黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

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「共通到達度確認試験」構想の意味

2013-07-25 21:28:36 | 法曹人口問題・法曹養成制度総論
 5月に投稿した記事のうち3件について,現在goo事務局から公開停止の措置を受けています。詳しい停止理由の説明がないので対応は保留としていますが,当該記事については削除とする可能性があります。

 本題ですが,7月16日に行われた閣僚会議の決定について,小林正啓弁護士が自身のブログで『法曹要請関連閣僚会議の決定について』という記事を書いており,Schulze先生もこの記事に言及されています。
 黒猫は,当初小林先生の当該記事については無視するつもりだったのですが,Schulze先生もこれに言及されたことから関係者に誤解を与える可能性も否定できないので,一応黒猫も言及しておきます。

<参 照>
法曹養成関連閣僚会議の決定について(花水木法律事務所)
http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-4714.html
5年間は現状維持(Schulze BLOG)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52030523.html

 小林先生は,『法曹養成制度改革の推進について(案)』と題する閣議決定の柱は,実績が乏しい法科大学院に定員削減や統廃合を促すことや法的措置を検討することではなく,5年後に文科省が共通到達度確認試験を試行することであり,他の方策は確認試験実施の布石に過ぎないと主張されています。
 黒猫自身は,最初にこの記事を読んだとき,小林先生の主張は単なる猫の鳴き声に無理やり哲学的意味を求めるようなもの,要するに深読みし過ぎだという感想を抱いたのですが,そうは思わない人もいるようなので,まずは確認試験構想が浮上した経緯について説明しておきます。

1 中教審法科大学院特別委員会における構想
 政府の公表資料に初めて「確認試験」構想が登場したのは,中教審大学分科会法科大学院特別委員会の平成24年11月30日付け『法学未修者教育の充実方策に関する調査検討結果報告』です。
 同報告は,法科大学院でも特に法学未修者コースの教育が問題を多く抱えているということで,何とか未修者教育の質を向上させようという(場当たり的な)方策をいくつか取りまとめたものですが,その方策の一環として,未修者が1年次から2年次に進級するにあたり,共通到達度確認試験(仮称)を導入しようという考え方が示されました。
 もっとも,この段階では実施のスケジュールは明示されておらず,また確認試験の合格者に対し司法試験の択一試験を免除するという考え方については,一言も言及されていません。

2 検討会議における議論
 平成24年12月18日に行われた法曹養成制度検討会議の第5回会議では,文科省から『法学未修者教育に関する現状と課題,充実方策について』という資料が提出され,医師の国分委員から医学部の共用試験に関する説明資料が提出されました。
 医学部の共用試験は,4年次から5年次への進級時に実施される試験ですが,平成13年3月に文科省のガイドラインで共用試験導入の方針が示された後,平成14年から4回のトライアルを経て,平成17年12月から開始されています。法科大学院の確認試験はこれに倣ったものであり,医学部の共用試験が構想から実施までに5年近くかかっているので,確認試験の導入にも同じく5年くらいかかる,という方向性はこの時期に示されたものと考えられます。
 もっとも,平成25年4月9日に公表された『中間的取りまとめ』では,確認試験の導入について言及されているものの,実施時期については「早期実現を目指す」と書かれるにとどまり,また確認試験の合格者に司法試験の択一を免除するなどという方向性は示されていませんでした。

3 唐突に出現した「座長試案」
 中間的取りまとめに対するパブコメを経て,5月30日の第13回会議では中間的取りまとめの内容とは大きく異なる「座長試案」がいくつか示されましたが,そのうちの1つである『座長試案(法科大学院に対する法的措置等について)』では,次のような記述があります。

「共通到達度確認試験については,法科大学院生が自らの学修成果を客観的に把握し,その後の学修に活かせるようにするとともに,法科大学院が法科大学院生に対する指導の際の参考資料とすることができるようにするなどの法科大学院教育の質の向上の観点から,法学未修者だけでなく,法学既修者も含めた制度として制度設計すること及び将来的に司法試験と連動させること(例えば,短答式試験の免除等)も含めて,新たな検討体制において検討するものとする。」

