平成17年、最後の日である。
最後の日。
前日、この年最後の買い物を済ませたつもりだった。
友人宅から帰宅後、父を行き付けの居酒屋に車で送り、帰路の途中スーパーに立ち寄って正月三ヶ日分の食材を買い込んでいた。
大晦日は、外出しない。そう決めていた。
しかし。
朝、母が突然、市内の大丸(デパート)へ買い物へ行ってくれと言い出した。
突然である。
今は大晦日。市内、市外ともに混雑である。
電車で市内に向かっても、大丸へは電車を乗り継ぎ、最寄駅から徒歩で、約一時間半ほどかかる。
買い物の所要時間を抜いても、約三時間以上。
ヘルパーさんや父の補助を受けられるにしても、実質母への緊急時の介助はなしの状況になる。
心配だ。
しかし、母の求める事、希望する事、わがままは全て聞く。
そう自分で決めていた。
だから、私は遠い市内へ電車で向かった。
買い物には予想以上の時間がかかった。
母の誕生日のプレゼントを購入していたからだ。
母の誕生日は1月1日。元旦に生まれたのだ。
大丸とは別の、最寄のデパートで大きな犬のぬいぐるみを購入した。
母は身体がほとんど動かない。
だから、愛玩動物のぬいぐるみを贈ることにした。
これ以外の選択肢は浮かばなかった。
結局、予定を二時間オーバー、買い物には五時間以上の時間がかかった。
母は、父がちゃんと介護していてくれて、普通の状態だった。
その後、母は老眼鏡を買ってきて欲しいと言った。
大晦日の、夜に近い夕方の時刻だった。
父は「こんな日にメガネ屋はやってないから、行く必要はない」と行ったが、私は母の言う事は全て訊くと決めていたので、車で出かけた。
メガネ屋は大晦日の日にも開店しており、老眼鏡を購入できた。道も思いのほか混んでおらず、大した時間もかからずに、買い物を済ませることが出来た。
しかし。
なぜ大晦日という日に市内のデパートへの買い出し、帰宅後にわざわざ別の買い出しを頼むのだろうか?
このおかげで、この日に予定していた家の掃除が出来なくなった。
母は、私がわがままを全て訊くことを見越して、あえてわがままを言っているのだろうか。
この年末最後の日に、母への疑心暗鬼の気持ちが、鎌首を持ち上げる。
どうか来年は、いい年でありますように。