不可解な不動産取引に揺れる神社本庁だが、一心同体ともいうべき政治団体「神道政治連盟」が安倍政権と近く、大きな政治力を及ぼしているとみられている。また全国8万社の神社を束ねているだけに、その資金力も恐れられている。特集「瓦解する神社」第2回目では、その実態に迫る。(週刊ダイヤモンド編集部・ダイヤモンドオンライン編集部 『瓦解する神社』取材班)

 昨年の正月。初詣で賑わう各地の神社で、“不穏”な動きが表面化した。

 参拝客でごった返していた都内のある神社では、境内に「誇りある日本をめざして」「憲法は私たちのもの」と書かれたのぼりが掲げられ、近くに設置されたテントには、「国民の手でつくろう美しい日本の憲法」「ただいま、1000万人賛同者を募集しています。ご協力下さい」なる文言が書かれたポスターとA4の署名用紙、それを入れる箱が置かれていたのだ。

 じつは、こうした神社はここだけではなかった。というのも、東京都の神社をまとめる「神社庁」が、各神社で憲法改正に賛同の署名活動を行うよう指示していたからだ。

 なぜ神社庁が支持を出し、神社が署名活動を行ったのか。

 実は、全国8万社の神社を管理・指導する神社界の“中枢”であり“総元締め”でもある「神社本庁」、そしてその地方機関である神社庁は、「神道政治連盟(神政連)」という政治団体と関係が深い。

 神政連は、「神道精神を国政の基礎に」を合言葉に、神社界を母体として1969年に設立された政治団体。本部は神社本庁内にあり、役職員には神社本庁の評議員らが名を連ねていることから見ても、神社本庁や神社庁と神政連は“一心同体”の組織。そこで、以下では神政連の動きを通し、神社界と政治の“距離”について見ていこう。

安倍政権の応援団でも
集票力は皆無の神政連

 神政連は、自民党、引いては安倍政権との関係の深さが、かねてから指摘されている。

 神政連の活動を支持する議員連盟として「神道政治連盟国会議員懇話会」という組織があるが、2017年6月20日時点で、自民党を中心に衆議院議員228人、参議院議員81人の合計309人の国会議員が所属している。

 しかも、第三次安倍政権の現閣僚20人の内、公明党出身の石井啓一国土交通大臣を除いた19人全員が懇談会のメンバー(下図参照)。その懇談会の会長は、安倍晋三首相が務めているからだ。

 そんな安倍首相の悲願は憲法改正。思いを同じくする神政連も、日本最大の保守組織「日本会議」とともに政権を支える保守勢力として影響力を発揮するチャンス。そこで神政連が神社庁に働きかけ、署名活動という“行動”に出たというわけだ。

 こうした動きを捉えて、「すわ、国家神道の復活か」などと危ぶむ声も一部で上がるが、そこまではいかなくても、神社界と安倍政権との距離の近さに、どこか不気味さを感じる方も少なくないだろう。

 ところが、である。「今や神政連は、政治に対してたいした影響力があるわけではない」と神社本庁関係者は口を揃える。

 事実、今回の署名活動も、日本会議から指示されるがままで、それに従っただけ。以前は神政連の方が勢力を誇っていたにもかかわらずだ。

01年の参議院選挙でもこんなことがあった。神政連は、自民党公認候補として比例区から出馬した有村治子氏を支援していたのだが、得票数が少なくて苦しみ、当選確実の報が明け方まで出なかった。最終的には当選したが、蓋を開けてみれば、神社は全国津々浦々にあるにもかかわらず、票が入っていない地域が少なからずあったというのである。

パワーなくても政治家が頼るのは
地域の祭りに出れらるから

 戦後の混乱期以降、神政連は陰になり日向になって政治への働きかけを行い、「元号法制定」「剣璽御動座(けんじごどうざ・天皇が行幸する際に、剣と勾玉を携えて移動し、滞在先に奉安すること)の復活」「紀元節の復活」など、数々の“華華しい”成果を収めてきた。

 それが今では、「見る影もない。昔は、政治に対する影響力も大きかったが、今や集票力は無きに等しく、影響力も日本会議とは比べものにならないほど小さくなった」と神社関係者は語る。

 そればかりか、6月19日まで開かれていた国会では、天皇の退位をめぐる皇室典範に関する議論がなされるなど、神社界にとっては“一大事”だった。

 にもかかわらず、今特集「瓦解する神社」第1回の記事(「神社本庁で不可解な不動産取引、刑事告訴も飛び出す大騒動勃発」)で報じたような不動産取引をめぐるドタバタで組織が混乱、なんら行動を起こすことができなかった。

不可解な不動産取引で揺れる「神社本庁」
Photo by Diamond weekly

 こうした神政連の姿を見て、「神社側もついてこなくなった」と、この関係者は明かす。

「神社の神主たちも世代交代が進んでしまった。そのため、新憲法の制定や、皇室と日本の文化伝統を大切にする社会作り、靖国の英霊に対する国家儀礼の確立といった、神政連が掲げてきた目標に関心がなくなっており、積極的な活動もしなくなっている」(神社本庁関係者) 
 
 しかし、このようにすっかり力を失いつつある神政連に対し、国会議員たちはなぜ懇談会のメンバーになってまで支持を仰ぐのか。

「議員たちは票がほしいというよりは、神社が主催する地元の“祭り”が狙い。地方では、いまだ多くの人が集まるため、祭りは有権者の前で演説できる絶好のチャンス。その機会を得るために懇談会のメンバーになっているだけで、神社本庁や神政連に対する忠誠心など何もない」と神社本庁関係者は明かすのだ。

