白鑞金’s 湖庵

元ノラ猫タマと愉快な仲間たちの日記・エッセイ・コラム。

自由律俳句──二〇一七年五月五日(1)

2017年05月05日 | 日記・エッセイ・コラム

二〇一七年五月五日作。

(1)美味しい湯加減がたゆとう

(2)土踏まずを知っている気の利く深夜帯

(3)新調した回覧板もう夏の匂い

(4)聞かせるラジオだったどこへ

(5)連休ほぼ墓碑銘

(6)季節をなくした死んでいる

☞「予科練とは、海軍飛行予科練習生の略で土浦(つちうら)に学校があり、祖父はそこを出てパイロットになったと聞いている。二郎は、中学四年生で予科練を受けた。通常なら三年近い教育期間があるのだが、昭和十九年では搭乗員不足により、その半分で卒業、二等飛行兵から一気に飛行兵長になった。兵の一番上で、その上は下士官、二等飛行兵曹、陸軍で言えば伍長になる。(満十八歳で兵長か──)」(睦月影郎「永遠のエロ・P.13~14」二見文庫)


BGM1

戦記物はどれでもそうだが、ポルノ小説ではその最低限の諸条件をどう描き込むかで、極限状況の下のリアリズムという面ではまるで違ってくる。臨場感と言えばよいかも知れない。しかし極限状況という言葉は文学のフィールドでは専門用語だ。従って、手始めは作法通り、時代考証から始めなければならないだろう。その点、睦月影郎の表現様式はポルノ小説のフィールドでは有名人の中に入っていながらも、なお精進の痕跡をありありと見い出すことができる。 だが時代考証という面から見れば、戦闘行為の後に性行為があったのか、性行為の後に戦闘行為があったのか、さらには特定の人間を取り換えて同時進行していたのか、一旦テキストとして目を通してみなければわかるはずがない。なお、「戦闘行為の後に性行為があったのか、性行為の後に戦闘行為があったのか、さらには特定の人間を取り換えて同時進行していたのか」、という問題系は’十七年代の日本の防衛相が、与えられた権利と義務を精密に点検・遂行すること、あるいはしないことと、ただならぬ関係を保っていると言わねばならないだろう。

BGM2

「畳の上に寝そべっていて一見怠惰とも無為無関ともみえた人たちも、二、三ヶ月の間担当していると、その人たちなりに、かなりの力動のなかで生活していることがわかってくる。閉鎖病棟に閉じ込められた患者集団には、それなりの特異な秩序あるいはシステムが出来上がっていることに気づかされる。一つの『社会』が築かれているのだ」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.69」みすず書房)


例えば、鬱病でも症状がひどい時は「畳の上に寝そべっていて一見怠惰とも無為無関ともみえ」る。「怠惰」どころかむしろ逆に患者本人は精神の中で、精神と共に、精神としても、悶え苦しんでいるわけだが。

BGM3

「とくに時代劇映画に見られるような『牢名主』と目される患者がいるわけではない。しかし、一患者を中心にした二、三の立派な交換社会が形成されている。もちろん、その社会に属さない患者たちも少なくないのだが」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.69~70」みすず書房)

「交換社会」はほとんど必ずと言っていいほど見られるのではないだろうか。勿論、今のような即時対応可能な社会福祉制度が数十年も掛けて取り組んできた成果のうちの一つでしかない。このような「交換社会」の成立は比較的長期の入院患者らの間で今なお見られる。マルクスは「資本論」の冒頭付近で「交換社会」の成立過程を描き出した。もっとも、長期入院者が多かった時代と比較すれば厚生労働省の手元の資料にあるように、同様の患者同士で或る種のゲットーが作られるシーンに直面することはそれほど無くなったことは確かだ。治療方法と治療薬の進歩と言えるだろう。しかし今生き残っている統合失調症患者の中に占める長期入院者にとって病棟内での「交換社会」は暗黙の裡の法のままだ。当時の様相が今なお実際にあるというのは、しかし、何を語っているだろうか。

BGM4

「その一つはオヤツの交換であろうか。閉じられた空間で生活する人たちにとって、口唇欲求はここでその満足を許されるもっとも強い欲求なのであろう。食事時、何の合図もないのにその時刻になると、彼らはこぞって廊下に列をなして配膳車の来るのを待っている。相当に人格水準が低下したとみなされる患者ですら、この待機は秩序立ってなされている」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.70」みすず書房)

