新・徒然煙草の咄嗟日記

つれづれなるまゝに日くらしPCにむかひて心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく紫煙に託せばあやしうこそものぐるほしけれ

フランス人間国宝展を見逃す手はない!

2017-10-09 19:21:12 | 美術館・博物館・アート

きのう、2週連続東京国立博物館(トーハク)に出かけてきました。
先週は、予定外の上野動物園を見物したことから、運慶展だけを観て帰ってきたもので(記事はこちら)、総合文化展と、気が向けば「フランス人間国宝展」を観てこようという魂胆でした。

私がトーハクに到着して、本館平成館の間にある喫煙所で一服したのは11:30頃だったのですが、運慶展入場待ちの列が池の周りをほぼ半周していました。

この時点で入場待ち60分とな
先週、私は、15:30頃から、まったく待ち時間なし運慶展を観たのですけれど、これはこれは…
並ぶのがイヤなら、午前中を避けた方が無難かも…

で、まずは総合文化展を見物しました。

きのうの総合文化展での収穫の一つ目は、岩佐又兵衛の作品群でした。
右に載せた「雲龍図」の他、「老子出関図」「本性坊怪力図」「伊勢物語 鳥の子図」4点が出展されていました。
ここまで岩佐又兵衛の作品を並べるなら、「洛中洛外図屏風 (舟木本)も展示して欲しかったゾ。

ただし、「洛中洛外図屏風 (舟木本)」でもそうだけど、岩佐又兵衛の描く女性って、あまり魅力的でない (左に載せたのは「伊勢物語 鳥の子図」(部分))

一方で、美人画の代表的絵師・喜多川歌麿さすがでした
きのうの収穫二つ目は、喜多川歌麿「台所美人」

喜多川歌麿「台所美人」

日常生活の中のありふれたシーンながら、食事の支度や後片付けに精を出す女性たちの魅力的なことといったら…
描かれた女性たちの着物は、歌麿の作品では例外的に地味なんですけどねぇ
見事ですなぁ~

そして、きのうの収穫三つ目は、私としては珍しく禅画です。

慈雲「達磨図自画賛」(18~19世紀)という作品で、画面の下に殴り書きされたような達磨図がなんともシュール

大胆ですなぁ~。

ところで、作品の雰囲気とか題材からして、慈雲さんって禅僧かと思ったのですが、真言宗の高僧だったと知って、あれ? って感じ。
でも、Wikipediaによれば、

その後、信濃に曹洞宗の僧侶の大梅を訪ね、禅も修行した。

だそうで、納得

こうしていつものように総合文化展を楽しんだあと、「フランス人間国宝展」が開催されている表慶館へ向かいました。

   

この展覧会は、

日本の通称「人間国宝」(重要無形文化財保持者)にならい、1994年、フランスにおいて「メートル・ダール(Maître d’Art)」という称号がつくられました。本展覧会は、この「メートル・ダール」の認定を受けた13名の作家と、まだ認定はされていないものの、素晴らしい作品を制作している2名の、合計15名の工芸作家の作品およそ200件を紹介するものです。フランスの伝統技術に現代の息吹を加え、革新的に工芸の世界を牽引するフランスの匠たちの世界を紹介するとともに、関連イベントも数多く開催し、国境を越えた手仕事の魅力と未来を、次世代の若者にも幅広く紹介します。

日本の「人間国宝」の制度にならってつくられた制度とは、へぇ~ です。
朝日新聞の記事
によれば、

今回のキュレーターで在日フランス大使館の文化担当官を務めたこともあるエレーヌ・ケルマシュテールさんは「日本と違って、フランスでは伝統工芸の技が滅びかねないという危機感が薄い。メートルダール創設は技の保護が大きな目的」と説明する。

だそうで、これまた「文化大国」フランスにしては意外な事情があるようです。
ちなみに、日本の「人間国宝」の制度は1950年に始まったのだそうで、美術・工芸の分野に限れば、1890年に始まった帝室技芸員制度までさかのぼることができます。
案外、日本も捨てたもんじゃないと思ったりして…。

さて、私は東京国立博物館パスポートを使って入場しました。
東京・京都・奈良・九州の4国立博物館常設展なら発行から1年間は何度でも無料で、4館の特別展6展まで観られるこのパスポートは、今年3月で発行が終了し、国立博物館メンバーパスに移行しました。私のパスポートはこの「フランス人間国宝展」で特別展のスタンプが満杯になってしまいまして、常設展フリーパスの機能のみ、それも残り1ヶ月を切ってしまいました。

「国立博物館メンバーパス」にしても、トーハクの「メンバーズプレミアムパス」にしても、これまでの東京国立博物館パスポートに比べると、コストパフォーマンスずいぶんと劣る(実質値上げ)なんだよな…

