白鑞金’s 湖庵

元ノラ猫タマと愉快な仲間たちの日記・エッセイ・コラム。

電通に労働局が立ち入り 長時間労働、全社で常態化疑い(2)

2016年10月14日 | 日記・エッセイ・コラム

ジラールによる暴力の存在論。

「こうした現実性の剥奪は、人間に、彼の暴力の人間的性格を包みかくす神聖化の過程と直接つながっている。畸型の分身が神であるということ、その分身がまったくの想像的なものであるということは、結局は、異なった手段によって同じ結果に到達することである。かつては宗教的なものに帰属していた機能を見事に果して、現代において宗教的なものの代りをつとめるのは、宗教的なものにたいする完全な無理解である。わたくしの知る限りでは、ドストエフスキーだけが本当に、最初は『分身』で、つぎには円熟期の傑作の中で、蝟集する怪物たちの背後にある、具体的な相互性のさまざまな要素を見極めた唯一の人である」(ジラール「暴力と聖なるもの・P.253~254」法政大学出版局)


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ドストエフスキーから続き。

「スメルジャコフ:わたしはまた大旦那さまの窓の下に駆け戻って、こう言いました。『あの方がここにいらしてます。アグラフェーナ・アレクサンドロヴナがいらして、戸を開けてくださるようおっしゃってます』すると大旦那さまは子供のように全身をびくりとさせて、『こことはどこだ?どこにいる?』と息を弾(はず)ませはしたものの、まだ信用なさらないんです。『あそこに立っておいでです、ドアを開けてください!』とわたしが言っても、窓からわたしを眺めて、半信半疑の様子で、ドアを開けるのを恐れていらっしゃるんです。これは俺をこわがっているんだな、とわたしは思いましてね。こっけいなことに、突然、例のグルーシェニカがいらしたという、窓枠(まどわく)をたたく合図を、旦那の目の前でやってみようという気になったんですよ。ところが、わたしの言葉は信用なさらなかったようなのに、わたしが合図のノックをしたとたん、すぐさまドアを開けに走ったじゃありませんか。ドアが開きました。わたしは中に入ろうとしかけたんですが、大旦那さまは立ちはだかって、ご自分の身体で通せんぼしているんです。『あれはどこだ、どこにいる?』わたしを見つめて、ふるえているんですよ。いや、俺をこんなに恐れてるんじゃ、まずいな、と思いました。部屋に入れてもらえないんじゃないか、大声をたてやしないか、あるいはマルファが駆けつけるとか、何事か起りゃしないかと思うと、わたし自身も恐ろしさで足の力が萎(な)えてしまいましてね。そのときはおぼえていませんが、きっと真っ青(さお)な顔で大旦那さまの前に立っていたことでしょうよ。わたしはささやきました。『ほら、あそこに、窓の下にいらしてます、ごらんにならなかったんですか?』『それじゃお前が連れてこい、連れてきてくれ』『でも、こわがってらっしゃるんです。叫び声に怯えて、茂みに隠れていらっしゃるんです。行ってお部屋からご自分で声をかけてあげてくださいまし』大旦那さまは走って、窓のところへ行くと、蠟燭を出窓に置いて、『グルーシェニカ、グルーシェニカ、そこにいるのかい?』と声をかけました。そう叫びながらも、窓から身を乗りだそうとはなさらず、わたしから離れようとしないんです。それというのも、ひどくわたしを怖れはじめていらしたので、その恐怖心から、わたしのそばを離れる勇気がないんですよ」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.231~233」新潮文庫)


「恐怖心から、わたしのそばを離れる勇気がない」。それだけだろうか。ジラールのいう「相互的暴力」の概念から考えてみよう。二人は二人とも同時に相手の「暴力的」存在価値を高め合っていることに気づかないわけにはいかない。この意味でイワンにとってスメルジャコフはどう見ても《畸型の分身》たらざるを得ず、従って二人は同時進行で動く、まるで「そっくり」な暴力の二つの塊でしかなくなってくると指摘しておくべきだろう。