「待機は秩序立ってなされ」、とある。軍隊ほどではないし、軍事パレードほど華々しいわけではないが、言語化すればまさにその通りだ。

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「病院食はさほど粗悪なものではなかった。学生時代、質素な食事に耐えてきたせいか、私の味音痴のせいだろうか。ただ、入院してきた患者のうちで、この病院食を『ご馳走だ』と評する人が少なからずいて心を動かされたことを覚えている。この時代、庶民の生活はまだまだ貧しかったのだ」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.70」みすず書房)

少なくとも九〇年代後半には随分改善された。にもかかわらず、長期入院者に関する社会的偏見は一向に衰えないばかりか逆に増殖しているかのように見える。なぜだろうか。

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「当時は家族との面会ですら、家族への暴力、無理な要求を抑えるべく、あるいは病棟に何か危険物が持ち込まれるのではないかとの懸念のもとに、看護者の立ち合うのが通例であった。その面会時に差し入れられた煎餅や飴などが、その場に立ち合った看護者の許可を得て患者に手渡される」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.70」みすず書房)

いわゆる「自腹を切る」患者も中にはいる。面白くもあり悲しくもある。そういう日常をもう三〇、四〇年ほども送り続けている患者もいる。

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「面会を終えて病室に戻ると、彼らはたちどころに他の多くの患者たちに取り囲まれ、その当人は必死にこのオヤツを守らなければならない。すぐにも奪い合いの犠牲者となる人もいる。弱い患者は強い患者にこのオヤツの一部を差し出して他の患者から守ってもらおうというシステムも出来上がっている」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.70~71」みすず書房)

上下関係を軸とした人間関係を作って上位に君臨したがる患者は確かにいる。少なくない。しかしもっと遥かに多いのは、症状として「脱構築」してしまっていて上下関係などまったく何ら意に介しなくなっている重症の統合失調症者だ。彼ら彼女らはドゥルーズ&ガタリのいう意味での「脱コード化」を、そのまま生きている、と言うべきか、とにかく「そのまんま」なのだ。彼ら彼女らの出現は支離滅裂なことが多い。「交換社会」の階層秩序が支配的になっている時間帯に重度の統合失調症者がひょこひょこ現われると、たった今まで支配的だった階層秩序など目撃する暇さえなく音を立てて崩壊する。崩れ落ちる轟音が奇妙な静けさをたたえて聞えてくるような錯覚にすら陥る。加えれば、笑ってしまうほかなさそうな事態さえ時折経験する。

BGM8

「その最たるものはタバコであろうか。家族の経済事情により一日五本から十本ほど許されて支給されるタバコは、患者たちにとってもっとも貴重なもの、『交換貨幣』とまでなっている。タバコ一本が煎餅五枚~十枚と交換される。ある患者などは空き缶に数十本もの煙草を蓄え、それを死守するかのように肌身離さず所持していた。ときどき他の患者からオヤツを取り上げ、その対価としてタバコ一本を手渡したりしている」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.71」みすず書房)

まだ誰も起きていない早朝、ではなく、真っ昼間。捨てられた「しけもく」を拾い集めて病棟から病棟へ渡り歩く患者も居る。そのわけは後で知った。すべてが同一の症状でないことは言うまでもない。

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「卓球やマージャンにも、それなりのルールがあるようであり、もちろん賭けマージャンの賭け金はタバコであった」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.71」みすず書房)

マージャンはやらないが卓球ならやりたいと思ったことがある。残念なことに気楽に使える卓球台がなかった。本当に残念。野球のための道具なら幾らでもあったのだが──。

BGM10

次の文章は忘れられてはならないだろう。

「なお、錆びた鉄格子の隙間から『閉じ込められている、助けてくれ!』『警察に連絡してくれ!』などと書かれた『投げ文』が1号館から外の道路に飛ばされる光景も記しておかねばならない。この『投げ文』は、一九八四年の時点でも宇都宮病院で頻発していた」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.71」みすず書房)

忘れていけないのには理由がある。フーコーが一連の著作で論じたように、実際に目に見える鉄格子に代わって、目に見えない鉄格子が圧倒的スピードで普及してきたからだ。

BGM11

「また、1号館二階廊下の西南の一角には若い人たちがたむろして2号館女子病棟東北にいる女の子たちと愛の交換をしている場面も見られた。彼ら彼女らは鉄格子を隔ててしか愛の交換ができない。精神病院に入院を余儀なくさせられている人たちにとって『性』はどのように扱われているのか、今でもふと思う」(松本雅彦「日本の精神医学 この五〇年・P.72」みすず書房)

閉鎖病棟はどうなっているのだろう。残念ながらよく知らない。男女別になっていることはよく知っているし、周囲にもよく知られているわけだが。

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