南無八幡大菩薩、ご照覧あれぃ〜!
雨鑑〜aammee/織部正 blog



 
神保町シアターで2月7日〜3月13日まで「東宝文芸映画の世界」という特集が上映されている。「馬の映画100選」という本で激賞されていた「馬」という映画がその特集の中で取り上げられており、観に行ってきた。


<解説>
東北の片田舎に生きる農家の娘(高峰)が、新しく生まれた仔馬をひたむきな愛情で育て上げ、立派な軍馬として世に送り出していくまでを描いた山本嘉次郎監督による名編。撮影は盛岡で1年がかりの長期ロケで行われ、春・夏・秋・冬とそれぞれ別のカメラマンが担当した。東北の農村の美しい四季の移り変わりや風格、その純朴な人柄が描写された写実的作品。当時山本監督の愛弟子だった黒澤明が製作主任を担当した映画としても有名。 (日本映画専門チャネル)


山本嘉次郎監督は並行して他作品の制作も行っていたため、制作主任だった黒沢明が実質B班監督として参加している。そう言われて見ると、確かに後の黒沢映画に通じるようなシーンやセリフ回しが感じられる。いや、黒沢が師匠の山本嘉次郎を踏襲したのかもだが。

撮影には足掛け3年を要するが、こんな脚本を東宝の上層部は認めなかった。山本は当時売れっ子監督で、一本の映画に3年も専念させるわけにはいかなかったのだ。そこで山本は一計を案じ、陸軍省馬政課に脚本を持ち込んだ。馬の産出を奨励していた担当課であるそこで制作に「お墨付き」をもらい、陸軍省は東宝に制作を「厳命」した。そんな経緯があるので、映画冒頭に陸軍省大臣東条英機の推薦文が掲載されている。

だが、決して軍国主義的な要素を全面的に押し出した作品ではない。監督自身が「セミ・ドキュメンタリー映画」と称したように、ドラマはフィクションだが、舞台や背景はリアルそのもの。戦前戦中の東北の農村での馬文化や村の様子を克明に描き出している。南部の曲屋(まがりや)や、馬市の様子、放牧場の風景等々の描写など、この映画が「貴重な映像資料」と言われる所以である。

ドキュメンタリータッチの作風は、過剰な演出を排するとともにリアルな説得力・力強さに満ちている。今時の馬の映画はべたべたしたヒューマンドラマが邪魔に感じることが多いが、そんな傾向は一切なし。まさに私はこういう馬の映画が観たかったのだ♪


主演はこのとき17歳の高峯秀子。東北の農村の娘役をピュアな感覚で演じきっている。黒沢明と恋におちたと言われるのはこの映画の撮影のときらしい。が、親の反対もあって実らず。以後、彼女は黒沢映画に殆ど出演することはなかった、という悲恋のエピソードもある。


主役の馬は映画の中のセリフからすると、「アングロ・ノルマン種」。小学校の先生をして「ノルマンは足が強いから軍馬にむく」と言わしめる。サラとノルマンを交配したもので、頑強で程よい軽さを併せ持ち、旧日本軍では「軍馬といえばノルマン」とまで言わしめた。
でも単騎疾走しているシーンは尻尾がひょいと上がっていて、「アラブかよ?」と突っ込んでしまった(笑)。

映画では軍馬として徴用されるまでが描かれているが、実際にはその先の運命は過酷なものであった。「軍馬哀歌(めんこい仔馬)」というサイトには、映画「馬」のモデルになった勝山号や徴用軍馬についての詳述がある。戦争中300万頭もの馬が徴用され戦場に送られたが、生きて故郷に戻れたものはほとんどいなかったのである。


歌謡「めんこい仔馬」はこの映画の主題歌として作られたのだが、映画の中では歌われていない。が、映画を離れて大ヒットした。YouTubeに掲載されているこの唄のバック映像はこの映画そのものである。




馬の映画としても満足できるものであっただけでなく、戦時中の日本にこのような素晴らしい作品があったとは驚きであった。本当に良い映画に巡り会えた。

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