帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (五と六)

2012-03-21 06:07:22 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首 (五と六)


 春ごとにかぞへこしまにひとともに おひぞしにける峰のわか松 
                                     (五)

 (春毎に数え来た間に、日と共に、老いたことだなあ、峰の若松……春情毎に、思火添え来た間に、火と共に、感極まったことよなあ、山ばの頂のわか妻)。

 言の戯れを知り、貫之のいう「言の心」を心得ましょう。

 「春…季節の春…春情…張る」「かぞへ…数え…香添え…火添え」「ひ…日…火…思火…情熱の火」「おひ…老い…おい…極まり」「峰…山ばの頂上…感の極み」「わかまつ…若松…若まつ…我がまつ」「まつ…松…待つ…女…妻」。


 

 きのふこそ早苗とりしがいつのまに 稲葉そよぎて秋風ぞふく 
                                     (六)
 (昨日だよ、早苗とり植えたの、いつの間に、稲葉そよいで秋風吹くの……起の夫こそ、さ汝枝とりいれたのよ、いつの間に、い根端ゆらいで、飽風ふいているの)。


 歌語に限らず言葉はすべて戯れる。清少納言の云うように「聞耳異なるもの、男の言葉、女の言葉」、即ち、我々の言葉は聞く耳によって意味の異なるほどのものであると知って、歌を聞きましょう。

「きのふ…昨日…起の夫…生の夫」「さなへ…早苗…さ汝枝」「さ…小…美称」「な…汝…親しいもの」「枝…身の枝…おとこ」「ば…葉…端…身の端…おとこ」「とりし…採った…握りしめた…とり入れた」「か…が…けれども…のに」「いなば…稲葉…いな端」「いな…稲…い根…おとこ」「そよぎて…そよそよとして…揺らいで」「あきかぜ…秋風…飽風…厭き風」「風…心に吹く風」。

 


 春の思火に感極まるわか妻の艶情、対するは、満ち足りぬ間にあき風吹くのを嘆く女の艶情。これらを、相闘うように両方ならべて書き記すのは、歌の艶情を際立たせるためで、編者としての紀貫之の思惑でしょう。

 


 伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず