底無しの夢(麻亜子の勝手に選歌)

短歌人の皆さんの歌や、読んだ歌集を紹介しています。
「古今伝授の里フィールドミュージアム」のことなども…

『岸』岩尾淳子第二歌集

2017年06月16日 | 歌集・冊子
神戸在住、未来短歌会の岩尾淳子さんの第二歌集『岸』が、
ながらみ書房より出版(2017年6月9日)されました。

もとどおりの場所に藤棚つくられて耐震工事のようやく終わる

岸、それは祖母の名だったあてのなき旅の途中の舟を寄せゆく

ああ今日も晴れてしまうよ明けやらぬ空にさえずる夏ほととぎす

夕暮れて野球部員の均しゆく土より冬の背すじが浮かぶ

流転するさなかの家族はさみしくて小さい順にお茶碗あらう

とけそうな中州の縁にこの世しか知るはずもない水どりの群れ

鯛焼きをふたつに裂けば境内にしろきひかりが戻りてきたり

責めているわけではなくて曇天にラリーのつづく音聞いている

春を待つこころあるいは水鳥のようにブラウスたたまれており

さみしさのほかには隠しごとのない家族よ白粥ふきこぼれたり


教師として、家庭人として過ごしてきた日常。何でもない事象や
光景の中にこそ生の在りようが見え隠れすると思わされます。

一首目、校舎の耐震工事でしょうか。耐震という外見からは判断できない
ことに対し、大切な藤棚が元通りにされることで、安堵する気持ちが
巧く詠まれています。

二首目、歌集名『岸』は祖母の名であることがわかりました。祖母への
深い心寄せが素直で共感できます。

五首目、小さい順にお茶碗あらう といううつむきがちな行為が、
さみしさをより引き出しています。

無理のない言葉に詠まれる一首一首の歌は、温かく穏やかです。
読者がその情景に、懐かしさを覚えスッと入っていけます。
曇天にラリーは淀みなく続き、たたまれたブラウスに長い年月を
感じます。それはまことに尊く実感がこもっているのです。
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