底無しの夢(麻亜子の勝手に選歌)

短歌人の皆さんの歌や、読んだ歌集を紹介しています。
「古今伝授の里フィールドミュージアム」のことなども…

『筒井富栄全歌集』(六花書林)

2017年07月13日 | 歌集・冊子
1930年生まれの筒井富栄という歌人は、短歌人の村田馨さんのお母さまで、
天野慶さんにとっては義理のお母さまに当たる歌人です。
2000年の7月に亡くなられたので、今月でちょうど17年が経ちます。

『筒井富栄全歌集』(2016年10月27日・六花書林)には、1969年に上梓した
『未明の町』から1998年に上梓した『風の構図』までの4冊の歌集と、
未完歌篇、初期歌篇、歌人論が収録されています。
加藤克巳門下として、モダニズムの系譜に連なり<軽短歌>を提唱。
ライトヴァース以前に、こんな圧倒されるような口語短歌が存在していた
ということに驚きます。まだお読みになっていない方は是非!!
分量が多いので、各歌集に分けて好きな歌を紹介します。

『未明の街』より
すべて後手 光の夜を押しわけて低く自分に唄をきかせる

死者まねる青年に牛の首ささげわらいあうわれら 夏の末裔

君たちはあかつきにむかい駆けてゆく いや夜明けなどないとしりつつ

やさしく雨は地表を濡らす だが淡く渇いて咲いたにせライラック

『森ざわめくは』より
ねむるのだかすかに低く絶え間なくきこえつづける音を断つため

つかれはてた帆船のように手をたれるわが視野にだけ雨は降るのか

八月の切子硝子の反射面そのおのおのの夏そがれたる

ある午後を不意に発芽のにおいさせ円型の卓は木に還りゆく

『冬のダ・ヴィンチ』より
かみなりに打たれた杉の一本はこの地を発ちしときのままなる

黒い馬の乗り手はもういない乾いた大地には乾いた種子があった

無頼なる青年がひとり通りすぎ海への道はそれより閉ざす

川にごる夏ゆうぐれに近きころ人声はする水の底より

『風の構図』 より
しばらく海にゆかずにいるが海はまだゆったりとそこにあるのだろうか

この街でわが座るべき木の椅子をひたすら思う日の落ちるまで

視えざるものを追いつめてこの崖にきてひえびえと今墜ちゆく一羽

抱かれる風のやさしさ生きることふともやめたき夕景がある

「未刊歌篇」より
砕けつつ月が流れてゆく川に吾れと汝(な)が影とどまりており

「初期歌篇」 より
ただれた空は叫ばないまま暮れてゆくこのどん底に心かわく日


最後の「歌人論」(小池光・岡井隆・馬場あき子)、
村田馨による「解題」も読み応えがあります。

時代は移り作者がこの世を去っても、佳い作品は残り、新しい読者を
獲得し続けるということ。長い時間を経てふたたび花開き、それを
享受できる喜びというもの… 息子の手による編纂というこの上なき喜び。
村田さんはあとがきで「こんなにも遅くなった…」と書かれていますが、
それだからこそ、筒井富栄という歌人を知らない世代にとって、新鮮な
感動を呼び起こすのかもしれない。

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