Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

夜想曲集 クラシック小説集に非ず

2009-06-25 08:53:29 | 読書
カズオ・イシグロ著土屋政雄訳「夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 」早川書房 (2009/06)

著者初の短篇集だそうだ.ブックタイトル,造本などからクラシック音楽をテーマにした小説かと思ったが,それらしいのは 5 編のうち最後の「チェリスト」だけ.これは若いチェリストが自称チェロ演奏の大家と称するおばさんから個人指導を受けるという筋.全体にバックに流れるのは古き良き時代の,村上春樹が好きそうなジャズ-ポピュラー音楽.
著者自身こうしたジャンルのミュージシャンを目指した時期があったとかで,どれもミュージシャンの目線で書かれている.

奇数ページ偶数ページそれぞれのヘッダに邦題と原題が配してある.
そもそも最初の短編の邦題が「老歌手」とあつて,歳取ったオペラ歌手を連想してしまったが,原題は Crooner.クルーナーはビング・クロスビー,ペリー・コモ,アンディ・ウィリアムス...と言った系列の歌手のことである.
ここに出て来るカップルの片割れが,四つ目の「夜想曲」にも登場するが,これが一番長くて面白かった.
二つ目の「降っても晴れても」の原題は Come rain or come shine,スタンダードのタイトルだが,この本では異色のドタバタで,ちょっと違和感.「モールバンヒルズ」までの三編に共通するのは.壊れかかった中高年カップルが登場し,それに絡む三人目がミュージシャンという構図.

訳者あとがきにあるように,「どれも人生の一瞬を切り取ってみせたような作品」.このあとがきでは短編集出版の収支の内幕をばらしているのが面白い.
LP レコードをデザインしたカバーが良いです.

***内容(「BOOK」データベースより)***
ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、書き下ろしの連作五篇を収録。人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く、著者初の短篇集。
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3 コメント

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Unknown (こすずめ)
2009-06-26 20:29:03
今晩は。
カズオ・イシグロ、なかなか好きなのです。
最近、新聞広告で新作の宣伝を見て買おうかな?と思っていた所です。
この、短編集ではなかったようですが、これも興味あり!
本屋さんでチェックします。

ところで・・・
梅とシアンのコメント、返コメをうっかりしていました。
アミダクリンはアジサイの葉にもありますが、砂糖やアルコール処理で無害化するそうです。
それより、カルシウム系の物と化合すると青酸カリになるとか・・・怖い!
黒糖や三温糖は避けなくてはいけないそうです。
お陰でいいお勉強になりました。感謝!
カズオ・イシグロ / 青梅シアン (16トン)
2009-06-27 08:53:51
新聞広告もこの本だったのでしょう.ベストセラーだそうです.


シアンは青酸とも言うように酸なので,金属イオンと結合します.カリウムイオンとくっつくと青酸カリですが,ナトリウムイオンとくっついた青酸ナトリウムのほうが怖そう.鉄はナトリウム・カリウム (この二つは同類) に比べると活性が低いし,包丁で梅を切ったくらいでどうなる...というものではありません.

包丁を溶かすのは,梅に含まれる青酸以外の酸の仕業だと思います.

梅の実を生でタネごと何十個も食べれば青酸も危険でしょうが...
Unknown (こすずめ)
2009-06-27 19:39:13
カズオ・イシグロの最新作は、やはりこれでした。
買って来ました。
前から未読が気になっていた村上春樹作品、1Q84人気で却って読みづらい雰囲気ですが、取敢えず【ノルウェイの森】だけ買ってみました。
読めるかしら?と心配です。

シアン・・・説明、ありがとうございました。
大雑把ですが、わかった気になっています。
有難うございました。

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