底無しの夢(麻亜子の勝手に選歌)

短歌人の皆さんの歌や、読んだ歌集を紹介しています。
「古今伝授の里フィールドミュージアム」のことなども…

『窓は閉めたままで』紺野裕子第三歌集

2017年07月12日 | 歌集・冊子
短歌人の編集委員である紺野裕子さんの第三歌集 『窓は閉めたままで』が、
短歌研究社より出版(2017年6月27日)されました。

帰還困難区域の大熊町を経過するとき、窓は閉めたままでなければいけない。
警察官が3人一組で監視に立つ。そんな切迫した現実がそのまま歌集名に
なっています。福島市で生まれ育ち、震災ののち老いた両親を亡くした
哀しみが、感情を抑えつつ端正な文語旧かなで詠まれています。
福島の惨状を詠んだ歌の背景には、懐かしい故郷、両親との忘れ得ぬ暮らしが
季節感を伴なって丁寧に詠まれます。


鬼胡桃の木の間にひかる阿武隈の川に汚染は測定し得ず

まぶた閉ぢもうひとつ奥のまなこ閉づ地震列島けふのしづかを

立夏の雷(らい)たちまちに過ぎささやかな雨のなごりは視界を照らす

老いし夫婦のかたちつぶさに子らに見せ父母は逝きたり二年をおかず

手花火のひと束のこり朝なさな日差し透きつつ九月にはひる

改札を出でて信号待てるまを安達太良の空こころにたたす

螢(ほうたる)を追ひつつ父とはぐれたり水あまかりし夏はありにき

ペリー艦隊「着船の図」の行列の左右にわづか楽人は見ゆ

いつのまにか風は絮毛をとばしをり われを離れしわれがもどり来(く)

ふくしまの止むときの無き喪失をわが身のうちにふかく下ろさむ


沈黙のなかで得られるこころのしずけさ、奪われ壊された喪失感は、
内へ向くことでむしろ豊かになり、すべてが体験を通し昇華された
ことで見えてくる景だと思わされます。
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