あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

森と芸術 ・東京都庭園美術館

2011-06-30 15:35:37 | 美術展
白雪姫はどこで目が覚めたのだろう。
小人たちはどこに行ってしまったのか?

庭園美術館で「森と芸術」展が開催中。
それも7月3日で会期を終える。

ぎりぎりとなったけれど、雨のそぼ降る日に
折りたたみ傘を広げてその深淵な森に入り込んできた。

今一番緑の美しい頃、その緑に瑞々しい水分が滴り落ちて
一層美しさに輝きを放っていた。

場内に入って、すぐ目眩。
動物たちの剥製と骨、化石のお出迎え。
大きなダチョウの玉子の殻が白い大理石のよう。
私の中で、ドクドクアドレナリンが湧いてくる音が聞こえる。

リストから会場を追いかけることにする。
自分の錯乱を抑える為に。

第一章 楽園としての森
 一階のフロアーに芸術の森の顔たちが集まる。
 アンリ・ルソーの「エデンの園のエヴァ」
 ゴーギャンの「かぐわしき大地」「水辺の女たち」
 デューラーの「アダムとエヴァ」
 アンドレ・ボーシャン「楽園の開花」「楽園」

 森の楽園が開場。かぐわしいイントロのアプリティフのよう。

第二章 神話と伝説の森
 ダンテの神曲の挿絵をドレが描いた本を手に入れた。
 宝島社、訳・構成 谷口江里也 
 図版を見るような素敵な本で、ときどきみとれている。
 ダンテの話はさておき、ドレの線に驚愕する為に。
 そのドレから何作かの展示。
 版画好きならば小さな部屋の壁に目が張り付いたことだろう。
 神話にはいつも森が額縁のように話の深さを示している。

第三章 風景画のなかの森
 森の絵と思えば、コロー
 うっそうとした森の向こうからぼんやりとした光が充満している。
 版画からは生まれない油絵の色の森。
 他会場ではここに岡鹿之助や、東山魁夷が組まれる。
 この辺りが監修者の目だろう。
 ちょっと他の展覧会場を見てみたい、と思う。

第四章 アールヌーボーと象徴の森
 「我が根源は森の奥にあり」という言葉を残したガレ。
 なんとも彼らしい言葉だ。
 その具現であるガラス品が森の深みから
 おおきなキノコに変身したニンフがその美しさを鼓舞している。
 今回のチラシに使われた
 ポール・セリュジエの「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」
 この絵から森の精のようなアンヌ女公の姿が美しいし、
 色使いが落ち着いた森の色だ。

ギチギチと音を立てて二階へ上がる。
階段はいつもそういう音を立ててほしい。
本当に鳴っていたかはわからない。

 階段を上るとキッチュなテーブルが見える。
 鳥の足跡を残し、鳥の足をつけたテーブル。
 壁にはマグリットが黙ったまま時間を森に託している。

第五章 庭園と「聖なる森」
 森から庭園へ。
 あり得ない広大な庭園をフランス式庭園図にした、
 マ二エリスムの造園の熱狂。
 版画の線にもその熱が滲んでいる。

 確か巌谷國士氏は澁澤龍彦氏と世界中の奇怪な庭園巡りをしていた。
 その旅行記は本にもなっただろう。
 その時に見た印象的な写真が並んで驚いた。
 川田喜久治によるモノクロ写真。
 朽ちた石像と深い森はなんて素敵な友だろうと。

第六章 メルヘンと絵本の世界
 赤ずきんちゃんはじめ、西洋の物語は森と一緒に生まれてきた。
 そんなことを実感できる。
 グリムや、アンデルセンは森の中で妄想をペンにしたのだと思う。
 子供たちは悪い子になると森でイタイ目に合う、
 そう親からしつけられてきたのだろう。
 大人になっても森の奥は怖いことに変わりはない。
 物語が沢山住んでいるところでもあるのだ。
 書斎の部屋にかんな屑のおもちゃが展示されていたが、
 なんとも愛らしい大きな木の姿になっていた。
 懐かしい、くるみ割り人形も一緒に。
 クリスマスのオーナメントでお目にかかる
 小さな人形たちも並んでいた。

