トランプ米大統領は5月9日、ジェームズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官を解任した。この出来事が、トランプ自身も予想しなかった大騒ぎになっている。(国際関係アナリスト・北野幸伯)

大統領選直前でヒラリーの捜査を再開
トランプの“大恩人”だったコミー氏

 今回解任されたコミー氏は、1960年生まれ。85年、シカゴ大学ロースクールを卒業し、法務博士の学位を取得した。2003~05年、米国司法副長官を務め、2013年にオバマ大統領(当時)からFBI長官に任命された。

大統領当選の大恩人、コミーFBI長官を解任し、さらにツイッターでコミー氏に対して、恫喝とも取れる書き込みをしたトランプ。一連の言動によって、「ロシア・ゲート事件」への疑惑を一気に強めてしまった。 Photo:AP/AFLO

 FBI長官の任期は10年。4年目にして解任されてしまったコミー氏だが、実をいうと、トランプの「大恩人」である。トランプが大統領選で勝利できたのは、「コミー氏のおかげ」といっても過言ではない。

 16年の米大統領選挙でトランプは、確かに時流に乗っていた。まず、「グローバル化で貧富の差が拡大している」ことに注目が集まっていた。

「オックスファム・インターナショナル」は、以下のような驚愕の事実を報告している。

 ・世界の富豪トップ8人と、貧しい36億人の資産額は同じ。
 ・金持ち1%の資産は、残り99%の資産より多い。
 ・貧富の差は、ますます拡大している。

 11年に盛り上がった「ウォール街を占拠せよ」運動の、「私たちは99%だ」(つまり99%はますます貧しくなっている)は、「大げさなスローガン」ではなく、事実なのだ。

 さらに、「イスラム国」(IS)によるテロが頻発していたことも、トランプ人気を高めた。彼は15年12月、「イスラム教徒の入国を禁止しろ」と発言。理由は「誰がISメンバーで、誰がそうでないのかわからない」から。マスコミは大いに批判したが、トランプの人気は下がらなかった。このように、トランプに「追い風」が吹いていたのは事実だ。

 しかし、彼の勝利を決定的にしたのが、コミーFBI長官(当時)だったのである。コミ―氏は16年10月28 日、「ヒラリーのメール問題捜査を再開する」と発表した。理由について彼は、ヒラリーの側近フーマ・アベディンと、その夫アンソニー・ウィーナー元下院議員のパソコンから、私用メール問題に関係のある可能性があるメールが「新たに65万通見つかったから」と説明した。

 大統領選挙は11月8日であり、FBIの「捜査再開発表」は、まさに「直前」だった。これで、ヒラリーの支持率は下がり、トランプが勝利したのだ。ヒラリーも、「負けたのは、FBIが直前に捜査を再開したから」と公言している。そして、トランプは当時、(捜査再開を決断した)コミー長官の「勇気」を褒め称えた。

 しかし、トランプは今回、その大恩人を解任した。なぜ?