ふくろう日記・別室

日々の備忘録でしたが、新たに「介護の日々/care」を記して参ります。(2017・7・3)

河辺の家

2017-07-16 21:59:31 | Care


夫の入院先へ通いながら、しきりに思い出す自作の詩があります。
恥ずかしながら、ここに掲載します。

私の介護の事始めはこれだったのでしょう。
   

   河辺の家

   写真の家の南側には
   五つの大きな二重窓が並んでいた

   凍結を解かれたスンガリー河が
   音をたてて流れる つかの間の夏
   若かった母がその窓を開けると
   朝のまぶしい光とかわいた風が
   父とわたしのまわりをめぐったのだろうか

   占領国の子として そこに産まれ
   敗戦国の子として そこを追われた
   その家は いつも
   記憶の届かないところに佇んでいた

   おだやかに川の流れる町が
   やがてわたしたちの住処となった
   重い雨戸を戸袋にしまいおえると
   戦後の貧しい朝が訪れた

   すもも つるばら ほおずき みょうが
   板塀に貼りついた蝉のぬけがら
   ラジオ 卓袱台のうえの薬瓶
   点在する記憶をたぐってゆくと
   夏風邪をひいた小さなわたしが眠っている
   水仕事のあとの母の手が
   時折わたしのまどろみのなかにさし入れられ
   そして立ち去っていった
   夕暮れると父は鳴かない鈴虫を連れ帰った

   一九九五年 晩夏
   川辺の古い家
   わたしのととのえた夕餉は
   老いたちちははの
   口腔の奥にあるふるさとに届かない
   食べ残しの多い食卓をかたづけて
   小さな軽いちゃわんを洗うとき
   窓の外はすっかり闇夜

   わたしのうしろにいる子供たちよ
   わたしの前にはもう誰もいません
   ちちははは
   小さなわたしも 写真の家もすりぬけていって
   それぞれのふるさとを思って
   まどろんでいます

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 転院2日目にして…… | トップ | 陽の沈む海へ »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。