題七章 シュルレアリスムの森
 シュル好きにはここのコーナーがたまらなかった。
 絵本になった森は子供の為だけではない。
 大人になっても森は深々と思索を巡らせる不思議ワールド。
 妄想は作品になって姿を変え、
 その作品は見る人の心をとらえてきた。
 エルンストの絵画、彫像、デッサン。
 マグリットの宇宙、
 デルボーの夢。
 マン・レイの場合。

第八章 日本列島の森
 西洋の森ばかりではなく、
 日本の森も取り上げた。
 代表者は岡本太郎。
 縄文の土肌、森の根っこの広がる手。
 写真は太郎が凝視した痕跡。
 最後に男鹿和雄の「もののけ姫」の背景画で締めくくられた。

大変充実した思いで、外に出た。
心地よい湿度が庭園を覆っていたので、
iPhoneを片手に写真を撮ってきたので数枚載せることに。

作品リストを見れば、番号が飛んでいるので、
図録とてらして他の展覧会場に並ぶものを眺めるのも一興。
しかし、福井県立美術館や、札幌芸術の森美術館なども
きっとすばらしい展示になるのではと
地方の美術館へも行ってみたい気になる。

移動する森から生まれた芸術をぜひ楽しんで頂きたい。
東京はこの7月3日。日曜日までです。 
巌谷國士先生監修の図録は読み物としても秀逸。
手元に置いておきたい本です。


日本庭園の入り口から深い緑の国へ紛れ込んだよう。



その奥にある茶室「光華」
朝香宮鳩彦王(やすひこ)によって命名された。



安田侃 作 「風」
庭園美術館のお守りのよう。









「座る豹」
じつは彼がここの主だったりする。

この秋、大々的に改装に入る庭園美術館。
そのリニューアルを待ちつつ、
今の姿をおもいっきり目にしまい込んでおきたいと思う。
門前のショップやカフェがなかった頃からの
ファンなのだし。

お昼寝から目が覚めた私は
白雪姫ではなく、アリスでもなく
いつもの私だったのだ。

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4 コメント

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澁澤龍彦!!! (田川 恵)
2011-07-01 15:54:41
いいなー、まじでうらやましいです。
澁澤龍彦、あたしのヒーローやの。
日本庭園とアールヌーボー、シュルレアリスム、
すごいコラボレーションやね、うらやましい。
何か東京で私に仕事を下さい、飛んで行きます(笑)
健太がね、この前、カメラマンアシスタントで
四谷シモンさんの撮影行ってたんよ。
何かの縁ですな、きっと。東京も狭いみたいね(笑)
恵 さま (あべまつ)
2011-07-01 23:00:12
こんばんは。

恵ちゃん、コメントあじがとう!
ここはホント、よかったよ。
美味しいところ満載で。
健太が四谷シモンさんの人形撮ったの?
いい仕事になったらいいね。
好きなことだったら頑張れるものね。
また、そっちのブログもコテコテ頑張ってるね!笑
こんばんは (田川 恵)
2011-07-02 04:55:25
いいなー、うらやましい。
健太はシモンさんの人形でなく、本人撮影したんやって。
アンダーグランドレジェンドの撮影アシなんて羨まし過ぎます。
このままうまくいったらもう看護士やらへんのとちゃいか 笑
ブログがんばってますよ、あいかわらず過激な事やってますが笑
今は管理下社会にもの申すアメコミ読んでます。
秋にグループ展か個展やるよ、準備に追われてます。
がんばりますよー ;)
澁澤龍彦、やばいよねー。
ちゃんと日本の事考えてサド翻訳したtこがかっきょよ過ぎる。出廷しなかったとこもアナーキストでヤバい 笑
恵 さま (あべまつ)
2011-07-03 13:33:27
この森と芸術の図録本はとってもよく監修されてると思ったわ。
やっぱり自然に包まれると不思議な力が盛り上がってくるのよね。

グループ展でも、個展でもともかく
自分さらけ出して弾けきってね。
見に行ける場所だったらいいけれど。

澁澤龍彦はアートの基本の血が流れてるし、
過激なことやっても下品にならないところが
凄い人。いつまでも前衛を感じるわね。

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