映画「男はつらいよ」だとか「釣りバカ日誌」と言えば、毎回あちこちでロケを行い、舞台となったロケ地が観光名所になることも多かった。テレビでも、NHKの大河ドラマが毎回観光名所を生み出すし、「水戸黄門」も毎回せっせと日本中を漫遊していた。今でも2時間のサスペンスドラマと言えば、必ず地方にロケに行き、観光名所や温泉地、そして名物や名産品を登場させる。
撮影する側からすれば、宿泊から食事まで用意してもらえるため制作費が安く済むし、ロケ地の側からすればそのくらいのことで宣伝効果があるのだから、安いものである。とりわけ大ヒットドラマにでもなれば、海外からも観光客が押し寄せるのだから、こうした制作方法がなくなるはずがない。近頃では、フィルム・コミッションと言って地方公共団体や観光団体が組織を作り、積極的に誘致する。
この前、九州まで旅行した帰り道、広島の鞆の浦に寄ったので、数年前にテレビドラマになった「流星ワゴン」のDVDを借りて観ている。香川照之と西島秀俊が親子役で出演しているドラマで、実家が鞆の浦にあるという設定になっている。
ついこの間、自分の足で歩きまわった場所がロケ地になっているというのは、観ていて面白い。ドラマではわからなかったが、ロケの舞台はかなり狭い範囲で撮影が行われているのがわかったり、ああ、あそこの常夜灯のところで、地元の爺さんに話しかけられ、延々と鞆の浦の歴史を講釈されたのだなあと、旅行の思い出に浸ったりしている。
大分の家のある宇佐市でも、数年前に新垣結衣が出ていた「恋空」という映画が撮影された。田んぼの風景や、海岸線を走る電車など、わざわざ大分くんだりまで来て撮影しなくても、東京近郊にも似た場所はたくさんあるだろうと思うが、よっぽど宇佐市の誘致が魅力的だったのだろう。
ロケ地というわけではないが、東京にいると、あちこちでテレビの撮影をしているところに出くわす。よほど自分が興味を持っている芸能人でもない限りは足を止めることはないが、京都を旅行した時には、渡月橋を渡ろうとしたら「こら、そこ入ってこない」と、突然怒鳴られてびっくりした。足を止めて見渡すと、渡月橋の上で「暴れん坊将軍」の撮影の真っ最中だった。人だかり越しに橋の真ん中あたりを見ると、そこには畳一枚分くらいある大きな顔をした松平健が立っていた。