「ボツネタ」で,新たな合格者数の数値目標として,「年間9472人」という数字が議論されそうだという記事がありました。
http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/
正直言って「ふざけんな!」と言いたくなるところですが,昨日法曹制度の国際比較を詳細に行っている本を見つけたので読んでみたところ,そもそも西洋と東洋の「弁護士」像には大きな違いがありそうだということが分かってきました。
まず,日本の隣国である韓国と台湾では,弁護士の人口比率は概ね日本と似たり寄ったりで,弁護士になるのは日本の旧制度と同様,かなりの難関試験である司法試験と司法修習を経る必要があるそうです。司法試験は論文試験でも六法の持ち込みが認められていないため,日本以上に暗記重視の勉強になっているそうです。
つまり,東洋における「弁護士」像は,科挙の影響をひきずっているのか,司法試験はかなりの難関であるが,一旦弁護士資格を手に入れればその後の豊かな生活はある程度約束されている,つまり弁護士資格の取得自体にかなりの価値があるというものになっているのが分かります。
なお,韓国には日本の司法書士,行政書士,社会保険労務士などにあたる法律隣接業種が存在しており,この点でも日本によく似ています。
一方,アメリカや西欧諸国の「弁護士」は,資格を持っている人の数はやたら多いですが,そのすべてが日本の「弁護士」のような仕事をしているわけではなく,一般企業で仕事をしている人も結構いるようです。
日本人の感覚でいえば,法学部を卒業した人の大半が当たり前のように弁護士資格を取得し,企業で法務関係の仕事に従事している人や,あるいはそうでなくても法学部卒の社会人の多くは,実際に弁護士の仕事をしていなくてもとりあえず弁護士の資格だけは持っている,言い換えれば弁護士資格が行政書士や宅建並みの資格になっているという感じのようです。
もっとも,試験だけで資格を与えたのではさすがに質を維持できないので,どこの国も大学や研修施設などで所定の研修をみっちり受けさせることになっています。
年間合格者数9000人台という数字は,西洋的な「弁護士」像に照らせばそれほど奇異な数字ではなく,日本の「弁護士」像を東洋的なそれから西洋的なそれに変えてしまうことを意図しているのであれば,賛否はともかく考え方としてはまあ理解できないこともありません。
ただし,西洋的な「弁護士」像の形で貫徹するのであれば,まず質の確保は研修の義務づけで図ることになるのですから,司法試験の受験者全員に法科大学院の卒業を義務づけるのが筋であり,旧試験ルートや予備試験ルートは一切認めるべきではありません。
大学での教育を受けることも義務づけず,それほど難関でもない試験だけで法曹資格を与えている国は(少なくとも先進国中には)他にありませんし,そんなことをしたら法曹になる人は法律の勉強をする機会がなくなり,かえって質の良い法曹は育たなくなります。
次に,合格者数が年間9000人台になるのであれば,司法修習はもはや廃止するしかありません。受け入れはどうやっても不可能ですし,欧米諸国では司法修習に相当する制度はないことが多いです。
さらに,法科大学院を卒業して「弁護士」資格を得ても,その資格の価値はせいぜい行政書士か宅建レベルのものであり,その後の生活は全く約束されていないということを全国民に十分周知させる必要があり,誤解を防ぐため,新制度のもとで与える法曹資格も「弁護士」ではなく別の名前に変えるべきです(必ずしも「弁護」をする仕事ではなくなるので,「法律士」などとするのがよいでしょう)。
そうしなければ,東洋的な「弁護士」像を持ち続けている人が誤った認識のもとに法科大学院に入学してしまい,法科大学院は大学による単なる詐欺商法の道具になってしまいます。
規制改革・民間開放推進会議の人たちには,最低限以上のことは踏まえた上で議論してほしいところです。
P.S ロースクール制度の記事については,昨日読んだ本でより正確と思われる情報が手に入りましたので,週明けを目途に記事の一部書き直しを予定しています。
http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/