神宮大麻というお札の頒布で
神社に厳しい“ノルマ”

 ここまでは、神社界と政治の距離を見てきた。それでは、神社本庁のカネはどうなのであろうか。

「最近、頒布が減少しているぞ。式年遷宮を目指してとにかく増やせ!」

 今から5〜6年前のこと。全国各地の神社に対し、一斉にこんな “げき”が飛ばされた。発信源は神社本庁だ。

 神社本庁が増やせと命じていたのは「神宮大麻」の頒布数だ。神宮大麻とは、簡単に言えば、神社界のピラミッドの頂点に立つ伊勢神宮が配る「天照皇大神宮」と書かれた「お札」のこと。各家庭の神棚にまつり、日々、祈りを捧げれば、遠くからでもお伊勢さん(伊勢神宮)のご加護を授かることができるというものだ。

 この神宮大麻は、その大きさによって大・中・小とあるが、小で1体800円。全国の神社は、これを氏子などに販売し、最大の“収益源”としているのだ。

 神社本庁は、バブル時代、この神宮大麻の帆布数を「1000万体まで増やす」との目標を掲げ、全国の神社に厳しい“ノルマ”を課していたが、バブルの崩壊によりその数は減少の一途をたどっていた。

 しかし当時、20年に一度、社殿を新たに造営し、旧殿から神体を移す伊勢神宮の「式年遷宮」という神社界最大のイベントを控えており、神社本庁はその費用を賄う必要に迫られていた。そのため傘下の神社に対し、げきを飛ばしていたというわけだ。

 左図を見ていただきたい。これは、神宮大麻をめぐるカネの流れを簡単にまとめたものだ。

 まず、神社は氏子などに神宮大麻を“販売”。その“売り上げ”を、都道府県の「神社庁」に“上納”する。その後、各神社庁は神宮大麻の“発行元”である伊勢神宮に“上納”、伊勢神宮は半分程度を懐に入れた後、「本宗交付金」として神社本庁に渡すという形だ。2014年度の決算資料によれば、その金額は32億8450万円、神社本庁の歳入のじつに67.3%を占める。

 しかし、ここから神宮大麻をめぐるカネは不思議な流れをたどる。神社本庁に集められたカネは、数%上乗せされ(14年度決算書では34億7530万円)、都道府県神社庁、各神社へと戻されていくのだ。
 
 つまり、神社が販売した神宮大麻1の売り上げは、いったん、都道府県の神社庁→伊勢神宮→神社本庁と吸い上げられた後、再び神社へと戻されているわけだ。

 どうしてこんな面倒なことをするのか。

「税務当局から、神社が売り上げをそのまま手にすれば、神社は伊勢神宮の『代理店』に該当し、売り上げは手数料収入となって課税対象となると指摘された。そのため、いったん神社本庁に集め、交付金として神社に交付する形がとられるようになった」と神社本庁の関係者は解説する。

 こうした流れをたどるため、「歳入の7割近いカネは、神社に“還付”され神社本庁には残らない。頒布してもらうための“助成金”も出しているから、正確に言えばマイナスだ。だから、一般会計の歳入は48億7899万円となっているが、実際の収入は、寄付金や神職の資格試験などで得られる手数料など16億円程度に過ぎず、ある意味“自転車操業”的な運営だ」と神社本庁関係者は自嘲気味に言う。

 ちなみに、職員の給料もさして高くないようだ。ある40代の職員の場合、基本給は40万円程度。それに住宅手当や月に一度の宿直手当などがわずかに加算される。ボーナスは年間で「200万円くらい」(職員)だという。

全国8万社を束ねている割に
資産は94億円程度しかない

 そもそも、全国8万社の神社を束ねているわりには、神社本庁にそこまでの資産がない。下図を見ていただきたい。これは、14年度の決算資料を基にまとめた神社本庁の主な資産だ。

 宗教法人神社本庁のベースとなる「基本財産」として最も大きいものは、神社本庁の境内地と建物。それ以外は、職員が住む職舎と現預金くらいで、合わせても43億3185万円に過ぎない。このうち、百合丘職舎は、前回記事「神社本庁で不可解な不動産取引、刑事告訴も飛び出す大騒動勃発」で紹介したように、すでに売却されているから、今は40億円にも満たない金額となる(金額はいずれも簿価)。

 これに、以前、皇室と関係を維持するために使われていた資金がそのまま残っている「特殊財産」が1億8276万円、そして宗教法人として行う通常の活動費用に充当する「普通財産」が48億6182万円で、神社本庁の「正味財産」は93億7644万円程度なのだ。

 少し話がそれるが、普通財産の中には、歴史教科書を出版している教科書会社の株式や、「運用のことなど分からない担当者が、証券会社からうまい話を持ち掛けられて買ってしまい、後に大きな損失を出して内部で問題となった」(神社本庁関係者)エルピーダメモリの社債なども含まれているのは興味深い。

 こうして見ていくと、神社本庁には「政治力」「資金力」ともに恐れるほどのものはないことが分かる。それでも世間から不気味がられるのは、「外からその内情をうかがい知ることができないから」に尽きるのではないか。

 だが、現在の神社本庁には問題が山積し、組織がぐらついている。現執行部は、それを押さえつけようと強権を発動し、多方面から批判や不満が吹き出している。次回、その詳細についてお伝えする。