『反転』は特捜部の検事を辞めて弁護士になり、詐欺で実刑判決を受けた田中森一氏の自伝。
悪い奴ほどよく眠っているんだなというのが感想。
田中氏が検察を辞めた理由の一つが、旧平和相銀不正融資事件、苅田町公金横領事件や三菱重工CB発行事件などの捜査に横槍が入ったことらしい。
その時の検事総長は「巨悪は眠らせない」はずの伊藤栄樹氏である。
著者が辞めたいきさつを書いた文藝春秋の記事にこうある。
「伊藤検事総長になってから、大きな事件はなにもやってないんですね。着手はするけれども、全部途中で挫折している。(略)平和相銀事件は政治家に行く前に終結宣言をしてしまったし、苅田町の公金横領じけんも代議士に触らずにやめてしまった。(略)三菱のCB(転換社債の乱発)事件も、強制捜査すらできずに終わった。これでは一線の検事たちに何もするなといっているのと同じですよ」
ええっ、伊藤栄樹氏の『人は死ねばゴミになる』というガン闘病記を読み、宗教観には賛成できないが、真面目に仕事をする人だなと好印象を持ったのに、とがっかり。
田中氏は
「検察は行政組織として国策のことも考えなければならない。しぜん、時の権力者と同じような発想をする。実際、検察エリートは国の政策に敏感だった。(略)そのときの国の体制を護持し、安定させることを専一に考える。だから、そもそも検察は、裁判所に較べると、はるかに抑止力が働く組織なのである。(略)時の権力と同じ発想で捜査を指揮するから、国益に反すると判断すれば内部で自制する」
と書いているわけで、伊藤氏は「悪い奴ほどよく眠る」ほうが国益になると考えたのだろうか。
それと、こんなことまで書いて田中氏は大丈夫なのだろうかと思ったが、だけど『反転』が出版され、ベストセラーになることで何かが変わるかというと、そんなことはないだろう。
そう考えると脱力感におそわれる。