正直言って「ふざけんな!」と言いたくなるところですが,昨日法曹制度の国際比較を詳細に行っている本を見つけたので読んでみたところ,そもそも西洋と東洋の「弁護士」像には大きな違いがありそうだということが分かってきました。
まず,日本の隣国である韓国と台湾では,弁護士の人口比率は概ね日本と似たり寄ったりで,弁護士になるのは日本の旧制度と同様,かなりの難関試験である司法試験と司法修習を経る必要があるそうです。司法試験は論文試験でも六法の持ち込みが認められていないため,日本以上に暗記重視の勉強になっているそうです。
つまり,東洋における「弁護士」像は,科挙の影響をひきずっているのか,司法試験はかなりの難関であるが,一旦弁護士資格を手に入れればその後の豊かな生活はある程度約束されている,つまり弁護士資格の取得自体にかなりの価値があるというものになっているのが分かります。
なお,韓国には日本の司法書士,行政書士,社会保険労務士などにあたる法律隣接業種が存在しており,この点でも日本によく似ています。
一方,アメリカや西欧諸国の「弁護士」は,資格を持っている人の数はやたら多いですが,そのすべてが日本の「弁護士」のような仕事をしているわけではなく,一般企業で仕事をしている人も結構いるようです。
日本人の感覚でいえば,法学部を卒業した人の大半が当たり前のように弁護士資格を取得し,企業で法務関係の仕事に従事している人や,あるいはそうでなくても法学部卒の社会人の多くは,実際に弁護士の仕事をしていなくてもとりあえず弁護士の資格だけは持っている,言い換えれば弁護士資格が行政書士や宅建並みの資格になっているという感じのようです。
もっとも,試験だけで資格を与えたのではさすがに質を維持できないので,どこの国も大学や研修施設などで所定の研修をみっちり受けさせることになっています。
年間合格者数9000人台という数字は,西洋的な「弁護士」像に照らせばそれほど奇異な数字ではなく,日本の「弁護士」像を東洋的なそれから西洋的なそれに変えてしまうことを意図しているのであれば,賛否はともかく考え方としてはまあ理解できないこともありません。
ただし,西洋的な「弁護士」像の形で貫徹するのであれば,まず質の確保は研修の義務づけで図ることになるのですから,司法試験の受験者全員に法科大学院の卒業を義務づけるのが筋であり,旧試験ルートや予備試験ルートは一切認めるべきではありません。
大学での教育を受けることも義務づけず,それほど難関でもない試験だけで法曹資格を与えている国は(少なくとも先進国中には)他にありませんし,そんなことをしたら法曹になる人は法律の勉強をする機会がなくなり,かえって質の良い法曹は育たなくなります。
次に,合格者数が年間9000人台になるのであれば,司法修習はもはや廃止するしかありません。受け入れはどうやっても不可能ですし,欧米諸国では司法修習に相当する制度はないことが多いです。
さらに,法科大学院を卒業して「弁護士」資格を得ても,その資格の価値はせいぜい行政書士か宅建レベルのものであり,その後の生活は全く約束されていないということを全国民に十分周知させる必要があり,誤解を防ぐため,新制度のもとで与える法曹資格も「弁護士」ではなく別の名前に変えるべきです(必ずしも「弁護」をする仕事ではなくなるので,「法律士」などとするのがよいでしょう)。
そうしなければ,東洋的な「弁護士」像を持ち続けている人が誤った認識のもとに法科大学院に入学してしまい,法科大学院は大学による単なる詐欺商法の道具になってしまいます。
規制改革・民間開放推進会議の人たちには,最低限以上のことは踏まえた上で議論してほしいところです。
P.S ロースクール制度の記事については,昨日読んだ本でより正確と思われる情報が手に入りましたので,週明けを目途に記事の一部書き直しを予定しています。
安い、早い」リーガルサービスを求めています。
タクシー業界や歯科医の世界を見ればわかる
ように規制緩和をすると、サービス供給者の
立場は圧倒的に低くなります。
財界は、リーガルサービスが必要な時だけ
弁護士を派遣してもらえる「弁護士派遣」の
制度を提唱していますし、要するに、弁護士
報酬が高すぎて使いづらい今の制度を
改変するところに意図があるので、むしろ
「弁護士資格を価値のない資格に変える」
ところにその意義があるのではないでしょうか。