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「スメルジャコフ:わたしは窓に歩みよって、身体をずいと乗りだすと、『ほら、いらっしゃるじゃありませんか、茂みのところに。笑ってらっしゃいますよ、お見えにならないんですか?』と言いました。大旦那さまはふいにそれを信じて、ぶるぶるふるえだしました。なにしろ、ぞっこん参っておいででしたからね。そして、窓からずっと身を乗りだしたんです。そのとたん、わたしはテーブルの上にあった例の鋳物の文鎮を、おぼえておいででしょう、あの一キロ以上もありそうなやつを、あれをひっつかんで、ふりかぶるなり、うしろから脳天めがけて打ちおろしました。悲鳴もあげませんでしたよ。ただ、ふいにがっくり崩れ落ちただけでした。わたしはさらに二度、三度と殴りつけた。三度目に、頭蓋骨(ずがいこつ)を打ち砕いたのを感じましたっけ。大旦那さまは突然、血まみれの顔を上に向けて、仰向けにころがったんです。わたしは自分の身体に血がついていないか、返り血を浴びていないかを調べたあと、文鎮をぬぐって元のところに置き、聖像画のうしろへ行って、封筒から金をぬきとると、封筒は床に棄て、例のバラ色のリボンをそのわきに放りだしました。そして全身をふるわせながら、庭におりたんです。わたしはまっすぐ、あの洞(ほら)のあるリンゴの木のところへ行きました。あの洞をご存じでしょう。わたしはだいぶ前からあれに目をつけていて、あの中にぼろ布と髪をしまっておいたんです。ずっと前から手筈(てはず)をととのえておいたんですよ、札束を全部紙にくるんだあと、さらに布で包んで、奥深く突っこんでおきました。だから、この札束は二週間以上あそこに置かれていたんですよ。取りだしたのは、退院後の話です。わたしは自分のベッドに戻って、横になると、恐怖に包まれて考えました。『もしグリゴーリイが本当に殺されてしまったとすると、ひどくまずいことになりかねないぞ。しかし、まだこときれずに、息を吹き返してくれたら、もっけの幸いだ。なぜって、そうなりゃ、あの人がドミートリイ・フォードロウィチの来たことの証人になってくれるだろうし、つまり、あの方が殺して金を持ち去ったことになるからな』そこでわたしは一刻も早くマルファを起すために、不安ともどかしさから呻きだしたのです。婆さんはやっと起きだして、わたしのところへとんでこようとしかけたのですが、ふいにグリゴーリイがいないのに気づいて、とびだして行きました。やがて庭で婆さんの悲鳴がきこえたんです。まあ、それから夜どおし例の騒ぎがつづいたんですが、わたしはすっかり安心していたんですよ」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.233~234」新潮文庫)

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「イワン:だが待てよ。じゃ、あのドアは?親父がお前だけにドアを開けたとすると、どうしたお前より先にグリゴーリイが、ドアの開いているのを見るはずがあるんだ?だってグリゴーリイはお前より先に見たんだろう?/スメルジャコフ:あのドアの件や、グリゴーリイが開いているのを見たという件ですが、あれはあの人の気のせいでしかありませんよ。はっきり言って、あれは人間じゃなく、頑固な去勢馬も同然ですからね。実際に見たわけじゃなく、見たような気がしただけなのに、もうテコでもあとへ引きませんや。あの人がこれを思いついてくれたのは、わたしらにとっては願ってもない幸運でしたけどね。なぜって、そうなれば間違いなくドミートリイ・フォードロウィチに嫌疑がかかりますからね。/イワン:おい。おい──もっといろいろききたいことがあったんだが、忘れちまったよ──片端から忘れて、混乱しちまうんだ──そうだ!せめてこの一点だけでも教えてくれ。なぜお前は封筒を開けて、その場で床に棄てたりしたんだ?なぜ、あっさり封筒のまま失敬しなかったんだい──さっき話していたとき、俺の気のせいか、お前はこの封筒に関して、そうしなければならなかったみたいに言っていたな──なぜ、そうする必要があったんだ、俺にはわからんよ。/スメルジャコフ:ああやったのには、それなりの理由があるんです」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.234~235」新潮文庫)

