請求を認めず。
①借地借家法38条1項が、定期借家契杓を結ぶには書面によることが必要と定めたことに
加え、同条2項が定期借家の内容を説明した書面を交付し説明することを要すると定めた
のは、契約の前に、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借の内容を理解させ、契
約をするか否かの意思決定のために十分な情報提供をすること、そして書面に基づいて説明
させることによって紛争発生を未然に防止するためである。
②以上のような借地借家法38条の趣旨からすると、定期借家条項のある契約書が交付さ
れ、賃借入が定期借家条項の存在を知っていても、定期借家契約の内容を説明した書面を契
約書とは別個に交付し説明すべきと解するのが相当。
③別個の説明書面を交付しなかった場合は、契約書に定期借家条項があっても通常の期間
の定めのある賃貸借契約と理解すべきである。よって、契約期間満了後は法定更新され、期
間のの定めのない賃貸借契約となる。
【解説】
定期借家契約の成立要件として契約書とは別個の書面を要するとの結論は、平成22年7月
16日最高裁判決(柬借連新聞2010年10月号判例紹介参照)で既に実質的に出ていた
が、契約書の定期借家条項の存在、契約締結経緯、契約内容について賃借人の認識の有無、
理解の程度など具体的事項は考慮されず、形式的、画一的に説明書面が必要であることを明
示した最初の判例である。
(弁護士 大竹寿幸)
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