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生き残りを賭けて石油を奪いに行くアメリカ       バンタ笛吹

2008年05月17日 11時12分24秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
★TUP平和のための翻訳者たちという会があり、平和・環境・非戦などをテーマにエッセイを発表しています。全国投票の会の寺尾さんからそのエッセイの中から良いものの転送依頼がありました。
 なかなか参考になる内容なので転載します。 <まもる>
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「イランは心配いらん」だといいが・・・


TUP エッセイ
著=パンタ笛吹

2008年5月2日

先日、イラン旅行で知り合ったイラン人から、小さな写真集が送られてきた。各ページに美しいモスクやそこに暮らす人びとの様子が鮮やかに映し出されている。しばし印象深かった旅の思い出にひたった。

ところがこの数日間、イランについてのキナ臭い報道が立て続けに流され、まるでイラク戦争前のデジャヴュを見ているような気にさえなってきた。イラン旅行中に「もし米軍の空爆が始まったら、怖くはないのですか?」と現地の人びとに聞いたとき、日本語をうまく話せるイラン人が駄ジャレのつもりか「イランは心配いらん」と笑いながら答えてくれた。でもいま、わたしは内心で心配になっている。

ペルシャ湾には現在、2組目の米航空母艦攻撃グループが向かっている。「空母ハリー・S・トルーマンと空母エイブラハム・リンカーンの2隻も配備するのはエスカレーションではないのか?」との記者の質問に、ロバート・ゲイツ米国防長官は、「2隻が配備されるのは一時的なもので、エスカレーションだとは思わない。しかし、湾岸の利益を守るという米軍の決意をイランに思い出させる役目は果たすだろう」と答えたと、昨日(5月1日)の英ガーディアン紙は報じた。

先月には、レバノン沖に2隻の米海軍戦艦が配備された。米ニュース&ワールドによると、「米国はイランへの軍事行動が開始されたときに備えて、地中海東岸にも戦艦を配備したかった」ということだ。

5年前、イラク侵攻が始まったとき、開戦の動機がいくつか論議された。そのひとつがドルの防衛である。「サダム・フセインが石油の輸出をドル建てからユーロ建てに替えたので、基軸通貨であるドルを守るためにイラクに攻め込んだ」という説を主張する専門家が少なからずいた。

奇しくもゲイツ発言の一日前、イラン石油省の高官がイラン国営放送テレビを通じて、「米ドルはわが国の石油取引から完全に排除されることになった。原油輸入国はこれから、ヨーロッパではユーロ建てで、アジアでは日本円建てで取引することに合意した」と発表した。イランによるこの決定で、基軸通貨として米ドルが築いてきた地位は、足場の一角を崩されたわけだ。

ブッシュ政権はこの数週間、イランによる脅威をことさらに強調する発言を繰り返している。軍事作戦も辞さないという勢いだ。マレン米統合参謀本部長は、4月25日の記者会見で、「イラン政府やその精鋭部隊の策動をきわめて憂慮している。イラクの民兵組織への武器供与や訓練を拡大しているからだ。われわれは、イランに対しての軍事行動の計画をすでにいくつも立てている。もしイランが、『米軍はイラクとアフガニスタンで、にっちもさっちもいかなくなっている』と考えているのなら、それは間違いだ。わが軍、特に海軍と空軍は、もう一つの戦場で他国を爆撃する能力を温存している」とイラン攻撃の可能性を示唆した。

また、その前々日の23日には、イラク駐留米軍のペトレイアス司令官が米中央軍の新司令官に任命されたと発表された。前任のファロン司令官は、「わたしの目の黒いうちは、絶対にイラン爆撃などさせない」とイランへの軍事行動反対の最先鋒だったので解任されたといわれている。ペトレイアス新司令官は先月の上下院公聴会でも「イランがイラクの民兵組織を通じて多くの米兵を殺している」と発言したほどのタカ派だ。「ペトレイアス新司令官の任命で、イラン攻撃のお膳立てはそろった」との論評も新聞に掲載された。