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スメルジャコフ:だって、もし勝手知った、慣れた人間なら、早い話がこのわたしのように、前もってその金を自分で見て、ことによると自分で封筒に金を入れるなり、あるいは封をして上書きするところを自分の目で見るなりした人間であれば、そういう人間が殺したとしたら、どういうわけで殺人のあと、わざわざ封を開けたりしますか。それも、そんな急いでいる場合に、それでなくたって、封筒に間違いなく金が入っていることを、確実に知っているのにですよ?反対に、たとえばこのわたしのような人間が強盗であれば、まるきり封など開けもせず、そのまま封筒をポケットに突っこんで、一刻も早くずらかるはずです。ところが、ドミートリイ・フェードロウィチとなると、話はまるきり別です。あの方は封筒のことは話にきいて知っているだけで、実物は見たことがない。ですから、かりに布団の下からでも見つけたとしたら、本当に例の金が入っているかどうかを確かめるために、少しも早くその場で封を切るにちがいないんです。しかも、あとで証拠物件となることなぞ、もはや考える余裕もなく、封筒をその場に棄ててしまうはずですよ。なぜって、あの方は代々の貴族で、常習的な泥棒じゃなく、これまでに一度として何一つ盗んだことがありませんからね。それに、今度だってあの方が盗む決心をなさったとしても、それはいわば盗みじゃなく、自分の金を取り返しに来ただけなんですから。だって、前々からそのことは町じゅうに触れまわっておられましたし、前からみんなに、乗りこんで行って親父から自分の金を取り返してくると、おおっぴらに自慢していたくらいですからね。わたしは尋問のときにこの考えを検事さんに、はっきり言ったわけじゃなく、むしろ反対に、自分ではわかっていないような顔をして、ちょいと匂わせておいたんです。検事さんが自分で思いついたことで、わたしが教えたわけじゃない、といった按配(あんばい)にね。だからあの検事さんは、わたしのこのヒントに涎(よだれ)を流してしたほどですよ──」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.235~236」新潮文庫)

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「イワン:お前はそんなことまですべて、あのとき、あの場で考えぬいたのか?/スメルジャコフ:とんでもない、あんな急いでいる中でそこまで考えられるもんですか?すべて、前もって考えぬいておいたんです。/イワン:じゃ──じゃ、つまり悪魔の助けがあったんだ!いや、お前はばかじゃない。俺が考えていたより、ずっと頭がいい──。おい、お前は不幸な、卑しむべき人間だな!俺がいまだにまだお前を殺さずにきたのは、明日の法廷で答えさせるためにとっておくんだってことが、お前にはわからないのか。神さまが見ていらっしゃる。ことによると、俺にも罪があるかもしれないし、ことによると俺は本当に、親父が──死んでくれることを、ひそかに望んでいたかもしれない。しかし、誓って言うが、俺にはお前が考えているほどの罪はないし、ことによると、全然お前をそそのかしたことにならぬかもしれないんだぞ!そう、そうだとも、俺はそそのかしたりしなかった!しかし、いずれにせよ、俺は明日、法廷で自分のことを証言する。決心したんだ!何もかも話すんだ、何もかもな。しかし、お前を連れて出頭するからな!法廷でお前が俺に関して何を言おうと、どんなことを証言しようと、俺は甘んじて受けるし、お前を恐れたりしない。こっちこそ、何もかも裏付けてやるよ!しかし、お前も法廷で自白しなけりゃいかんぞ!必ずそうしなけりゃいけない。いっしょに行くんだ!そうするからな!/スメルジャコフ:あなたはご病気なんですよ。こうして拝見していても、まったく病人ですもの。目はすっかり黄色くなっているし。/イワン:いっしょに行くんだ!お前が行かなくたって、、どうせ俺が一人で自白するからな」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.236~238」新潮文庫)