そんなことから、ちょっと感傷的になりながら、第1室「陶器」へ…。

と、おわぁ~

天目茶碗ズラリと並んでいます (写真はこちらのサイトから拝借)

作者のジャン・ジレルさんは、

陶芸作家。1947年生まれ。宋の時代の陶芸技術を学び、40年以上に渡り「曜変天目」の研究を続けている。世界の陶器メーカーの技術コンサルタントを多数務め、スミソニアン博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、故宮博物院(北京・台湾)など、国内外の博物館で作品が所蔵されている。
2000年 メートル・ダール認定

だそうで、その研究成果がズラリと並んでいるわけで、どの茶碗も美しいったらありません
それぞれの茶碗が、その茶碗だけの星空を内側に抱え込んでいるみたい…

世界に4個しか現存していない天目茶碗最高峰曜変天目茶碗と呼ばれるためには、

内側の黒い釉薬の上に大小の星と呼ばれる斑点(結晶体)が群れをなして浮かび、その周囲に暈天のように、瑠璃色あるいは虹色の光彩が取り巻いているものを言う。この茶碗の内側に光を当てるとその角度によって変化自在、七色の虹の輝きとなって跳ね返ってくる。これが曜変天目茶碗にそなわっていなければならない不可欠の条件である。

だそうですが、近いうちにジャン・ジレルさんは曜変天目茶碗をつくってしまうのではないかとさえ思いました。

冒頭から打ちのめされた感のあるフランス人間国宝展、初めて耳にする工芸がいくつかありまして、その一つが「麦わら象嵌細工」(リゾン・ドゥ・コーヌ)というもの。

なんでも、麦わらを切り開いて、それを丹念に並べて土台に埋め込んでいく(象嵌)する技法らしいのですが、展示されている作品と麦わらとがまったく結びつかず、う~むでした。

また、「紋章彫刻」というジャンルも初耳でした。
でもこちらは現物(微細な彫刻を施した金属製の円柱)を見ると、はは~んメソポタミアの円筒印章みたいなものだと判りました。

ジェラール・デカン「方舟」

実際、これを粘土の上で転がして、それを焼き上げたものが展示されていまして、いろいろな種類の動物たちが行進している図柄で、「ノアの方舟に乗った動物たちか?」と思ったら、案の上、この円筒印章のタイトルは「方舟」(ジェラール・デカン)した。

この他にも、とにかく繊細な和紙の壁紙(フランソワ=グザヴィエ・リシャール)、どことなく発祥の地の日本(木の薄板を重ねたり、紙を折りたたんだ構造の扇は日本生まれなんだそうな)の香りが漂う感じの扇(シルヴァン・ル・グエン)、セレブ御用達っぽい傘(ミシェル・ウルトー)とか羽根細工(ネリー・ソニエ)蜷川幸雄さんの芝居に使われそうな重厚な折り布(ピエトロ・セミネリ)とか、見どころ満載っつうか、目からウロコが落ちっぱなしでした。

そして、極め付きは、ロラン・ノグさんのエンボス加工(ゴフラージュ)
「エンボス加工」というのは、紙に凹凸をつける、あのエンボス加工のことなんですが、一枚の紙がとんでもないことになっていました
私だけでなく、作品に近づいて、正面から観たり、下から観たり、斜めから観たりする人がいらっしゃいました。

お土産に、エンボス&箔押し加工されたカードを買ってきました。
これはロラン・ノグさんの作品ではないのですが、なかなかのもの。
スキャンすると、

なんじゃこれ… なんですが、斜めから光を当てて写真に撮ると、

パリの道路や建物がエンボス加工されているんです。
なんともおしゃれなカードでしょ。
でもさすがにお値段は800円と、ちょっとお高め…。
でも図録2,800円もしたので、このカードと、

ジャン・ジレルさんの天目茶碗のポストカード(150円)で我慢しましたとさ。

2014年2月に、トーハク人間国宝展を観てきて、いたく引きこまれ(記事はこちら)、その年に観た展覧会のTOP 3に選んだ私ですが、日本の人間国宝の方たちが、伝統技法を用いて伝統的な作風を直線的に発展させようとしていた感じだったのに対して、フランスのメートル・ダールの方々は、伝統技法を用いて現代にマッチする個性的な作品を創り出そうとしている感じがしました。
すべての作家さんがそんな傾向なわけではありませんけれど、日本人とフランス人の伝統に対する考え方や感覚の違いなのかもしれませんな。

で、会場内は、展示室によっては、照度を周期的に変化させていまして、なかなか面白い展示方法だと思いました。

そして、なによりも、こんなセレブ系の展覧会には、表慶館が合う

展示建物の両方を楽しめますぞ。

運慶展相当なものですが、フランス人間国宝展見逃しちゃもったいないと思います。
お薦めです

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