 この「座長試案」は,検討会議における従前の議論を踏まえたものでもなければ,別にパブコメの意見を踏まえたものでもありません。ただ,パブコメで批判的な意見があまりに多かったので,中間的取りまとめの内容ではこの場を切り抜けられないと判断した官僚たちが,いわゆる「天の声」で急遽場当たり的な改革案をいくつか入れさせた,というものに過ぎません。
 確認試験については,まず「法学未修者だけではなく,法学既修者も含めた制度として制度設計する」と書かれていますが,文科省の構想における確認試験は法学未修者が1年次から2年次に進級する際に実施する試験であり,2年次から履修を始める既修者に対し確認試験を実施することは不可能です。
 それでも強いてやるとすれば,おそらく既修者の入学試験として確認試験を導入することになりますが,それなら既修者コースにおける確認試験の成績は予備校教育の成果であり,どう言い繕っても法科大学院教育の成果であるということは出来ません。
 なお,1年次から2年次への進級時ではなく,2年次から3年次への進級時に確認試験を実施するのであれば既修者もその対象になりますが,このような方策では法科大学院教育全体が確認試験に縛られてしまうことになるので,中教審の構想では「画一的な実施はふさわしくない」という否定的な見解が示されています。
 確認試験を「法学既修者も含めた制度として制度設計する」という考え方は,要するに法科大学院の仕組みも文科省における議論も全く踏まえていないものであり,このような考え方に対しては,学者出身の井上委員や鎌田委員も難色を示しています。おそらくは法科大学院の仕組みすらもよく知らない官僚の誰かが,場当たり的に「既修者にも確認試験を実施すべき」などと言い出したのでしょう。
 次に,司法試験の短答式試験(択一試験)の免除という考え方も,座長試案で唐突に打ち出されたものですが,確認試験の合格者に司法試験の択一を免除するというのであれば,必然的に確認試験は択一試験の前倒し実施という性格を帯びることになります。
 このような批判を受けて,取りまとめでは「なお,共通到達度確認試験は,あくまでも法科大学院における学修の達成度を確認するためのものであり,司法試験における短答式試験そのものを前倒しするものではない。」という文言が挿入されていますが,実質的な択一の前倒し実施になってしまうことを回避するための具体的な方策は何一つ示されていません。

4 閣僚会議決定における方針
 7月16日の閣僚会議決定では,検討会議における取りまとめの方針が是認されましたが,確認試験については取りまとめに書かれていなかった具体的なスケジュール案が明記され,①文科省では確認試験の基本設計や実施について2年以内に検討を行う,②閣僚会議では確認試験のうち法律基本科目について2年以内に検討を行う,③文科省はこれらの検討を受けて,5年以内の試行開始を目指して確認試験の実施準備を行うものとされています。
 ここで「5年以内の試行開始」とされたのは,やはり医学部共用試験の実施に5年近くかかったというのがその論拠になっているとしか思えませんが,以上に見てきたとおり,確認試験は構想そのものが文科省の当初考えていたものとは異なる内容になってしまっており,文科省の思惑どおりに事が進んでいるとは言えません。
 また,確認試験のうち法律基本科目の試験については,文科省ではなく閣僚会議の下で検討を行うとされている点にも注意が必要です。法科大学院内部の試験であれば文科省がやればよいところ,下手に司法試験の択一免除という方針を入れてしまったため,おそらくは法務省から横槍が入ったのでしょう。
 このスケジュールの下では,確認試験の実施に関する事項は文科省と法務省の激しい利害対立を調整する形で決められ,それを踏まえて文科省が実施準備を行うことになりますが,医学部の共用試験ではこのような省庁間の利害対立が無かったことを考えると,本当に5年以内に試行まで漕ぎ着けられるのかは疑問の余地があります。

5 「小林説」の問題点
 このような経緯を踏まえて小林先生の記事を改めて読んでみると,小林先生は閣僚会議決定が文科省の主導で行われたことを前提として,「確認試験の実施は,択一試験を事実上文科省の管轄に移すということだ」「その意味するところは,法科大学院の教育内容に合わせた試験問題を作成することにある」「文科省は,確認試験合格者の5割から7割が論文試験に合格するものとして制度設計を行うつもりだろう」などという自説を延々と述べていますが,閣僚会議決定そのものが必ずしも文科省の思惑通りに運んでいない以上,小林先生の推測は明らかに的外れであることが分かります。
 また,法科大学院制度は既に入学者数の激減で破綻状態にあり,制度自体は今後も維持すると宣言したところで,そのまま5年間も現状を放置すれば,法科大学院ではなく予備試験が法曹養成の主たるルートとして定着してしまうことは目に見えています。
 定評があるとされる法科大学院のうち,早稲田と中央は来年にも入学者数の激減が始まるでしょう。慶應も再来年には激減が始まるかも知れません。入学者数自体は維持されている東大・京大・一橋なども競争倍率はじりじりと下がっており,入学者の質は相当に下がっているでしょう。あと5年間あれば,法科大学院最後の砦といえる東大ローや一橋ローでも大幅な定員割れが始まるかも知れません。
 このような状況の下では,入学者数一ケタ程度の下位ローがいくつか細々と生き残っていたところで,それが大勢に影響を与えることはありません。法的措置までやって下位ローを潰しても,それによって定評があるとされる法科大学院が生き残れるなどという立論は,全く成り立たないのです。
 本気で法科大学院制度を守りたいのであれば,予備試験を廃止するか受験資格制限をかけるなどの措置が必要なのは明らかであり,文科省もできればそのような措置をやりたかったでしょうが,実際には予備試験制度の見直しは「2年以内に結論を得る」と書かれるにとどまりました。おそらくは,法務省が反対しているのでしょう。
 閣僚会議決定では,「プロセス」としての法曹養成制度,すなわち法科大学院制度を維持するという方針自体は確認されましたが,そのための具体的方策は,予備試験の見直し等も含めて大半が「2年以内に結論を得る」などという表現にとどまっており,閣僚会議決定が実質的な2年間の問題先送りだという理解は,全く正しいものであると言わざるを得ないのです。
 何とかその場しのぎをすることしか考えていない官僚にとって,「5年以内の試行開始を目指す」というのは,「遠い未来にやるかも知れない」程度の意味しかありません。法曹養成制度に関する数多くの施策の中で,場当たり的に浮上してきた挙げ句かなり遠い未来に先送りされたものが政策の柱であるなどという立論は,官僚政治の現実を全く見ていないものと言わざるを得ません。

