特集「宅配クライシス」ではこれまで、第三者と同じ時間に同じ場所にいなければならない「同時性」が解消されることで、宅配ビジネスは変化しなければならないと論じてきた。しかし「同時性」の解消は、宅配のみならず、われわれの生活全般にも影響を及ぼしそうで、そこにはビジネスチャンスが眠っている。(フロンティア・マネジメント代表取締役 松岡真宏)

 特集「宅配クライシス」では、これまで宅配ビジネスをテーマに、第三者と同じ時間に同じ場所(電話などバーチャルなものも含む)にいる状態である「同時性」という概念について詳述してきた。
 
 特集の第2回(「宅配便は消費者が『取りに行く』ことで、送料を下げて量にも対応できる」)で述べたように、電話や対面でのコミュニケーションは、「同時性」が要求される。これは、現代のビジネスパーソンにとって極めて贅沢で貴重な時間の使い方であり、双方にとって価値の大きな情報のやり取りに限定すべきことである。一方で、片方あるいは双方にとって価値の小さな情報のやり取りに関しては、「同時性」が解消されたメールやSNSでのコミュニケーションの方が優れている。

そういった意味で、宅配の受け取り行為は、「同時性」を解消すべき領域だといえる。心待ちにしたプレゼントならばまだしも、ルーティンとして注文したシャンプー1本を受け取るために、自宅で数時間も待機して配達員の到着を待つのは、いささか合理的な時間の使い方ではないからだ。

 となれば、今後は、電話や宅配の受け取りなど、「同時性」を強制されていた時間において“プロセス革命”が進展していくであろう。「同時性」を必要とする電話が、「同時性」を必要としないメールやSNSに取って代わられたように、宅配の受け取りにおいても宅配ボックスなどに取りに行くセルフサービス化が進展していくのだ。

さまざまな分野で始まる
同時性解消ラッシュ

 こうした状況がさらに進めば、将来的にはメールなどでアポをとってからの電話が中心になり、アポなし電話は、アポなし自宅訪問と同じぐらい無礼な行為になるかもしれない。

 人々は、1日24時間という時間的制約から逃れようと必死に努力するが、この制約条件からは、古今東西逃れられた人はいない。われわれは、大して重要ではない第三者との時間はなるべく「同時性」解消をしようと努力するし、それをサポートする商品・サービスが継続的に生まれてくる。つまり電話や宅配サービスのみならず、さまざまな分野で「同時性」解消に向けた“ラッシュ”が始まるのである。

 では、「同時性」の解消が今後どんどん進んでいくと、人々はどのような過ごし方をして、自らの「時間価値」を高めようとするのであろうか。

 重要なことは、「同時性」を解消することは“目的”ではなく、“手段”だということである。

「同時性」の解消とは、第三者と共有する時空を遺棄して、他の誰かや、自己との時間を優先するという行為である。そのため、「同時性」解消は単なる“中間目標”であり、われわれは自らにとって大切だと思う時間を過ごすことで初めて“最終目標”を達成するのである。その時には、好ましい第三者(自分と向き合う場合は自己)との「同時性」の共有が必要となる。

 われわれは、非効率な第三者との「同時性」を解消して、新しい限界的な時間を獲得すればするほど、本質的に重要な第三者(あるいは自己)との「同時性」を求める。これは、VR(Virtual Reality:仮想現実)など新たな技術進歩だけで代替できるものではない。VRの発達が「同時性」の価値を減ずるものではなく、むしろ「同時性」への渇望をさらに高めることさえあり得る。

将来的に、VRの技術進歩は、現実空間とほぼ同様の3D空間を目の前に提供するようになり、VRでの行為と現実空間での行為とが同期するMR(Mixed Reality:複合現実)という世界が生まれる。これにより、長時間のフライトで欧米に美術品を観に行ったり、アフリカの野生動物を観察しに行ったりする必要はなくなってしまうと思えるかもしれない。

 確かに、VRがわれわれ人間に新しく与えてくれる選択肢の価値は高い。恐らく、過去の人間が経験できなかった新しい人生の過ごし方を提供してくれるだろう。しかし、VRが人間の行動全てを置き換えるというわけではなく、VRとリアルの時間は、共存的かつ補完的である。また、VRの価値とは反復性と時空の超越性である。

 われわれ人間は、反復性のある経験をすることで、逆に非反復性の経験を求める。VR体験でファンになったソプラノ歌手のオペラに行ったり、VR体験したアイスランドの間欠泉の吹き上げる様子を、実際に経験しに行ったりしたくなるのだ。反復性がある疑似体験をすると、今度はさらなる満足度を高めるため、本物の人や場所との「同時性」を求めるのである。

