帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔五十九〕河は

2011-05-02 01:51:59 | 古典

 



                                帯とけの枕草子〔五十九〕河は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、君が読まされ、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔五十九〕河は

 

河は、あすか川、ふちせも定めなく、いかならんとあはれ也。大井河。音なし川。みなせかは。

みゝと川、又も何事を、さくじりきゝけんとおかし。たまほし川。ほそ谷川。

いつぬき川・さはだ川などは、さいばらなどの思はするなるべし。

名とり川、いかなる名を取たるならんときかまほし。吉野川。

あまのかはら、たなばたつめに宿からんと業平がよみたるもをかし。

 

  文の清げな姿

 川は、飛鳥川、淵瀬も定めなく、どうなのだろうと感慨深い。大井河、音無川、水無瀬川。

 耳敏川、何事を探り聞きだしたのだろうかとおかしい。玉星川。細谷川。

五貫川、沢田川などは催馬楽などが思われるでしょう。

名取川、如何なる名を取ったのか聞きたい。吉野川。

天の川原、七夕姫に宿を借りようと業平が詠んだのも趣がある。


 心におかしきところ

女は、飛ぶ鳥のとりとめもない女、不二背も定めてなく、どうなのだろうと哀れである。大井女、おとなしい女、見無背かは。

耳敏女、またも何事をさぐり聞くのだろうかとおかしい。玉欲し女、細谷かは。

五貫川・沢田川などは催馬楽など思われるでしょう。

名取り女、如何なる評判を取ったのか聞きたい。見よしのの・好しのかは。

あまのはら、七夕姫にやと借りようと、業平が詠んだのもおもしろい。

 

言の戯れと言の心

「河…川…水…女」「井…女」「ふち…淵…深い…情の深い…ふぢ…不二…二人と居ない」「見なせ…覯なし背…見無し男」「見…覯…まぐあい」「瀬…背…夫…男」「細…ほめ言葉」「谷…女」「名…名声…評判」「よしの…吉野…好しの」「川…女…かは…だろうか…疑問を表す」。

 


 催馬楽の貫川は
 貫河の瀬々の、柔ら手枕、柔らかに寝る夜はなくて、親割くる夫、親さくる、妻は、ましてるはし、しかさらば、矢矧の市に、沓買ひにかむ、沓買わば、せんがいの細しきを買へ、さし履きて、うは裳とり着て、宮路通はむ。

 「親さく…親割く…親が二人を引き離す…親が邪魔する」「せんがいの細敷き…刺繍飾りの細敷き…しやれてきゃしゃな浅沓…貴夫人の上沓(実物は正倉院御物にある)」。
それを履いて、裳の裾引いて、「宮こへの路」を通いたい。つまり、ゆっくりゆっくりと、抜き足差し足、感の極み(宮こ)へ通いたいと謡う。

 


 催馬楽の沢田川は、
 沢田川、袖つくばかりや、浅けれど、はれ、浅けれど、くにの宮人、高橋渡す
(沢田川、袖つくほどや、浅いのに、はれ、浅いのに、恭仁の都を造る宮人や、高橋掛け渡す……浅い女、端つくほどや、浅いのに、はれ、情浅いのに、くにの宮人や、立派な身の端かけわたす)。

 
  「沢田…沢や田のような…浅い…情の浅い」「川…女」「そで…袖…端…身の端」「高…高い…立派な」「橋…端…身の端…おとこ」。


 
「業平のよみたる歌」は伊勢物語にある。惟喬親王のお供をして渚の院より交野(現、大阪府交野市)で狩りをして、天の川(今も清水が流れている天野川)に至ったときに詠んだ。
  かりくらしたなばたつめにやどからん あまのかはらに我はきにけり
(狩して日が暮れ、七夕姫に宿を借りよう、天の川原に我は来てしまったなあ……女かり暮らし、たなばた姫にや門かりよう、ついに天女の腹にまで我は来てしまったなあ)。

  
「かり…狩り…めとり…女あさり」「暮らし…夕暮れを迎える…暮らし続けている」「宿…や門…女」「あま…天…女」「はら…原…腹」。

 


 催馬楽も和歌も物語も、このように歌われ、語られてある。しかし、残念ながら、今では、全ての「心におかしきところ」が聞こえなくなったままである。



 伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず  (2015・8月、改定しました)

 
枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子 (岩波書店)による