チェイニー副大統領による3月の中東各国歴訪も、イラン攻撃への準備のためと受け取られている。実際、ABCニュースのレポーターがトルコ訪問中のチェイニーに、「中東諸国の人びとは、あなたがこの地域に来るということは、何か軍事行動の根回しのためだと思っていますが?」と質問すると、副大統領は、「そう、実際にはそれが重要な目的だ。イランの核装備を許したら、この地域は不安定極まりなくなるからね」と答えたという。

チェイニーがサウジアラビアを訪れると、翌日サウジ政府は、「イランのブーシェル原子炉が攻撃された場合を想定して、突然ふりかかる放射能汚染に対応する国を挙げての対策」を発表した。

また、元国連主任兵器査察官のスコット・リッターは、「ペンタゴンは、地下深部まで貫通するバンカーバスター爆弾や、それらを搭載できる爆撃機の追加を要請していたが、4月中にはすべての配備が完了するだろう」と語っていた。イランではもうすぐモンスーン(季節風)のシーズンが始まる。もしモンスーンの到来とともに爆撃が始まれば、放射能を含んだ灰は季節風に乗ってさらに東の国々(アフガニスタン・パキスタン・インド)にまで広がるという。

ブッシュ大統領はといえば、確たる証拠もないのに、イランがおよぼす脅威が、アルカイダと同じくらい危ないと、両方をいっしょくたにして、くりかえし訴えている。こうしてまた、米国人の意識の中で、イランとアルカイダが共通の敵として溶け合うようにしむけていると思われる。

大統領は4月10日の演説で、「イラクには、アルカイダの存在から、イランによる破壊的な影響まで、深刻で複雑な問題が残っている。今世紀、アメリカにとって最も脅威となる二つの勢力が、いまイラクに集結している。それはアルカイダとイランだ。もしわれわれが、アルカイダとイランがイラクに仕掛けた謀略を粉砕できるなら、それは世界のテロリスト運動に対して歴史的な一撃になとなり、イランにとってはきびしい敗北となるだろう」と訴えた。

アルカイダ・イラン、アルカイダ・イラン、アルカイダ・イランとお経のように繰り返すのは、イラク戦争前のアルカイダ・フセイン、アルカイダ・フセインのくり返しを思い起こさせる。またブッシュ大統領は同じ演説で、イランに向かってこう警告した。

「テヘランのイラン政府は、次の二つの道からひとつを選ばなくてはならない。その選択とは、隣国と平和に共存し、強固な経済的、文化的かつ宗教的なつながりを享受するか、あるいは、イラクの違法な民兵組織に武器や軍事訓練や資金を供給し続けて、イラク国民を恐怖におとしいれ、イランに敵対させるか。そのどちらかだ。もしイランが正しい道を選ぶなら、米国はイランとイラクの平和関係の醸成に手を貸すだろう。しかし、もしイランが間違った選択をするなら、われわれは米兵やアメリカの国益やイラクの友人を守るために行動に出るだろう」

プログレッシブ誌のマシュー・ロスチャイルド編集長は、この演説を聴いて、こう解説している。

「この『米国は行動に出るだろう』という言葉により、ブッシュ大統領は『イラン爆撃にゴーサインを送る』という意向を、やけにはっきりと表明している。
  
「わたしたちは、『イラクで米軍が泥沼にはまっているなかで、いくらなんでもイランにまで戦争を広げるほど、ブッシュはばかではないだろう』と自分に言い聞かせ続けることはできるだろう。しかし、『ばかさかげん』は今までいちどもブッシュの愚行を止まらせたことはない。

「だから、大統領の発言を、おろそかにしてはならない。ブッシュ政権は、テヘランのイラン政府に通告をしただけではない。米国会や米国民にも予告を発したのだ。この大統領は、またもうひとつ違法な戦争を計画している。そしてわたしたちは、非暴力なあらゆる手段を使って、なんとしてでも大統領の暴走を止めなくてはならない」