 今後も情報通信技術は発展し、VR・MR体験はより本物の現実に近いものとなるだろう。それでもなお、われわれはリアルな経験を求めていく。生身の人間としての時間は反復性がないからである。反復性がないからこそ、一瞬一瞬が貴重な時間価値の追求となる。人間は、反復性のない偶然の出会いを求めて、移動という行為を止められない生き物なのだ。

スマホなどの発展により
プライベート空間が持ち出し可能に

 このように考えると、人間が生来持つ出会いへの欲求に加えて、スマホなど移動通信端末の発展を背景に、われわれはよりこまめに動き回るようになる。スマホがあれば、動き回る際に発生する細切れのすきま時間を使って、色々なことができるためである。

 例えば、出張時の新幹線の座席が、スマホを使えばあっという間に自分の書斎になるなど、人々はプライベート空間の一部を、積極的に外部に持ち出し、よりこまめに移動することが可能となるのだ。

つまり今後は、自宅機能やオフィス機能の「外部化」が積極的に行われるようになるだろう。それは、人々が動き回ることに加えて、人口の都市部集中が進むことによる各人のプライベート空間の狭小化が起こり、プライベート空間を外部化することで「空間利用の高度化」が行われるためである。

 既に書斎は外部化され始めている。

 書斎は、都市部の住宅環境を考えると、極めて空間効率の悪い使われ方である。ただし、“外部化”された書斎という観点で見ると、現在のカフェやファミレスは、まだ完成形には程遠く、書斎として使い勝手の良いレイアウトや施設、時間貸し出しのシステムなどが必要となってくる。

 となると、売り場を持て余している大手スーパーなども、こうした書斎提供サービスに参入するチャンスは十分にあるのである。

キッチンの外部化により
ファミリーレストランに商機か

 書斎だけでなく、今後はキッチンも外部化されるかもしれない。スマホのサービスによって多くのレシピが日本中に紹介され、料理を作るために必要な調味料は多種多様となった。調理器具もしかりで、キッチン内の収納に困るほどの種類が存在している。こうした非効率性を解消する方向で、キッチンが外部化される可能性があるのだ。

 キッチンが外部化されると、調味料や調理器具などを自宅で保有する必要性はなくなってくる。そうすれば、油ものなど調理によって発生する室内の汚れ、食材の包装紙や切れ端などのゴミなどがなくなり、各家庭のメリットは大きいといえる。冷蔵庫だって小さくて済むし、大型の食器洗浄機も不要となり、自宅スペースの効率化には大きなインパクトがあるだろう。

 そうなれば、料理教室やレンタルスペースが調理の場となり、調理済みの料理を自宅に持ち帰るようになる。ファミリーレストランなどは、食材提供も含めたキッチン外部化ビジネスを始めることも可能である。

二つの要因で盛んになった
シェアリングビジネス

 外部化された個々人のプライベート空間は、生活圏内に点在するため、今後は点在するシェアリング対象空間への人々の移動も増加するだろう。

特集「宅配クライシス」の著者、松岡真宏氏と山手剛人氏と書いた『宅配がなくなる日 同時性解消の社会論』(日本経済新聞出版社)

 この種の移動は細切れで短時間のものとなる。東京都におけるタクシーの初乗り運賃が大幅に引き下げられた(730円から410円へと変更)のも自然な流れと言えるのである。

 千代田区など東京の多くの区では、すでにレンタル自転車のサービスがスタートしている。中国ではもっと大々的に民間企業が入り乱れる格好で、中国全土で4000万台の(2016年末時点)のレンタル自転車が設置されていて、1億6000万人(同)が会員となっている。このうちの1社が2017年にも日本に上陸すると言われている。

 つまり、シェアリングビジネス隆盛の背景には、プライベート空間の外部化と、貴重な「同時性」を求めて動き回る人間という二つの要因が存しているわけだ。

 われわれ消費者側は、宅配受取のセルフ化など、現在要請されている「同時性」の無駄を省く努力をする必要がある。同時に、自ら積極的に「動く」ことで新しい出会いを獲得し、本当に意味ある「同時性」を追求して、自分の時間価値を高めていくことが必須である。

 一方、企業側は、消費者の「同時性」解消をサポートするか、意味ある「同時性」追求をサポートするかといったスタンスの明確化を迫られている。

 1日24時間というわれわれの制約条件が変わらない以上、そう遠くない将来、消費者も企業もこうした変化に対応していく必要があると言える。