法科大学院、財界が組んで唱える弁護士9000人の大合唱に、果たして、法曹界は対抗できるのでしょうか。
「郵政民営化」の法曹番な気がします。
特殊利益に国民は見向きもしないのでは
という気がします。
ただ,郵政民営化がよい結果を生むとは限らないように,弁護士の数を爆発的に増やすことによって,財界の期待するようなサービスが実現するとは限らないと思います。
おそらく,勝手にやって勝手に後悔するような結果になるのではないでしょうか。
むしろ,食い詰めた(失礼!)弁護士が,アメリカでよく見る難癖型(?)消費者訴訟を濫発するようになり,逆に弁護士費用等のコストを増大させる可能性すらあると思われます(日本では考えにくいかもしれませんが)。
「経済界」の方々はそこまで考えた上で法曹人口の大幅増を要求しているのでしょうか。
いるようですよ。
既に、過去の2分の1~3分の1の水準で
交渉がまとまることもあるようです。
参照:司法試験合格者「アマケン」さんの
ブログの記事をご覧下さい。
>M&Aやファイナンス等,高度に専門化された分野>に関しては,当該分野の専門家が法曹全体の人口増>に合わせて増加していくという関係にない以上,
ここはそうも言えないと思います。
弁護士が増えたときに、爆発的に増える弁護士の
引き受けてとして期待されているのが大手事務所です。
また、大規模ローはどこも「ビジネス法務」を
売りにしており、今後はビジネスローヤーが激増し、
今後10年間で、現在のビジネスローヤー1000
人体制から3000人体制へ急拡大するとの
指摘もあります。
もっとも過激な主張の中には、「経済界として
今後8年間で海外の先進国並みの法曹人口を
実現するために年間9500人法曹を合格させろ」
との主張もあります。
上記ブログにもあるように,確かに「弁護士報酬の値崩れ」的現象が一部が始まっているという話も耳にします。
しかし,それは比較的専門性の低い,換言すればクライアントにとっていくらでも法律事務所のalternativeが存在する案件についての話であって,最先端あるいは最高度の専門性が必要な案件については(より安価な報酬を提示するalternativeな法律事務所が存在しなくなる結果),従前どおり高額な報酬水準が維持されるのではないかと,わたくしは思うわけです(イメージとしては最先端の心臓外科なり脳外科などといった分野を想定しています。これらの分野については,どれだけ年間に医者人口が増えようとも,そのコスト(報酬水準等々)が大きく低下するということは考えにくいのではないでしょうか)。
通りすがりさんのおっしゃるように,ここしばらくの法曹人口増はビジネスローを取り扱う大手事務所が引き受けることになるかと思われますが,結局のところは「経済界」の方々が意図したこととはむしろ反対の方向(リーガルコストの増大)に動いていくのではないかというのが,わたくしの漠然とした予感です。
5000人でも9000人でも、全員が同等に「優秀」と評価されることなく、試験成績その他の能力(言語、専門分野に関する知識、博士号、論文執筆、アメリカのLLMなど)が労働市場で重要となります。また、合格者が多いから、全員が平凡との誤解も避ける必要があります。日本で9000人になっても、試験成績上位500名は依然としているはずです。
なお、ドイツの現在の「9000人」は、司法修習を終えて法曹資格を獲得した人数です。日本と異なって、各州で司法修習生を教育するから、その数字でも何とか対応できます。日本も、研修所一箇所の集中教育を止めて、10箇所位を作れば、より多くの人数に対応できると思います。
黒猫の見解については,別記事を書きましたのでそちらをご覧下さい。
> ねどべどさん,通りすがりさんへ
弁護士数増大の影響については,いずれ別記事で書こうと思っています。
> Lenzさんへ
情報提供ありがとうございます。全体人数が多くなればなるほど,優秀な人とそうでない人の差は広がるでしょうね。
ただ,研修所については,東京と大阪の2箇所程度ならまだしも,10箇所も作ると教員の確保が難しいでしょうし,また現在でも全国で行っている実務修習の受け入れ先を確保するのは困難を極めると思われます。
十派一絡げに「欧米諸国」と書くと、無知をさらけ出すだけですから、お止めになった方がよろしい。修習制度がないという話であれば、おそらく英米法圏と言った方がより正確でしょう。