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「スメルジャコフ:そんなことには、なりゃしませんよ。あなただって、いらっしゃりはしませんとも。/イワン:俺の気持ちが、お前なんぞにわかるか!/スメルジャコフ:何もかも自白なさったりすれば、あなたはあまりにも恥さらしなことになりますよ。何より、まるきりむだですよ。なぜって、わたしははっきりこう言いますからね。あなたにそんな話をしたおぼえはない、あなたはご病気のせいか(たしかにそうらしいですしね)、でなけりゃお兄さまを気の毒に思って、ご自分を犠牲になさったうえ、わたしにでっち上げの罪を着せたんだ、それというのも今までずっと、わたしを人間と見なさず、どうせ蠅(はえ)くらいにしか見ていないからなんだ、とね。それに、あなたの話をいったいだれが信用しますか、あなたはたとえ一つでも何か証拠がありますか?/イワン:おい、あの金を俺に見せたのは、もちろん俺を納得させるためだろうが。/スメルジャコフ:この金を受けとって、お持ち帰りください。/イワン:もちろん持って行くさ!しかし、この金ほしさに殺したとしたら、なぜこれを俺によこすんだ?/スメルジャコフ:わたしにはこんなもの、全然必要ないんです。前にはそういう考えもございましたよ。これだけの大金をつかんで、モスクワか、もっと欲を言えば外国で生活をはじめよう、そんな考えもありました。それというのは、『すべては許される』と考えたからです。これはあなたが教えてくださったんですよ。あのころずいぶんわたしに話してくれましたものね。もし永遠の神がないなら、いかなる善行も存在しないし、それにそんなものはまったく必要がないって、あなたは本気でおっしゃっていたんです。だからわたしもそう考えたんですよ。/イワン:自分の頭で到達したのか?/スメルジャコフ:あなたの指導によってです。/イワン:してみると、金を返すからには、今度は神を信じたってわけだな?/スメルジャコフ:いいえ、信じたわけじゃありません。/イワン:じゃ、なぜ返す?/スメルジャコフ:もうたくさんです──話すことはありませんよ!あなたはあのころ、すべては許されると、始終言ってらしたのに、今になってなぜそんなにびくついているんです、ほかならぬあなたが?おまけに自分に不利な証言までしに行くなんて──ただ、そんなことにはなりませんけどね!あなたは証言しに行ったりしませんよ!/イワン:まあ見ていろよ!」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.238~239」新潮文庫)

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「スメルジャコフ:そんなはずはありません。あなたはとても賢いお方ですからね。お金が好きだし。わたしにはわかっています。それにとてもプライドが高いから、名誉もお好きだし、女性の美しさをこよなく愛していらっしゃる。しかし、何にもまして、平和な充ち足りた生活をしたい、そしてだれにも頭を下げたくない、これがいちばんの望みなんです。そんなあなたが、法廷でそれほどの恥をひっかぶって、永久に人生を台なしにするなんて気を起すはずがありませんよ。あなたは大旦那さまそっくりだ。ご兄弟の中でいちばん大旦那さまに似てきましたね、心まで同じですよ。/イワン:お前はばかじゃないな。これまで、お前はばかだと思っていたよ。今のお前は真剣なんだな!/スメルジャコフ:あなたが傲慢(ごうまん)だから、わたしをばかだと思ってらしたんですよ。さ、金を受けとってください。/イワン:明日、法廷でこれを見せてやるさ。/スメルジャコフ:誰も信じやしませんよ。幸い、今ではあなたにはご自分のお金がたくさんおありだから、手文庫から出して、持ってきたとしか思わないでしょうね。/イワン:もう一度言っておくが、お前を殺さなかったのは、もっぱら、明日のために必要だからだぞ、それを肝に銘じておけ、忘れるなよ!/スメルジャコフ:いいですよ、殺してください。今殺してください。それもできないでしょうに。以前は大胆な方だったのに、何一つできやしないんだ!/イワン:いずれ明日な!/スメルジャコフ:待ってください──もう一度その金を見せてください。──さあ、もうお帰りください──。イワン・フョードロウィチ!/イワン:何の用だ?/スメルジャコフ:さようなら!/イワン:明日までな!」(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟・下・P.239~241」新潮文庫)

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ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」からの引用は以上。下僕であればあるほど高まるスメルジャコフの快楽。スメルジャコフはイワンの破滅を見届けることに至上の快楽を見い出している。しかしその仕組みについてだけのことならバタイユの著作を幾つか読めば誰にでもわかる。それより他に気になることはないだろうか。例えばその一つに、なぜドストエフスキーは、この種の悦楽について、とっくの間に熟知していたのかという問いが残っているという点。機会があれば述べてみたいと思う。さらに調べるためには専門書が必要なのだがあいにく資金がない。日本経済がこの調子では、まったくもって、いつになるやら心もとないというほかない。

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