・・・では、大統領候補になろうとしている政治家たちは、イランに対してどんな態度を取っているのだろうか? 民主党のオバマ候補は「もしイランがイスラエルを攻撃したら、それに対応する適切な作戦行動をとる」と、まだ穏やかな方だ。しかしヒラリー・クリントン候補は、「自分が大統領になって、イスラエルが核攻撃を受けたら、イランを完全に抹消する」とテレビインタビューで答えた。この「完全に抹消する」(Obliterate)という英単語が使われるのは極めてまれで、わたしが知っている限りでは、以前、広島や長崎の原爆投下を表現する英文で見たきりだった。「市民・女性・老人・子供・赤ちゃんまで、すべてを完全に抹消する」ことを意味するこの単語には、背筋が凍るような響きを感じた。

イランのアフマディネジャド大統領が2005年10月に、「イスラエルは地図から抹消されるべきだ」と演説したことは許される表現なのかという疑問が浮かぶだろう。しかし中東政治の専門家であるホワン・コール教授や、ペルシャ語に詳しい学者たちは、あれは西欧のメディアがアフメディネジャド大統領の発言を「誤訳」したのであって、実際には大統領はアヤトラ・コメイニ師の昔の発言を引用して、「イスラエルの現政権は時代とともに消え去るだろう」と言ったにすぎないという。

フセイン政権が消えても、イラクが地図上から消えるわけではない。「別の政権に取って代わられるだろう」という意味の発言が「地図から抹消」に誤訳され、それがいまでも何かあるたびにイランを責め立てる絶好のネタとして使われている。それが国際政治の現状だ。

では共和党のマケイン候補はというと、「マックチェイニー」とニックネームを付けられるほど、ブッシュ政権と同じくらいタカ派だ。昨年4月に、YouTube を通じて話題になった替え歌をご存知の読者もいると思う。マケイン候補は講演のあとに、「イランについてどうしたらいいと思うか?」と質問を受け、マイクを持って、ビーチボーイズの歌のリズムに乗って、「ボムボムボム、ボム・イラン」(イランをボンボン爆撃しろ)と替え歌を歌った。イランをめぐる差しせまった状況を考えると、あの替え歌がただの冗談だったではすまされない。

今からほぼ10年前、チェイニー副大統領がまだ石油関連企業ハリバートンの最高経営責任者だったころ、ロンドンの石油学会でこう演説した。

「この地球に埋もれている石油資源には限りがあり、原油産出のピークは2010年くらいに訪れるだろう。そのピークの後は、石油が枯渇するのは時間の問題だ。だから残った石油を誰がコントロールできるかによって、誰が生きのび誰が死ぬのかが決まってしまう。世界の石油の6割は中東のカンサス州ほどの面積の三角地帯に埋蔵されている。だから、中東の三角地帯の石油資源を得る者こそが、究極の賞品を手にすることになる」

この三角地帯とは、サウジ・イラク・クェート・アラブ首長国連邦・イランを結ぶ三角形を指す。米国はすでにイラクを占領しているし、他の国々は親米政権なので、例外はイランだけというわけだ。

ジャーナリストのジョー・ローリアは、来るべき戦争はイランが核武装することを懸念して起きるのではなく、「石油が欲しいからよ、おばかさん」と説く。彼女は、アメリカがイランを侵略する理由を次のように解説している。

「それは、もはや欲深いためではない。アメリカが生き延びるためだ。米国の指導者は、もとはといえば欲深いために、石油にしがみつき、太陽光や風力や地熱などを利用して発電する再生可能な代替エネルギーへの移行をしぶった。今となってはもう手遅れだ。

「何兆ドルというお金をイラク戦争やそれに続く占領に浪費してしまった。そのお金を代替エネルギーの開発に使っていたら、まだ何とかなったかもしれなかったのに。もう先はどうなるか分からない。

「ただ確かに分かっていることがひとつだけある。それは今の戦争が民主主義のためでも、大量破壊兵器のためでもなかったということ。そして次に起る戦争も、イランの核兵器開発計画が原因ではない。イランの石油が欲しいからなの。わかった? おばかさん」


・・・という感じで書き綴ってくると、やはり「イランは心配いらん」ととぼけるわけにもいかない気がする。かといって「空に向かって平和を祈る」ほかに、自分にできることなど何もないことに気がつく。

「杞憂」という言葉がある。このエッセイこそただの杞憂であってほしいと、願うばかりだ。


コメント (3)
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