三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『ブタがいた教室』と『豚のPちゃんと32人の小学生』2

2009年04月06日 | 映画

仏教では、衆生とは人間のことでなく、すべての生き物という意味である。
豚も人間も同じ衆生だから命の重さは同じ。
そうは言っても肉を食べる。
そこで、三種浄肉、すなわち「殺されるところを見ていない」「自分のために殺したと聞いていない」「自分のために殺したと知らない」肉は食べてもよいとされる。

あまりにもご都合主義の屁理屈だと思ったが、『ブタがいた教室』を見て合理的な考えではないかと思った。
というのも、どこかで割り切らないと何も食べれなくなるからである。
たとえばこんな話がある。

廬山慧遠だったと思うが、亡くなる時に慧遠が「のどが渇いた」と言うので、弟子が重湯を飲ませようとする。
ところが、時刻は正午を過ぎており、正午を過ぎたら食事はできないという戒律がある(不非時食戒、八戒の一つ。『西遊記』の猪八戒の八戒。豚は猪を品種改良したもの。何やらつながりがあるようなないような)。
それでお湯に蜜を溶かしたものを飲ませようとしたが、しかしこれは食べ物か、それとも飲み物か、戒律ではどうなっているのか、というので調べているうちに慧遠は亡くなってしまった。
こういった杓子定規さはおかしいと思うが、だからといってすぱっと割り切って悩まないことがいいとも思わない。
バランスですね。

で、命の重さということだが、豚や蚊やハエの命だって大切だし、殺された人の命も殺した人の命の重さも等しいはずだ。
娘さんを殺された木下建一氏「被告の生命も、あいりの命も、私の命も、一人一人大切なものではないかと考えるようになった」「世界に1つだけだったあいりの命と同じように、被告の命にも何か意味があるのではないか」と言われている。
木下氏も6年2組の子どもたちのように、奪われるかもしれない命を目の前にして割り切れずに悩んでいるのかもしれない。

日本には死刑制度があるのだから死刑判決があるのはやむを得ないとは思うのだが、光市事件で裁判長が死刑判決を言い渡した時、広島高裁に集まって大きな歓声と拍手をした数百人の人たちには、豚のPちゃんをどうするか悩んだ子どもたちの爪の垢でも飲んでほしいと思う。

で、人の命は地球よりも重たいと言うが、人の命と100万円とどっちが大切か。
もしも家族が誘拐されて身代金を100万円要求されたら、サラ金からでも何でもお金を借りるだろうと思う。
では、身代金が10億円だったらどうするか。
石油王のポール・ゲッティの孫がイタリアでマフィアに誘拐され、300万ドル、3億円の身代金を要求された。

ポール・ゲッティの息子は自分の子どもを救うために父親に金を出してもらうよう頼む。
ポール・ゲッティは大金持ちだから300万ドルぐらいどうということはない。
が、ポール・ゲッティという人は大金持ちだけどケチで有名な人で、身代金は払わないと言った。
孫はたくさんいるのに、誘拐されるたびにいちいち払っていられないというわけだ。
マフィアは孫の耳を切り取り、封筒で親に送りつけた。
これを知ったゲッティは300万ドルを支払ったという。

エチオピアの難民キャンプで働いていた日本人女医が誘拐され、身代金300万ドルの要求されたという事件があった。
身代金を支払わずに無事解放されたのだが、もしもあくまでも身代金を要求された場合、家族は払えないだろうから、日本政府が払うしかない。
以前、イラクで3人の日本人が人質になって日本政府が身代金を払った時には、この3人はすごく非難された。
女医さんの命と3億円、どっちを取るか。
ポール・ゲッティじゃないけど、日本人が誘拐されるたびに3億円も払っておれない。
じゃ、どうしたらいいのか。
これもそう簡単に答えの出る問題ではない。

Pちゃんを飼ったことでいわゆる〝教育効果〟があったかどうかはわからないが、子どもたちに何か(たとえば考えることの大切さ)が残ったに違いないと思う。

『豚のPちゃんと32人の小学生』の解説をテレビディレクターの西谷清治氏が書いているのだが、ドキュメントがテレビ放映された後、こういう抗議の電話があったという。
「お前は誰だ。名前を言え。そんな作品を放送するやつは、暗闇の中で殺してやる。今から宣伝カーをテレビ局の前に持って行ってがなりつけてやるからな!」
「命をナンダと思っているんだ」
「あの先生の名前を教えろ。豚の代わりに殺してやる」

うーん、この人たちは豚肉を食べないのだろうか。
そういえば、連続殺人事件が起き、犯人の動機は被害者たちが動物を虐待したから、というユーモアミステリーを読んだ記憶がある。
人間の命よりも動物の命のほうが大切だという、その手の人が現実にも存在するのかもしれない。

コメント
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