帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百八十一〕陰陽師のもとなる小童こそ

2012-01-18 00:05:31 | 古典

  



                                          帯とけの枕草子〔二百八十一〕陰陽師のもとなる小童こそ



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百八十一〕をんやうじのもとなるこわらはべこそ


 文の清げな姿

 陰陽師のもとにいる小童こそ、とってもよくものごとを知っている。祓えなどしに出ると、祭文など読むのを、人はやはり聞いている。小童はさっさと立ち走りして、酒、水をい掛け、注げとも言わないのにしてまわる様子の、例を知り、少しも主人にもの言わせないのが羨ましいことよ、このような者がいればねえ、使いたいと思うよ。


 原文

 をんやうじのもとなるこわらはべこそ、いみじう物はしりたれ、はらへなどしにいでたれば、さいもんなどよむを、人は猶こそきけ、ちうとたちはしりて、さけみづいかけさせよ、ともいはぬに、しありくさまの、れいしり、いさゝかしうに物いはせぬこそ、うらやましけれ。さらん物がな、つかはんとこそおぼゆれ。


 心におかしきところ

 陰陽肢のもとの小さな童べこそ、とってもよく、ものの事は知っている。腹辺に出ると、さいもん(かみ・女に告げる言葉)など男が言うのを、女はやはり聞いている。童べは、さっさとたち走りして、「白さけ、をみなに射かけよ」とも言わないのに、しつづける様子の、いつものこと、少しも主人の男に、もの言わせない(勝手な振る舞い)こそ、心病んでいることよ、このような物よくも使おうなんて思うよね。


 言の戯れと言の心

 「をんやうじ…陰陽師…天文、暦、方位、祓等を司った陰陽寮の役人…おん陽肢…おとこ」「こわらはべ…ちいさな童子…おとこ」「はらへなど…祓えなど…(女の)腹辺」「さいもん…祭文…神に告げる言葉…上(女)に告げることば」「酒…白酒」「水…女」「うらやまし…羨ましい…心が病ましい…心の疾患」「うら…心」「物がな…者がいればなあ(願望を表す)…物なのになあ(疑問を表す)」「つかはんとこそおぼゆれ…使いたいと思うよ…(よくもまあ)使おうと思うよ」。



 主人の言うこと聞かず、先走って、いかけたり、伸縮したりするのは、「こわらはべ」の、すくせ(宿命)と知りまいょう。

 気のきかない家の使用人に皮肉を言ったのではない。この章も、宮仕えを志す若い女たちへの助言。感受性豊かで上手に自己表現するための情操教育か。この話に笑えれば合格でしょう。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。