6 おわりに
 検討会議の第15回会議では,法曹養成制度に関する自民党と公明党の提言についても議論の対象になりましたが,その中で,自民党の提言内容を読んだ田島委員は次のように発言しています(議事録6頁参照)。

「自民党が本当にここまで切り込んだ議論をしたのかというぐらい驚きました。非常に積極的に国民のためを思ってこれだけの切り込みをしているというのは,私たちは相当参考にしなくちゃいけないんだと思う。
 もちろん,今そういうことを言っても仕方ないですから,次にやろうとしているところを相当実の上がるようなものにしないと,官主導型といいますか,役所主導型のそれぞれの利害関係,対立する役所がそれぞれ自分たちにとって都合のいいものをただただまとめて,やれるようなものになってしまったらこんな検討会などやっても何の意味もないと思います。


 この発言からも分かるとおり,検討会議の取りまとめや閣僚会議の決定は,有識者たちが真剣に議論を交わし合った結果を反映したものではなく,一つの官庁がその思惑通りに操ってまとめたものでもなく,対立する役所(主に文科省と法務省)がそれぞれ自分たちにとって都合のいいものをただまとめて,その妥協の上に成立したものに過ぎないのです。
 同じ官僚政治でも,一つの官庁が主導権を発揮できるのであれば,まだ論理的に一貫性のある政策が実現できるでしょう。今の法曹養成制度が置かれた状況は,いわば瀕死の病人を目の前にしながら,複数の医師が治療方針をめぐって激しく対立し,肝心の治療が全く進まないといった状況に似ています。官僚主導の弊害はまさにこの点にあり,弊害がもろに現れている法曹養成制度の下では,小林先生が想像するような,一人の頭で考えた深遠な構想に基づく政策などは実現しようがないのです。
 一方,田島委員も指摘しているとおり,自民党の司法制度調査会では,法曹養成制度の問題について非常に切り込んだ議論がなされており,その中間提言も検討会議の取りまとめとは大きく方向性の異なる内容になっているのですが,閣僚会議決定がこのような調査会の提言を踏まえたものにならず,単に対立する役所間の妥協の産物になってしまったことは,非常に残念です。
 本来は国家全体・国民全体の利益を考えて官僚を統制すべき立場にある政府与党が,実際には政治家として自分の意見も言えず,役所間の利害対立にいいように振り回されています。このような政府・自民党が,さらに深刻な利害対立の問題を数多く含んでいる様々な構造改革・成長戦略を本当に実施できるのでしょうか。
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2 コメント

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公開停止はgoo事務局による言論弾圧 (あ)
2013-07-27 12:30:51
>5月に投稿した記事のうち3件について,
>現在goo事務局から公開停止の措置を
>受けています。


たとえば黒猫先生がブログ上で重大犯罪の教唆でもしたとかいうのならともかく、そうでないのに「公開停止」とかありえないです。goo事務局はブログ主の投稿の内容を検討して「公開停止」にするんですか?言論弾圧以外のなにものでもない。
朝日新聞の声の欄など大手マスコミに訴えて、世論を喚起するべきでしょう。
Unknown (Unknown)
2013-07-27 22:51:18
予備試験ではどうするんでしょうね?
共通到達度確認試験を経ていないから、
7科目短答実施になるんでしょうか?

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